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特定生殖補助医療に関する立法案について(参議院浜田聡議員のお手伝い)

2022.03.09 08:07

 春ははるか先かな、春はあけボーノ。

 さて、昨日は参議院浜田聡議員のお手伝いに上がり特定生殖補助医療に関する立法案について検討してみました。生殖補助医療とは所謂不妊治療のことです。生殖補助医療法は2020年12月に既に成立していました。既に成立した生殖補助医療法の内容は第三者から精子や卵子の提供を受けて体外受精などの生殖補助医療で生まれた子について親子関係を定めたものでした。誕生と共に親子関係を確定させる規定であり、卵子の提供を受けた場合は出産した女性が母親となり、精子提供に同意した夫は生まれた子の父親となります。

 それまでの日本には生殖補助医療に関する法律はありませんでした。2003年以降、厚生労働省と法務省の審議会において法整備の意向で進めていましたが実現に至っていませんでした。その間にも精子提供による不妊治療は行われており延べ1万人以上が誕生したとされています。国会をはじめとした国は医療の進歩に対応することなく、その判断を学会任せにしてきたのです。

 2020年12月に生殖補助医療法が成立し漸くその一歩を踏み出すことができたということです。法律で精子や卵子の提供が可能となりました。併せて、不妊治療に対する補助金制度を廃し、大部分の不妊治療が保険適用となりました。

 一方、肝心の提供する為のルールが規定されていません。生殖補助医療法における生殖医療の在り方や医療機関の問題、生まれて来た子供の知る権利等の重要な論点が置き去りになっていました。生殖補助医療法には2年をめどに残された課題を検討することになっていましたので、この機会に残された重要課題の解決を図る法規定となる必要があります。

下記:IZAサイトより(産経新聞報道)

 それを受けて超党派の議連である生殖補助医療の在り方を考える議員連盟が骨子案の検討を進めています。具体的には特定生殖補助医療の制限の範囲を

① 夫以外の男性から提供された精子を用いて妻に対して行う人工授精

② 夫以外の男性から提供された精子と妻の卵子による体外受精とこれにより生じた胚を用いて妻に対して行う体外受精胚移植

③ 夫の精子と妻以外の女性から提供された卵子による体外受精とこれにより生じた胚を用いて妻に対して行う体外受精胚移植

とし、代理出産や事実婚や同性カップルは対象としていません。また、精子、卵子を提供する斡旋機関は厚労相の許可制とし、あっせんに対して通常の必要である費用以外の利益の授受を禁止しています。精子や卵子を提供する医療機関も人工授精や体外受精を実施する医療機関も公的に許可を得たあっせん機関を利用しなければなりません。これらのあっせん機関に関する規定に違反した場合の罰則も規定される予定です。また、あっせん機関は精子や卵子の提供者の同意書を得ると同時に提供者の氏名、住所、生年月日などの個人情報を指定された独立行政法人に提出することが義務付けられます。同意書とそれらの個人情報は100年間保存することとされ、特定生殖補助医療により出生した子で成人に達した者から求めがあれば、その精子や卵子の提供者にその意向を伝達して回答を要請し、提供者から回答があればその内容を子に伝えることとしています。併せて、特定生殖補助医療の提供を受けた夫婦はこれにより出生した子にその事実を知ることができるように適切な配慮をするように努めるように規定しています。

 以上が今国会で提出される予定の法案のたたき台の内容です。一足飛びに今回の法律案によって置き去りにされて来た重要な課題が解決するわけではありません。生命倫理が問われる課題に関しては容易に結論が出るものではありません。

 2020年12月に成立した特定生殖補助医療法の第3条の基本理念には「生殖補助医療により生まれる子については、心身ともに健やかに生まれ……」とあり、れいわ新選組の船後靖彦議員は強く反発しています。この条文が命に優劣をつけて選別する優生思想を引き起こしかねないという懸念があるというのです。神経筋疾患ネットワーク全国自立生活センター協議会は、「私たちは、本法案の「基本理念」第3条4項「生殖補助医療により生まれる子については、心身ともに健やかに生まれ、かつ、育つことができるよう必要な配慮がなされるものとする」との文言に、言葉にできない恐怖と戦慄を覚えました。これは明らかな優生思想であり、障害者の存在を真っ向から否定する障害者差別であると強く抗議し、直ちにこの条文の削除を求めます。」という声明を発表して特定生殖補助医療法を人権侵害法であると抗議しています。また、法曹界では生まれた子が自分の出自を知る権利など人権保障に欠けているとして特定生殖補助医療法の制定時から反対していました。今回の新法が立法されれば精子や卵子の提供者の同意が得られれば子は自身の出自を知ることは出来るようになりました。これら倫理的な問題は多様な意見が存在し解決に至ることは容易ではありません。

