国際課税勉強会19(外国法人からの配当とセービングクローズ)
今日は一角塾にオンライン参加しました。
今日は、カナダ法人から株式配当を受けた日本居住者に対する配当所得課税と、自国の課税権の留保ルールであるいわゆるセービングクローズとの関係を含めて争点となった東京地裁平成16年9月17日判決について報告を聞きました。
カナダ法人であるC社は、組織再編(スピンオフ)の一環として、自社が所有するD社の株式を自社の株主に分配するという取引を行いました。この株式分配についてはカナダにおいては株主の所得とみなされないので、課税をされていません。
ところが、この株式分配を受けたC社の株主(日本居住者)である原告は、これを所得でないと考えていたところ、課税庁は株式分配であっても、株主は経済的利益を受けているので、所得税法24条の配当に該当するとして課税処分を行いました。
原告がこれを不服として争ったのが本件ですが、原告は、日本カナダ租税条約10条3項などを引用して、カナダにおいて配当とみなされないものを、日本において配当として課税することは条約違反だという主張をしました。
しかし、裁判所は、同条約25条2項のセービングクローズで、日本居住者に対する日本の課税権は保証されており、条約によって日本居住者に対する課税が制限されるものではないので、カナダが課税しない配当であったとしても、日本では日本法の解釈により課税できるとして、原告の主張を退けました。
セービングクローズの適用対象から除かれるものとして、租税条約10条(配当)は挙げられていないこともあり、当時の株式分配については、日本国内法がそのまま温存適用されて、やはり配当所得として課税されるという解釈になるのはやむを得ない、というのが今日の議論の結果でした。
【memo】
セービングクローズは、国の課税権(特に居住者への課税権)を租税条約が制限することはできないとする規定。(租税条約は主に非居住者に対する課税を制限する)
プリザベーションクローズは、納税者に国内法で与えられている控除権、非課税扱いなどの特典を、租税条約で制限することはできないとする規定。
2017年OECDモデル租税条約1条3項に初めてセービングクローズが導入された。特定の場合を除き、居住地国の課税権を確保する趣旨。
同コメンタリーpara117 フランスなど複数の国が、上記3項の導入を留保している。日本は留保していないので、1条3項の適用を基本的に認める。
村井正編著「入門国際租税法(改訂版)」清文社27ページを参照。