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平成函館忘れない

聞き書きの真意

2022.04.07 12:00

今度の新刊『平成函館忘れない』のクレジットは

「写真 星野勲、聞き書き・構成 大西剛」としている。


これはあくまでも「聞き書き・構成」であって

「取材・構成」にはあらず、である。

これまで何度か地元紙等の取材を受けたことがあり、

また、自分も取材の真似事をしたような経験があるが、

取材する側も受ける側も、

なかなか「取材用の受け答え」という枠から脱しきれない。


テレビなんかでも、まだ場慣れしていないようなレポーターが

「どんな気持ちで○○されましたか」などと

インタビューしている場面をよく見かけるが、

「どんな気持ちで」といきなり尋ねられたところで、

常人なら、うまく言葉にまとめられるはずもなかろう。


だけど無理して答えようとするのが、

サービス精神というか、現代人の性(さが)というか。


野球選手以外の人まで、マイクを向けられたらいきなり

「そうですねぇ~」なんてやるのは、

明らかに、心にある思いをまとめるための時間稼ぎだと思う。

(何も話の始まらないうちから、相槌を打てるはずもないが)

「あのぅですねぇ~」「えっとですねぇ~」なんていう

バリエーションも加わった。


そして、この一連のやり取りで出てくるのは

通り一遍の話がせいぜいだろう。

こういう場面を見ていると、他人事ながら

「こんなことで、いいのだろうか」とハラハラ、ドキドキしてしまうのだ。

頭の中に、インタビューの神様が現れて

「バカヤロー、もっとよく考えて質問しろ」と

怒鳴りつけている映像が浮かんでしまうからである。


さて、『平成函館忘れない』に収録した写真について、

聞き手は、

「どんな気持ちでシャッターを押されましたか」

みたいな質問は一切していない。


そんな問いかけをしなくても、

星野さんが私に写真を見せるとき、

ご自身で自発的にいろいろ話してくださるのだ。

撮影の状況、そのときの天候、なぜこんな場所まで出向いたのか、

あるいはそのころの写真界、写真仲間の様子などなど。

また日ごろから写真観にカメラ論、フィルム論なども聞いている。


だから掲載写真それぞれについて、逐一質問をせずとも、

星野さんの気持ちになりきって説明文が書けるのだ。

もちろん100パーセント星野さんではないから、間違いや勘違いもある。

だがそれは、ご本人に確認を取れば済む話。


情報誌などで食べ物屋の取材でも、

アポを取って行ったなら、たぶん「よそ行き」の話を用意して待っている。

場合によっては、店内の様子、料理の盛り付けなども、

少々「よそ行き」になっているかもしれない。


片や今は普通の人が、

思うがままに「食レポ」(書いているだけでジジイは気恥ずかしくなる言葉)をして

ネット上は「普段着」の写真が溢れている。