流波 rūpa ……詩と小説083・流波 rūpa 癡多 citta ver.1.01 //…見て/なにを?/見ていた/いつ?
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
饒舌すぎた
下唇、どこ?
…噓。
わたしたちの舌
ぼくの、あの
すべて、噓。それらすべて、すべて噓。むしろわたしは、あまりに自在に眼差しに色彩を攪乱する、それら呼吸のゆれ、ゆれてうごくうごき、だからうごき、そのゆれ、ゆらぎ、どうしようもなく難解な色彩の變貌ともいえない、わずかの推移…を、見止める暇もなく吸い込んでいた。その匂い。肌の惡臭。それとまざりあった、より陰湿に思われ、もはや血も淚もなく無機的な臭気、それは髮の毛の匂い。それらの交雑した、だから沙羅。
窓越しの日差しの中に。
本当に?
たとえば、もはやその肌の白濁の綺羅を自分の翳りに覆い隱し、こい褐色をのみ至近に見ている、その沙羅の間近の色彩に?
饒舌すぎた
耳たぶ、どこ?
…噓。
わたしたちの耳
ぼくの、あの
もはやなにもに見ていなかったにひとしい。嗅ぎ取りもしなかった。その肌、その髮、思うのはただ沙羅。それは慥かに沙羅。しかし、その思いはむしろ空っぽで、気を引かれているのはただユエンの不在の眼差しにすぎなかった。かならずしも愛しているわけでもない、また魅了されているわけでもない、惹かれているでも、そそられているでも、いつくしんでいるわけでもない沙羅に、それでも他人の眼差しにはあるいはひそかに発情してしまっている、と?このかわいそうな男は。そう、見出さないではおかなく思われた、不在の、だからなにも見ないユエンの、有り得ない眼差しを。苛まれるように、感じていた。ユエンに。その目、——嫉妬?まさか。いきどおり?まさか。軽蔑?まさか。なら、なに?その存在し得ないまなざしの色は?と、だから沙羅。沙羅などもはや存在しなかった。そんな、その沙羅。
窓越しの日差しの中に。
…本当に?もう、床にはどうしてもふれない、たぶん十センチ以上の空間にさまようだけの指さきに、すでにスマホ探しなど放棄していた。
だから
沁み込むように
わたしは。
ね?
沁みて、
ベッドに座りはしなかった。
もう
沁みて
わたしは。
光りのなかに
沁み込むように
まして、橫たわり、沙羅に添い寝するなど。
引き上げた指先に、そっとその肌を、髮を?…撫ぜてやるなど。
まして、唇で?
舌で?
ただ、わたしの眼差しの中には、錯乱。錯覚。とっくにひとり
だから
溶けあうように
身を起こしていながら、沙羅の
ね?
溶けて
ひたすら
もう
溶けて
黑い(——白濁。)髮を(——光澤。)
光りのなかに
溶けあうように
なでてやっているかの、そんな(撫ぜるような、その)接近しすぎた(散乱。白濁)錯誤?…が、——知ってる。もう、あった。——それは、錯誤。なぜ?ともかく、わたしは立ち上がってベッドの脇に、だから沙羅の、窓ごしの光りのほうに投げ捨てたままの橫顔を見やり、その睫毛。見ていた。かすかに、時に、動く微細。
なに?
まばたき?…かけた、まばたきかけの、…なに?
初めて、沙羅がそこに生きて存在しているに違いことの明瞭を知らされた、そんな、心は、だから…傷?なに?
ひっかき傷?
なに?
ただ、内容のない確信。
満ち溢れる、勝手なそれ。
なぜ?
だったら、いままで沙羅は死者に他ならないという錯誤をのみ確信していたとでも?
と、——なぜ?
だったら、いままで沙羅は未だ實にはうまれてさえいない未來の投げた、ねじれた時空に置き忘れた殘像に過ぎないとでも?
と、——なぜ?
こんなところに置き忘れられ得る可能性など万が一にもなにひとつもない、その、と、——なぜ?
瑠璃は放置したのだろう?
あの時に、まるで——たとえば、その日差し。
いま、…いつ?やわらかに、もういやになるほど…だれ?やわらかに、しかも…なに?新鮮さを…どこ?かろうじて維持したまま沙羅にそそぐその、なに?逃げ去るように、わたしの眼。追いすがる?
目。さ迷うだけの?
目。叫んでるにひとしかったそれ。
目。憎しみに燃え上がったそれ。
目。求めていた、求めていた、求めていた、猶も救済を、生を、生の苛酷からの救済を、死にふれそうなあやすさからの、そんな?
それら目。
いずれにせよ——なにを?
なにを見ていた?その目を置いてけぼりにしなければならない、そんな…逃げなさい。強制を瑠璃は、…たとえば…逃げなさい。だれに?それ、…逃げなさい。だれ?——だれかに、…だから…逃げなさい。指令を承けてしまっていたかのように?しかも、もう伸ばしはしなかった。
わたしは。
その、自分の指先をは。
沙羅のその曝された肌のどこにも、どの形態、どの色彩にも?
なににも。
と、——なぜ?逃げる。
目の見えない人を捨てさるように。四方ついに崖にしか到らない、たとえばそんな十字路の眞ん中に?ただ救いようのない徒労と、容赦のない絶望館をだけ盲目のわたしが存在したことなど一度も無かった、と。
思わずそんな気がする。
沙羅に。
その日差しの中。はじめてそこに見い出したように見えていた沙羅の肌。…に、それら、その色彩。
褐色の。
あざやかな色彩?
だいなしの白濁。
その、むしろ辱め?
