Heart of GOLD 16
江古田は池袋から西武線で3駅だって、以前にレナが言っていた。
響は池袋から黄色の西武線に乗り込んだ。
椎名町、東長崎、と続いて江古田までは7分くらいで着いた。随分と古い駅舎だ。
ボロいコンクリートの階段を上がると、改札は早速右と左に分かれている。
悠斗の話を思い出す。
『江古田で飲んでいて、飲み直そうって練馬までの道を歩いていた。途中に陸橋があって、その下に狭い歩行者用のトンネルがあった』
練馬への道、陸橋、トンネル。
そのキーワードを、窓口の駅員に聞いてみた。
「うーん、それなら、反対側の改札の方を出た陸橋の高架下じゃないですかね。
この道ならまっすぐ行けば練馬に通じてますし、確かトンネルがあったはずです」
若い駅員は地図を片手に丁寧に教えてくれた。
簡単な地図も書いてくれた。
響はお礼を言って、東口を降りた。
降りた目の前には神社があり、浅間神社、と書いてある。
隣にはドラッグストア。
響は地図の通り、線路沿いに左へ行き、斜め右の『江古田ふれあい商店街』という看板をくぐって「江戸雅」という寿司屋の交差点まで歩き、そこを左に曲がった。
曲がると割と近くに、陸橋が見えて来た。
道沿いには自転車屋、ラーメン屋が二件。クリーニング屋。
それから茶色いレンガ造りのマンションを通り過ぎると、そこが陸橋だった。
響は歩行者用のトンネルを探した。
普通に歩道もあるのに何故わざわざトンネルも作ったのか分からないが、
それは陸橋が始まってすぐの距離のところにあった。
トンネルからはオレンジの明かりが溢れている。
ここだ。
響は中をのぞいた。そこには誰もいなかった。
トンネルに入り、真ん中のあたりまで歩いてみた。
悠斗の話だと、この辺に叔父が座って歌っていたことになる。
こんなに寂しいトンネルで?
狭くて、少し背筋がゾッとするような不気味な、こんなところで?
理解不能だった。
歌うなら、聞いてもらうならもっとマシなところがたくさんある。
響はその壁にそっと触れてみた。
夏なのにひやりと冷たいコンクリートは、余計にこの道を寂しくさせているような気がした。
響はそのままトンネルを出て、練馬までの歩き、練馬から電車に乗って池袋に帰ってきた。
家に帰ると拓也は帰っていなかったので、すぐにメールでお詫びと帰宅したことを伝えた。
『了解』
という返事とともに、ゆるキャラプリンちゃんのオッケー!という画像も送られてきた。
響は衝動的に飛び出したことを申し訳なく思いつつ、シャワーを浴びてベッドに横になった。
そのままいつの間にか寝てしまった。
夜中、拓也は帰宅した。
「寝てるか。」
拓也は響が寝息を立ててぐっすりと眠る様子を見て安堵のため息をついた。
「まったく。まっすぐで衝動的で、危なっかしいやつだな。…そういうとこ、あいつによく似てるよ」
拓也は寝ている響にそっと話しかけると、リビングの椅子に座って天井を仰いだ。
そして胸ポケットから写真を一枚取り出して見つめた。
写真には二十歳くらいの拓也と、中学生くらいの少年が笑顔で一緒に写っていた。
響のことは、もしかしたら自分にとっても、次のドアを開くきっかけになるかもしれない。一歩先に進めるのかもしれない。
拓也は目を閉じて、今は亡き弟の姿を思い浮かべた。