 ちなみに「・・・心身ともに健やかに生まれ・・・」という文言は「すべての子が安全かつ良好な環境において生まれることが必要であり、その環境の配備が為されなくてはならないことを意味している表現であり、母子保健法や次世代育成対策推進法などでも同様の文言が使用されており優性思想や障害を持つ者を排除しようとする意図は全くないと厚労省は説明しています。

 また、生殖補助医療のパイオニアであり1万件以上の実施例を持つ慶応大学病院が精子や卵子の提供者に自身の個人情報の出生者への提供を問うた結果、個人情報の開示を受け入れたドナーはほぼ皆無であったことを明らかにしています。よって、今回の立法案において精子や卵子の提供者に対して出生者が望めば個人情報を無条件で開示することを規定すると日本の生殖補助医療は凡そ壊滅するであろうと予想できます。

 人類の生命倫理によって論じられる守るべき権利や守られるべき権利はコインの裏表ようにオールオアナッシングでは結論は得られません。

 少し古い調査結果ですが日本医療研究開発機構が取りまとめていますので下記に示します。生殖補助医療に関する調査です。

資料:卵子提供、代理懐胎など第三者を介する生殖補助医療と出自を知る権利に対する国内の意識調査について(日本医療研究開発機構)

 上記では生殖補助医療を望む者が多いとは限らないようです。そうであっても不妊症は、カップルの1~2割に見られ、晩婚化に伴い、不妊に直面する夫婦は増加しています。子を望む夫婦にとって不妊症は深刻な問題ですし、人工授精や体外受精を望んで海外で治療を受ける日本人が増えていることから生殖医療に関する法整備は必要です。その上でどのように社会的な合意形成を行っていくか議論を深めていくことが望まれます。

 生殖補助医療に関する法整備が望まれるようになって約17年が経過してやっと2020年に実現しました。その際に持ち越した課題を今回の立法で全て解消することは難しいことは当然ですが、ホップに続いてステップを踏み出そうとしていることは間違いのないことだと思いますので肯定的に受け止めたいと思います。

 最後に少しだけ諸外国における生殖補助医療制度について見てみます。

アメリカは1992年に精子、卵子、胚の提供を認める方が成立しています。州によっては代理懐胎も認められています。出生者に対する供給者の情報公開は供給者の同意がある場合のみとなっています。

 イギリスは代理懐胎について1985年に立法されており、営利目的の代理懐胎が禁止されています。精子、卵子、胚の供給が1990年に認める方が制定されています。提供者の金銭の授受はその金額が規定されています。提供者の情報開示に関しては出生者が16歳以上の場合は提供者の個人が特定できない情報を、出生者が18歳以上の場合は相互同意があった場合のみ個人を特定する情報を開示することになっています。法律婚、事実婚の男女カップルのみならず同性婚にも適用されます。

 ドイツは1989年に代理懐胎を禁止する法律が制定されています。その後、2007年に精子、余剰胚がある場合のみ胚の提供を可能とする法律が出来ました。卵子の提供は禁止となっています。精子提供は原則無料でなければなりません。16歳以上の出生者には精子提供者の情報が開示されます。法律婚、事実婚の男女カップルに適用されます。

 フランスでは2004年に生命倫理法が制定され、精子、卵子、余剰胚がある場合の胚の提供が可能となっています。代理懐胎契約は認められません。出生者に対する情報提供はありません。提供者と出生者が共に匿名であることが原則です。

 以上のように諸外国の法内容を見ると日本の当該法は各国のちょうど折衷案のような内容になっていることがわかりました。アメリカが比較的規制が少なく先進的な印象を受けました。どうやら一大産業になっているようです。カルフォルニア州の精子バンクは提供者を色々な条件で検索できるようになっています。髪の色、目の色、種族、学歴、身長などあらゆる選択オプションが用意されているようです。中にはトム・クルーズ似なんていうリクエストをする人もいるようでまるでオンラインデートをしているかのような様相です。日本の当該制度を厳しくすると日本人がアメリカに行って精子バンクから精子を購入したり、卵子を購入するケースが増えてくるのではないかと思います。ただ、国民の倫理観の変化は国家観にも影響を及ぼすことだと思いますので慎重な議論を深化させる必要があります。少なくとも家族が血縁であることが前提という意識が根強い日本においてはアメリカのように産業化することは難しいと思います。昨今、良く見聞きするようになったLGBT(性的マイノリティ)にする問題や同性カップルなどの多様化するセクシャリティについて更に深化していくことで国民の家族観も変わってくるのかもしれません。意思や意識による家族形成、つまり、ハートの繋がりによる家族形成が社会通念上、特別でない選択となる日がやってくるだと思います。

以上、最後までご拝読を賜りありがとうございました。

資料:卵子提供、代理懐胎など第三者を介する生殖補助医療と出自を知る権利に対する国内  の意識調査について

   https://www.amed.go.jp/news/release_20181101.html

   命の選別につながる「生殖補助医療等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律案」第3条4項の削除を求める緊急声明

     http://www.j-il.jp/information/20201130-1