デザインとアート
デザインという言葉から一般にイメージされるのは、模様や図柄、あるいはレイアウトといった「意匠」だろう。美術大学でも、絵画や彫刻と並んでデザインがあるので、デザインは実用的な絵や物を創作するアートの一分野だと思われがちである。しかし、元来デザインはそういうものではなかった。
デザインが生まれた19世紀末から20世紀初めは、近代アートがその極限に達していた時期だった。作家の創造意志が何よりも重んじられ、アートはアートのために奉仕するものと捉えられていた。そんな中で、日常に目を向け、生活の質を高めるための創作活動をしようと始まったのが、デザインである。デザインは、目的を達成するために対象物の仕様を生み出すことを意味し、日本語の「設計」にあたる。コンセプトとしてみるなら、合目的なデザインと意志的な近代アートは全く相容れないものだった。
ところが、それから100年が過ぎると、デザインとアートが重なり合うようになってくる。例えば「デザイン思考」や「インクルーシブ・デザイン」の分野では、単に顧客のニーズに応えるだけでなく、その先にあるものを形にして提案をすることがデザイナーに必要とされる。一方、地域の芸術祭や「ソーシャリー・エンゲイジド・アート」では、アーティストに日常や社会と向き合うことが要求される。デザイナーとアーティストの役割が重なり合うようになってきたのだ。アートが、近代以前のアートのあり方に回帰してきたという言い方もできるかもしれない。
今回の基礎コースでは、敢えて「編集」というデザイン的なアプローチを採り入れることで、アートにこれまでとは違う観点から光をあててみようと試みた。アートそのものは、アーティストの意志を表現するものだとしても、社会の中にアートの場をプロデュースし、アートの活動をマネジメントするには、デザイン的な思考が有効である。コンセプトの違いは違いとして、現実に重なり合う部分は重なり合うものとして、両者の新しい関係を見出していくことが重要だろう。
(九州大学ソーシャルアートラボ 平成28年度活動報告書から転載)