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空想都市一番街

卒業の日 ②

2022.03.10 14:23

卒業式が終わると、シュリとすばるとレナは一度家へ帰って、卒業コンサートに合わせて着替えをした。


別にドレスコードがあるわけじゃなかったけど、せっかくのAZEMICHIのコンサートにすばるは綺麗目なワンピースで行きたかった。


それはシュリもレナも同じようだった。


「わ、すばるいいじゃん、そのワンピース。髪飾りも似合ってるよ」


シェアハウスのリビングに行くと、シュリが褒めてくれた。


シュリも濃紺の細めのスーツを着ている。ミッシェルガンエレファントみたい。


そう言うとシュリはとても喜んでいた。ちょっと狙っていたらしい。


約束の時間になるとレナがやってきた。


赤いワンピースがすごく似合う。

いつもクールなファッションのレナも、そんな格好するんだな、とすばるもシュリも新鮮だった。


会場はシェアハウスからタクシーで15分ほど。


三人は一緒に会場に向かった。


AZEMICHIのフライヤーが店の前に貼ってある。

会場はテーブル席型のコンサート会場。ご飯も美味しい。


すばるはもう結構前になるけど、ここに来たことがあった。


あの時も、ステージで歌うタクヤはすごくカッコよかった。パパのお嫁さんになりたいなんて思ったりした。


思えばあんな子供の頃から、すばるはずっとタクヤのことを求めていたのかもしれない。


「シュリ、レナちゃん、すばるちゃん!」


声をかけてきたのはルイの妻の愛美だ。


「卒業おめでとう!私の小学校も卒業式だったから、あなたたちの姿見られなくて残念だったわ。AZEMICHIを楽しんでいってね」


愛美は1人ずつハグをして優しく言った。


小学校教師の愛美は母性本能溢れる素敵な女性だ。


シュリの継母でもある。


「母さん、そんな服持ってたっけ?すごい似合う」


血は繋がってないけど、シュリも愛美のことを慕っていた。


「ええ、実はね、今日のためにお小遣いで買っちゃったの!フフ、シュリに褒められて嬉しいわ」


愛美はニコニコしながらシュリの手をとって、3人を席へと案内する。


「すばるちゃんはここ。もうすぐ始まるからね。大人だからお酒も飲めるわよ。ここのお酒ね、すっごく美味しいわよ」


じゃあまたね、と愛美は自分の席に戻って行った。


周りを見渡すと、高校生もいるし、同じ大学の人もそうでない人も、卒業生らしき人が結構来ていた。


AZEMICHIは若者にも人気のあるポップスユニットなのだ。


「なんか私1番いい席!ステージの真前だなんて、何年ぶりだろ」


喜ぶすばる。それを見て、微笑む2人。


「人生で1番ステキな席かもよ。あ、ほら始まる」


照明が程よく落とされ、ルイとタクヤが袖から現れた。


パパだ。


すばるは胸が高鳴るのを感じた。


バレンタインの日、お互いに愛し合ってることが分かったけど、


何かあったわけじゃなくて、その日は普通に過ごして。


会うのはそれ以来。


ステージ上のタクヤは、昼間に大学で会ったタクヤだけど、ボーカリストとして何か降りてるみたいな、昼間とは違う魅力を感じる。


ルイがピアノにかけ、マイクに向かって喋った。


「こんばんわ。今日はようこそ。AZEMICHIのルイです。

卒業生の皆さん、おめでとうございます。僕たちの音楽で、リラックスして楽しんでいってくださいね。

ね、タク」


「うん。ゆっくりしていってください。俺たちもこんな日にライブが出来て幸せです。今日は見ての通り、完全に2人だけのアコースティックライブ。こういうの、久しぶりだよねルイ。じゃあ〜、最初の曲…」


タクヤはルイを見つめた。


そしてワンブレス。


曲と歌がはじまった。


「わぁ…」


すばるは感動して思わず声が出た。


ルイとタクヤの息はぴったりだ。そしてすばるが大好きなアップテンポの曲を歌ってくれて感動だった。


子供の時に見たのと、ちっとも変わってない。それどころか、タクヤはもっとカッコ良くなってるように感じる。


今日のライブは、途中でタクヤのギターも入った。


アコギを肩にかけたタクヤがマイクに向かって喋った。


「えー、卒業生の皆さんは、22歳くらい?うん、いいですね。22歳。

俺は22歳の時にルイと出会ってAZEMICHIを初めて、気づいたら10年経ちました。

ありがたいなって思うし、またこの10年で失ったものもありました。

10年という年月は長いようで短いです。だから、若いみなさんには忘れないでほしい。命は当たり前にあるんじゃないってこと。どこかで生かされてるってこと。みなさんの幸せを祈ってます」


そう言って歌い出したのは、ヒットしたスローバラードだった。


すばるはこの歌が大好きだった。


子供の頃、ピアノを弾きながらこの歌を歌っているタクヤの背中に耳をつけて、後ろから腕を回して抱きついた。


すごく弾きづらかったはずなのに、タクヤはそのまま歌を歌ってくれた。


優しくて、低いタクヤの声が心地よかった。


それを、思い出す。


みんなそれぞれ何かを心に、曲に聞き入っていた。


ラストまでAZEMICHIはMCを挟みながら、名曲も新曲も披露した。


会場は感動と熱気で満ちていた。


アンコールで2曲歌いおわり、2人は深々と頭を下げてステージから下がっていった。


「さあ、ここからはプラチナチケットの時間だよ」


すばるの隣でレナが嬉しそうに言った。


「プラチナチケット?」


すばるはバッグの中のチケットを取り出した。


チケットには金文字でプラチナの文字。


「俺もレナも待ってる。あとはすばるとタクヤに近い人だけのチケットだよ。他のお客さんはここでおしまい」


周りを見ると、たくさんいたお客さんが、少しづつ会場を後にしている。


しばらくすると店には、すばる達と、仲の良い人たちだけが残った。