綺羅。
だからかたち。
眼差しをいたぶりつづけたその、それら、橫たわった、その、…一度でも、と。
一度でも見たことなど?いままで、沙羅を此の眼差しに、と。
虛妄?
狂いそう
消して。だから
むしろ、もう
妄想?
むしろ、もう
殺して。だから
狂いそう
なにをも生まなかった。どこに連れて行かなかった。なにを知らせたでもなかった。なにも兆しさえしなかった。ましてわたしを狂わせも。そんな虛構以下のガラクタ然とした留保無き虛僞。
まったき、確信。はじめていま、沙羅はいま、此の世界にいま、存在したのだと、いま、慥かにいつかも。
だから、何度も?——確信。
殺した
だれ?
不動にして揺るがない?
ぼくらを。いつかのやさしい
ささやくの、
ありふれた?
口づけが
だれ?
なんどもの、いつもの、なんどもの、もう、いつかの——無数の
ちゅっ
つぶやくの、
何度目にも、どこかにでも、どこででも。
この部屋、そのベッドでも、何度となく、だから何度目かに咬みつかれた気の遠くなるに似た確信に聞いていた。
肩の後ろでことさらにちいさく笑った瑠璃の聲を。思わず
…あっ
振り返ると(——なぜ?)むしろ(なぜ?
…あっ
その)思い詰めた、ただ(ありふれた
…うっ
笑い声)ひたすらに
…あっ
或る(ただ息をだけ)ひとつの事を(そっと)それだけを?(吐き捨てたような)思い詰めた、だからむしろ気が抜けるほど明るい眼差しの瑠璃が——何歳?
…あっ
そのふいの恥じらい
その時に。
…あっ
絶句
わたしは
…うっ
そのふいの不安
何歳?もう、
…あっ
絶句
すでに、たぶん瑠璃は三十を超えて——不沈艦、…と。不沈艦瑠璃と、その当時の2チャンネルの、それが瑠璃のスレッド。化けもん瑠璃。瑠璃整形。六本木サイボーグ瑠璃。それら、実年齢が何歳か、町に來て一体何年目か、もはや誰にも記憶すべき価値など持っていない年増の、しかも美貌を衰えさせない、水商売ごときに盲執の病んだ瑠璃?…アンチ‐スレッド。「なに?」と。
わたしは云っていた。すでにその唇は。振り向きざまに。だからもう、あまりにも自然に、あまりにもやさしく笑んでいて、瑠璃は、その東急本店。
宇多田川のつきあたり、松濤の
なんで?
く。…くっ
根っこ。その
なんでこんな
さっ。…さぁー
エントラスの
かび臭いの?
く。…くっ
自動ドアが開いたのを、瑠璃のほうにだけ
なんで?
くさっ
ねじった首筋に
ここらへん
さぁー…
わたしは
黴たなにもありはしないのに
く。…くっ
感じていた。その日の買い物の終わりぎわ、…だから何月?もはや季節さえ記憶にない、日常の、——一番近く。一番気楽な。デパート。原宿にはスーパーもデパートも存在しなかったから。わたしの住み着いていた神宮前のビラ・ビアンカからタクシーで、そしてたぶん午前。
日曜日?
あるいは記憶の、意識的な、意図のない捏造?…無意識の?なんの意味が?…捏造だったら。
たぶん夕方。瑠璃も、わたしも、午前に起きてシャワーを浴び、買いものというちょっとしたひと仕事をその午前という、一日のはじまりの時間帯としてわたしたちという、基本、夜の生態系所属のものたちには存在したためしもなかった、午前という、時間帯にすませてしまえるほど早起きがきできるという、可能性など、微塵たりともありはしない故に。
莫迦?
ない!ない!
瑠璃、その時の
狂ってる?
舌さえ!
眼差し。正面から差す
莫迦?
ない!ない!
正午に近い日差しの(——暮れかけの、すぐ暮れきりそうな、まだ暮れはじめない色彩をそろそろそっとなくしはじめた)光り。光りら。それらの反射。
あるいは翳り、…青い?
いっちゃえよ
淡い?
きれいだよって
濃い?
いっちゃえよ
昏い?
すてきだよって
なめらかな。
いっちゃえよ
微細な。
やばすぎだって
ながれるような。
いっちゃえよ
ふるえはじめる寸前に、あやうく
たえられないって
停滞していたかの。謂わば
いっちゃえよ
水滴のような?
くそ
ちぎれてこぼれる寸前のそれら——翳り?
ささやく、「好きでもないのに?」と?
かすかにひらきかかる唇に、——好きでもないのに。
「もう、わたしのことを?」
それら、耳の聞き取らない、——好きでもないのに?
無言の。
意味がわからなかった。それらの言葉、(…あるいは気配?たぶん)正確な(言葉よりも赤裸々で)意味は(あきらかな)。
なにを買ったのだろう?
ふたりのペアのパジャマでも?…まさか。
空白に留めるしかない、もはやなにを買ったのかも記憶されない片手に
からっぽなんだ
なんで、こんな
ぶら提げた重量、…父の
ぼくのこころは
ここらへん、くさいの?
生首でも?
あなたをなくした
なんで、こんな
恥ずべき男の。その
あの日
かび黴くさいの?
重さ、母を終には完膚なきまでに壊してしまった父の?…だれの?見ていた。
もはやその重量さえ…だれ?意識し得なかった…だれ?眼差しの中に——だれの?
もはやわたしのとさえ云えない、他人のようなだから、わたしの見い出す視野の中に。
夢のように?
きみの頬は
恥ずかしい?
幻のように?
まるで
なぜ?
あまりにも明晰に、そして
春の夢
恥ずかしい?
切ない程に
きみの頬は
くさっ!
赤裸々に。瑠璃は
まるで
なぜ?