直木賞作家とYOASOBIのコラボ作品「はじめての」が素晴らしかった件。大人の読書感想文
面白い。
ページを捲る手が止まらない。でも、なんだか勿体無くて読み進めたくない。
そんな矛盾する感情を抱えながら、じっくり何度も読ませていただきました。素晴らしい短編集でした。
それがこの『はじめての』です。
なんてったって、各短編を書くのが皆直木賞作家という豪華っぷり。直木賞を受賞した作品とともに、オフィシャルサイトに載っていたコメントも引用したので見てみましょう。
『ファーストラヴ』『ナラタージュ』の島本理生さん。
初めての挑戦をたくさん詰め込んだら、むしろ自分の原点とも言うべき、好きな人との物語になりました。恋よりも強い絆で結ばれた「私だけの所有者」にこの短編で出会ってください。
『鍵のない夢を見る』『かがみの孤城』の辻村深月さん。
人は誰でも、その出会いの前と後で人生が変わってしまうような一生モノの出会いの経験があると思います。その一夜を通じて、前の自分にはもう戻れなくなるような、そんなはじめての家出を書きました。この小説もまた、読む前と読んだ後で誰かの何かが変わると信じて、送り出します。
『理由』『火車』『模倣犯』『ブレイブ・ストーリー』の宮部みゆきさん。
いつも物語をつくる時は、そのイメージに合った音楽を探すようにしています。ぴったりな音楽が見つかれば、その音楽が私を正しい方向に導いてくれるからです。今回はまず物語が先にあり、そこから音楽が誕生するという企画で、私にはまったく新しい経験に、胸が高鳴っています。
『風に舞いあがるビニールシート』『カラフル』『みかづき』の森絵都さん。
「はじめての」というお題をいただき、私もはじめての設定にトライしてみました。時空を超える片思い――この物語が、読者の皆さんの過去に灯る大事な瞬間とつながってくれますように。
一つ一つの物語はまさにさすがの一言で、心を揺り動かされました。その上、読みやすいように丁寧に書いてくれているなぁと感じたので、中学生たちにもオススメです。
今回のテーマは物語と曲のコラボ。既に第一弾の『ミスター』は配信されています。セットで楽しめるなんて贅沢ですよね。あと3曲も楽しみです。
以下、気をつけますが、もしかしたら少しだけネタバレがあるかもしれない感想文です。よかったら、ぜひ本書を一読の上、楽しんでいただけたら幸いです。
『メロディ』
素晴らしきストーリーテラーたちが描くのは、様々な「はじめての」お話。
近未来風だったり、ホラーっぽかったり、SF風だったり、各々の設定も非常にバラエティ豊かだったのですが、すべてズドンと真ん中を射抜くような王道の面白さをも兼ね備えていて、読み終わった後にはなんだか「やられた」という気持ちになりました。
読む前は「短編集は当たり外れ大きいからなぁ、どうかなぁ」と勝手に不安視していた私。ただ、そんな心配は読み進めていくうちに大気圏の向こう側まで吹っ飛ばされて、代わりに少しでも面白さを疑った自分を恥じる思いが沸々と込み上げてきました。すんませんでした。
囚われのアンドロイド、家出した少女、事件に巻き込まれた家族、告白を消し去ろうとする女子高生。どのキャラクターも魅力的で、ストーリーには不思議さや意外性もあって、年甲斐もなくワクワクドキドキしながらページを捲り続けました。
読もうと思えば一晩で読めたでしょう。でも、なんだかこの本の世界に浸っていたくて、ずいぶん時間をかけて読んでしまいました。
これは、あれだな。待ちに待った大好きなアーティストのニューアルバムの包みを開いた時の感覚に似ているな。最初に再生ボタンを押すときの高揚感。期待と渇望が次の曲へと急かす。でも、今の曲を聴き終えたくない気持ちに引っ張られて、何度も何度も何度もリピート。でもでも、新たな出会いを求めるエネルギーも抑えきれずに、結果ぐるぐるぐるぐる、行ったり戻ったりしながら、音の世界にのめり込む。
結果、実に長いこと楽しませてもらいました。
4人の直木賞作家が贈る4編の物語。そして、そこに加わる奇跡の歌声。それら一つ一つはしっかり独立しているけれど、つながって広がって、まるで5つの線のように織り重なる。その五線譜が紡ぐメロディは、少し切ないけれど、とっても優しい。
ぜひ、ご一読を。
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