水の歳時記365日
https://mainichibooks.com/books/cat/post-557.html 【水の歳時記365日】より
著者 俳句αあるふぁ編集部
生命をささえ、暮らしを彩る水のきらめき 日々を輝かせる俳句入門!
滴り、流れ、降りつもる。
水にまつわる名句・秀句を、一日一句一年間、
写真を添えてやさしくガイドした俳句入門が本書です。 コロナ禍がつづく今だからこそ、季節の移りかわりを身近に感じたい。そんな声にこたえて、季節と暮らしに寄りそう文芸・俳句のたのしみを丁寧に伝える歳時記が本書。
雑誌「俳句αあるふぁ」人気連載を書籍化しました。 巻末には作家・川上弘美さんのエッセイも収録。
眺めてたのしく、読んで役立つ一冊です!
「今わたしたちがあたりまえだと思っていることを、時間は容赦なく変えてゆく。
それこそが自然のいとなみというものであり、存在とはそもそも変化を内包するものなのだ......と思って本書を読むと、
今わたしたちが存在するこの時が、本書にある俳句を詠むことのできる現在の地球という場所が、どんなに貴重なものなのかが、しみじみと実感されるではないか」
(川上弘美「水のゆくえ」より)
目次
はじめに/4月/5月/6月/7月/8月/9月/10月/11月/12月/1月/2月/3月/エッセイ「水のゆくえ」・川上弘美/季語の雨/季語索引/俳句人名索引
https://news.line.me/issue/oa-newspostseven/3qrmdshofbxz 【【書評】「季語のとりこ」になった川上弘美氏の俳句エッセイ】より
【書評】『わたしの好きな季語』/川上弘美・著/NHK出版/1700円+税
【評者】嵐山光三郎(作家)
季語は連歌や俳句の季節を示すための言葉で、朝寝は春、団扇は夏、枝豆は秋、沢庵は冬。沢庵を漬けるのが冬なのでそうなります。で、七草は新年。「妙な言葉のコレクション」が趣味だった弘美さんは、大学生のころ、図書館で「歳時記」を発見して狂喜して読みふけった。それまで見たことも聞いたこともなかった奇妙な言葉が歳時記に載っていて「まるで宝箱を掘り出したトレジャーハンターの気分になった」。
そうやって十数年たったころ、ひょんなことから俳句をつくるようになった。季語のとりことなっていく日々のエピソードをつづった俳句エッセイ集。絵踏は冬の季で「傾城の蹠白き絵踏かな」(芥川龍之介)の句にある「生と性と死の結びつき」とはなにか。
朝寝は春の季語で「あらうことか朝寝の妻を踏んづけぬ」(脇屋善之)。「朝寝は、大好き」と語りながらこの句を示すのです。団扇は夏の季。弘美さんの家には全部で二十三枚の団扇がある。お気に入りの句は「へなへなにこしのぬけたる団扇かな」(久保田万太郎)。枝豆は秋。朝顔の種、枝豆、西瓜が「秋の季語・意外ベストスリー」。八月のはじめ、立秋の前日で歳時記での夏はおしまい。
『わたしの好きな季語』著・川上弘美
弘美さん流枝豆のゆで方は、柔らかゆで期→固ゆで期→気まぐれ期のサイクルを二週間ほどで繰り返す。「枝豆や三寸飛んで口に入る」(正岡子規)。食べ物の句になるとガゼン色めきたつ。
さて、たくわんの章には「死にし骨は海に捨つべし沢庵噛む」(金子兜太)。太平洋戦争のことを詠んだ句を示しながら、祖母が漬けたしょっぱくて、すっぱくて、ひねていたたくあんを思い出す。七草は新年で「せり・なずな、以下省略の粥を吹く」(池田政子)。ははは「以下省略」がいいね。
季語に関する九十六編のエッセイは、これから俳句を詠んでみようという人におすすめです。十年前に春愁という季語でたくさんつくった弘美句で一句だけ句集に載せたのは「はるうれひ乳房はすこしお湯に浮く」でした。
※週刊ポスト2021年1月15・22日号