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金山知明税理士事務所・国際税務コンサルティングオフィス

協調と説得

2022.03.08 13:10

去年完成させた博士論文では、納税者の税務コンプライアンス(特に自発的コンプライアンス)について、その発展に必要な施策(税務行政の姿勢とか、法規定そのものなど)は何かについて論じました。

そこでは、かつて主流だった脅威と制裁によるアプローチ(これと同じような意味で「命令支配アプローチ(command and control approach)」といったりもします)の限界が示されて、協調・説得アプローチの優位性が認められてきたことを前提に議論しました。

脅威・制裁アプローチは、一部の悪質な納税者の行動をその場では是正できるとしても、継続的なコンプライアンスの要因にはなりにくいし、ましてもともと善良で誇りある納税者に対しては逆効果となって、自発的コンプライアンス意識を害する傾向さえあります。

ただ、税務の世界は最終的には金銭の問題であり、脅威・制裁アプローチを採ったとしても、その相手の身体に危害を加えたり、直接命を奪ったりすることはありません。だから、いずれのアプローチが「望ましいか」という議論ができるわけです。

それと比べること自体無意味かもしれないですが、今行われているウクライナへの軍事侵攻は、どう見ても、個別の理由なく、突然に、平穏に暮らしている市民の命を奪う残酷な行為で、「望ましくない」などという次元ではなく、議論すら成立しないと感じます。

この10日あまりの報道をみていて目を疑うばかりです。今こんなに経済、金融、貿易、交通、通信、人的交流などあらゆる面で密接になり狭くなった(いわば相互依存の)国際社会にあって、大国が孤立を顧みずに他国に一方的に軍事力を行使することなど、もうあり得ない話だと思っていました。

それは甘かったとしても、突きつけられた脅威に向かっては、はたして脅威と制裁で対抗するしかないのだろうかと考えたりします。制裁の次の段階として、当事者以外のいくつかの国を交えた組織的(ただし非公式)な協調・説得アプローチで、脅威を自発的に減退させる方法があれば最善だと、専門外ながら思っています。

しかしすでにたくさんの人命が奪われているわけなので、それに対して国際社会がどんな報いを求めるかはまた別の話です。


日曜日の広島湾。右端にみえるのが宮島。