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Slava chto

第5話 Yeda

2022.03.19 10:16

本部に帰還すると、まず緋高と樋崎、春風は仲間に愛染と立花の死を伝え、次に東屋を後から帰って来た案藤に預けた。

彼はすっかり傷心状態で、樋崎すらいつものように声を掛けることができずにいた。


案藤はすぐに察し、緋高が事情を話すことなく対応に乗り出してくれたのは特筆すべき幸運だ。

帰りながらに春風から事情を聞いた緋高は、今の東屋にこれ以上の精神的な打撃を与えかねないことから、すべてを仲間に明かせないままでいる。


……それに正直な話、それどころじゃないと感じてしまう自分もいた。


「…俺は、また……」

ようやく一人になり、無機質な壁に背を預けると床に向かいズルズルと擦りながら腰を落とす。


……愛染を助けることができなかった。

いや、『また』できなかったと言うべきなのか。

……立花も失ったというのに、愛染の喪失を一番に感じ、一番に悔やんでしまう自身が、緋高は嫌いで堪らなくなっていく。


あれから一週間。

仲間の傷が少しずつ癒えていく中で、化け物の姿を捉えたという知らせが本部に舞い込んでくる。

それを聞いた春風は、復讐に奮起し始めていた。


緋高は先日の件で傷心していたものの、一般人への警備を強化すべく厳戒態勢を整えており、ユレンは怪我を負ったため現在は京の元に留まった状態で、二人で本部内へ侵入されることないよう警戒を続けている。


