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超人ザオタル(59)旅の始まり

2022.03.16 00:36

ある朝、私は旅支度をした。

この家を出るときだと悟ったのだ。

「いつかこの日が来ると知っていました」

アルマティが私の傍らで少し悲しげな表情でそう言った。


タロマティは黙って目を伏せている。

私が家を去る現実を肌で感じ取ろうとしているようだった。

「もうふたりには何も教えることはない。

もし何か聞いておきたいことがあれば、いま言ってくれるか」


ふたりは黙って目を伏せた。

「何もありません、ザオタル」

しばらくしてアルマティがそう言った。

タロマティは黙したままうなずいた。


「私はここを離れるが、いつでもそばにいるよ。

もし何か疑問が起こったなら、瞑想でそれを尋ねるがいい。

私はそれを確かに聞いているから。

どのような形か分からないが、必ずそれには返答しよう」


ふたりは私を見て安心したように微笑んだ。

私はわずかばかりの荷物を背負うと家を出た。

草原が陽に照らされていつになく眩しく見えた。

ふたりは私を見送ってくれたが、私は振り返らずに歩いた。


あの岩山に立ち寄った。

見上げると懐かしい感じが込み上げ、最後にと登ってその上に立った。

積み上げられた岩のひとつひとつが馴染みのあるものになっていた。

そこに見慣れない一抱えもある岩がひとつ増えているにに気づいた。


「あれはザオタルだよ」

そうアムシャが言うのを空耳のように聞いた。

このいくつもの岩のひとつひとつが捨て去られた魂のように思えてきた。

そういうことかと私は妙に納得した。


私はまた広大な草原をあてもなく歩いた。

この世界が私だとしても、それは簡単な旅ではなかった。

もう姉妹の家の温かなベッドや満ち足りた食事もないのだ。

幾日も空腹と疲労を感じながら歩き続けた。


遠くに一本の木が見えた。

ひと目でイサトのいた大樹だと分かった。

自然とそちらに足が向いた。

その木の高いいところにイサトが立っているのが見えた。


しきりに手を降っている。

私も手を上げてそれに応えた。

さらにイサトは指差して何かを伝えようとしていた。

何度も大きく腕を振って指差している。


そちらの方へ向かえということか。

私はそう受け取って、片手を胸に当てた。

イサトも手を胸に当てて応えた。

私はイサトが指差す方に向けて歩いていった。