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KANGE's log

映画「愛なのに」

2022.03.13 02:42

【愛と性と結婚をめぐる実験コメディ】

古本屋を営む多田浩司。その店に通って彼にラブレターを渡して求婚する高校生・岬。でも、多田には以前告白して振られて以来、ずっと引きずったまま忘れられない人・一花がいる。一花は結婚を控えているが、その相手・亮介は、結婚式のお世話をお願いしているウェディングプランナー・美樹と浮気中…という、三角関係が連鎖するような物語。

古本屋が舞台ということで、最近よく見る「街とカルチャー」系の映画かと思いきや、完全にコメディでした。主人公の多田以外の登場人物は、ちょっと常識から外れた言動で、多田を振り回していきます。ある意味、多田ひとりがツッコミで、他の登場人物がボケまくる、コントのようにも見えます。

では、多田がいわゆる「常識人」なのかというと、そうでもありません。彼が「まともである」と思わせるのは、相手の思いを最大限尊重するところでしょう。いわゆる「常識的」な大人であれば、岬に求婚を辞めさせる方向で動くところですが、岬の思いは尊重しています。

多田・岬・正雄パートが、いかにも今泉力哉ワールドで、多田・一花・亮介・美樹パートが城定秀夫ワールドというところでしょうか。そんな単純なものでもないか。本作一番の笑いどころは、亮介と美樹のところだし。「群を抜いて下手ですね」

気づいたのは、本作の中で、結婚観について、対になるセリフがあるということ。

ウェディングプランナーの美樹は、亮介に対して「結婚式はお互いの家族のためにあるもの」と言います。彼女は、結婚を控えたカップルが準備中に衝突したり鬱憤がたまったりといった姿を多数見てきているはずです。また、結婚式で最も幸せなのは、両家の家族であるという事実も見てきているからこその言葉でしょう。

一方、多田が、相変わらず求婚してくる岬に、お父さん・お母さんのことを聞くと、「関係あります? 私たちに」ときっぱりと宣言します。これも、正しいですね。「婚姻は、両性の合意に基いてのみ成立」するのですから。

恐らく岬は、それに続く「夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」も実行しようとするのでしょう。

でも、一花と亮介のカップルは、それを実践していません。結婚式の準備は専ら一花に押し付けられており、亮介が何かすることは「手伝う」と表現されます。そもそも2人ですることのはずなのに。このあたりは、多くのカップルが経験してきた結婚式準備のあるあるエピソードではないでしょうか。

逆に、共通していることもあります。それは、性と愛を切り離しているところ。

岬は、高校生相手に犯罪になると懸念する多田に対して「そういうことはまだしなくていいです」と宣言します。

一花は、婚約者の浮気相手が、かつて彼に告白してきた元職場の女性だと聞いて、自分にとって対称的な立場のオトコというだけで、代償行為の相手として多田に声をかけます。その前の段階では、彼に披露宴の招待状を送ろうとしていたぐらい、彼のことは「どうでもいい」と思っていたはず。

やっていることは、正反対ですが、性と愛を切り離して考えているという点は共通しています。

そして、多田は好きな人に「どうでもいい」扱いを受ける辛さを知っているからこそ、岬からのプロポーズに対して、はぐらかすようなことができないのでしょう。そして、その思いを尊重しない人たちに対して、ある行動に出たのでしょう。

こうやって、岬→浩司=「どうでもよくない×肉体関係なし」、一花→多田=「どうでもいい×肉体関係あり」、多田→一花=「どうでもよくない×肉体関係あり」、美樹←→亮介=「どうでもいい×肉体関係あり」、亮介←→一花=「たぶんどうでもよくない?×肉体関係あり?ほぼなし?」といろいろな愛と性のパターンをシミュレーションしてみて、私たちがどう考えるかを試されている実験映画のようにも思えてきました。

それにしても、最近よく見る河合優実。私が劇場で見ただけでも、「佐々木、イン、マイマイン」「サマーフィルムにのって」「由宇子の天秤」「ちょっと思い出しただけ」と、良作揃い。何がすごいって、それぞれの作品で、まったく印象が異なるんですよね。終わってから、「あぁ、あの作品に出てた子か!」って気づくぐらい。今後も注目です!