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フェスボルタ文藝部

線の上を歩く(梅田千加)

2017.11.22 00:31

さっき駅まで来る途中、歩道のタイルの線の上を歩いている男の人がいた。コンビニの袋を下げて、細いタイルの継ぎ目の上を、じっと足元をみながら、とても深刻な顔で、一歩ずつ確かめるように、まっすぐに歩いていた。


子供の頃は私もよくやった。縁石の上だけ歩いてよし。横断歩道の白いところだけ踏んでよし。落ちたら地獄ね。

大人になってからはあまり…いや、時々してる。さりげなく色の違うタイルの上だけ歩いたり。でもそれは、なんとなく、何気なくすることだ。あの男の人の様に真剣に、深刻に、まるで落ちたら何か大切なものが壊れてしまうかの様に、することはない。

朝の慌ただしい光景の中で、たしかにそれは、少し異質な光景だった。


でも、別にいいよね。大人がタイルの線の上を歩いたって。通行の邪魔になるでもなく、歩道の端を、ゆっくり進んだっていいよね。見た人がどう思うかなんて気にすることはなくて、したいんだったら、すればいいんだと思う。


あの男の人、理由はわからないけど、切実に、どうしても、線の上を歩かずにいられなかったのだろうと思う。だから、線の上を歩いていたんだろう。

たしかに大人がそういう事をしてるのは、あまり見ない光景だけど。どうしても、堪えようもなく線の上を歩きたいのに、無理やり我慢するのは体にも心にも不健康な事だと思う。

で、自分がもし、そういう光景を見て、少し不思議に感じたとしても、ああ線の上を歩いてるな、歩きたい気持ちなんだな、って思っておけばいいんだなあと思った。


じゃあいってきます。