東屋は酷いショックから中々立ち直れず、今はペアの案藤が付きっきりになっている。

来栖と内原は他の区域の偵察に出たばかり。

詰まる所、残っているのは樋崎、春風、七瀬の三人のみとなっていた。


「お願い。私にアイツを倒させて」

「っ……」


顔を見た樋崎は少しの間答えが詰まってしまう。

勉強会をした時のような、いつもの春風の面影がない。

どこか囚われたかのように、ただ復讐だけを見つめるような目と仕草。


……樋崎は春風の全てを知るわけではなかったが、その感情についてはよく理解していた。だからこそ、答えを出せずにいた。


「私がサポートするですよ、ツバメちゃん!」

「!…うんっ」

どこかで話を聞いていたのか、七瀬が姿を現して春風の手を握る。

その感覚に春風は少し自信を取り戻したように見えた。


「…見回り程度に留めて。キツくなったら、すぐに帰って来て」

これ以上かける言葉が思い付かず、樋崎はグッと口をつぐむ。

復讐心に駆られた心を言葉で覚まさせるのは困難を極めるのを樋崎はよく知っていた。


それに少なくとも、個別の行動よりもペアで行動すれば、仮に事態が発生した場合でもすぐに知らせる事だってできる。


「わっかりました!頑張りましょうツバメちゃん!」

「…うん!ありがとう、夏実、澪莉」


春風は少し申し訳なさそうにしながらも樋崎と七瀬に感謝を伝え、持っていた鉄パイプを握り締めて本部の外へと向かっていった。


「ごめんね、ワガママ言っちゃって」

「構わねぇですよ、ツバメちゃん!私も考える事は一緒ですから!」

本部から離れて歩く間、春風は自身の拙劣さを悔いていた。

ペアであるとはいえ、七瀬にわざわざ危険を伴う発言をしてしまったのは事実であり、春風自身も一時的とはいえ感情に走ってしまったことに困惑していた。


だが七瀬の純粋で真っ直ぐな発言を受け迷いが消えたのか、春風はいつもの表情で七瀬を見始める。

クヨクヨと考え続けるのは私らしくない、と結論付けられたのはペアのお陰であった。


「…帰ったら、夏実にも謝らなきゃね、トーゴの様子も見に行きたいし」

「はい!その調子ですよ!」


春風は自身の両頬を手で叩き、キッと前を向き直すと、七瀬の手を掴んで自ら先導しつつ見回りを開始した。


見回りを続けて約1時間が経過した頃。

最後の周回区域として本部からおよそ南に位置するエリアに二人で足を運んでいた。

しばらく歩いた先にあるエリア内には焦土化した地域があり、今も火が燻っているのか、どこからか焦げたような臭いさえ漂ってくる。

かつてここでは大規模な火事が起こったらしく、植物すら生えないこの地域に生物の気配はない。


「…ツバメちゃん…ココは……」

「…うん。前にユレンから聞いたことがあって」


噂によればここは炎華という名の化け物がテリトリーとしているらしく、一般人はまず近寄らないという危険な場所。

しかし残る見回り箇所はこの区域の先にあるエリアのみであり、他に通れる道が無い上、普段は春風達の担当ではない区域だ。


本来であれば危険なため無視される道だが、この先のエリアは比較的綺麗に居住区域が残っていることもあり、いずれ奪還する上では外せない場所でもある。

そんな中、あえて春風がこの見回りを買って出たことには幾つかの理由があった。


「!…あれ……」

七瀬が人影に気付き指を指す。

「…うん、アイツだ」

春風は持っていた鉄パイプを強く握り締める。

早速目当ての化け物の姿を捉えた。

まるで狩りをしに来たような不思議な心地のまま、二人は高台にある左上方に目を向ける。


「…ああ、先日の電気ちゃん。可愛い高校生ちゃんもご一緒で。

二人揃って出てきたってことは、アタシと戦う気でいるんだろ?」


炎華は高台で周囲を眺めていたらしく、二人に気付くとすぐに崩れた瓦礫の上を器用に歩いて降りてくる。

どことなく余裕さえ伺える様は春風に屈辱を与え、炎華はそう感じ取られる事も理解しているようだった。

「…私は炎華に特別な恨みはないけれど、二人を殺したのは同じ化け物だから。

…だから、倒す」


理不尽なのは春風も十分に理解はしていた。それでも彼女には矜持があった。

だからこそ、化け物は例え一匹でも必ず減らさなくてはいけない、という使命感からの行動だ。

少しずつ戻って来る殺意に呼応するかのように電気が鉄パイプを伝って放電していく。


「お供しますよ、ツバメちゃん!」

七瀬も鉈を構え、炎華に切っ先を向けた。

炎華はそれを見て口端を吊り上げる。


「アタシはどんな理由でも構わないけどね。さ、いつでもかかってきなよ」

手ぶらのままで手招きする炎華に、春風はムッと口を尖らせた。


「流されちゃ駄目です!一緒に頑張りましょう!」

「…うん、分かってるよ、澪莉。

…でも、ありがとう」

一つ深呼吸をすると七瀬に目を向け、次に炎華に向き直り強く睨みつける。


「ーんじゃ、始めようか!」

「っ!」

炎華が声を上げた瞬間勢いよく炎が舞い上がり、七瀬に向けて突進し始める。


「、ゎ、」

「危ない!!」

咄嗟に春風が声を上げたのと同時に七瀬の袖を掴み、ギリギリの所で瓦礫に隠れ攻撃を避ける。


「ぁ…危なかった、です…っ」

言い切る間もなく炎が瓦礫をなぎ払い、連撃を避けながら春風と七瀬は自然と二手に別れた。


「へぇ?確かに分散されちゃあ面倒だね。

なら、これでどうだい?」

すぐに炎華は近くの瓦礫の中に含まれる空気に引火させ、瓦礫ごと爆破させ始めたのだ。

コンクリート製の瓦礫は空気を含んでおり、炎華にとってこの場所は戦いやすい上に、瓦礫という爆破させれば小さな爆弾に匹敵する程の威力を持つ武器のある場所なのだ。


「!!っこの、ッッ」

負けじと春風も電気を生成し、飛んで来る瓦礫を電流で粉砕していく。

その一部が炎華にも飛んでいき、炎華は即座にかわしながら二人の動向を観察していた。


「高校生ちゃんは来ないのかい?隠れんぼが得意には見えないけどね」

「…そうです、ねッッ!!」

背後の廃墟の3階に身を潜めていた七瀬が勢い良く飛び降り、炎華に向けて鉈を振り下ろす。


「……あぁ、そっちか」

「!?、ーーッッ、」

しかし声で方向に気付いたのか炎華はすぐに振り返り、生成した炎で爆風を引き起こして七瀬を鉈ごと弾き飛ばした。


「ッ…う……、ッゲホ、」

「澪莉!!!」

「だ、大丈夫、っです…」

春風がすぐに七瀬に駆け寄るが、七瀬はどうやら自生した木がクッションとなったらしく、奇跡的に大きな外傷はないように見える。

しかし実際は枝葉によって腕や足が傷付き、じわじわと血が滲んでいくのを春風は見逃さなかった。


「…もう容赦なんてしない、絶対に倒す!」

怒りに火が付いた春風は一気に電気を放つ。周囲の瓦礫に電流が引火し、重低音と轟音を鳴らしながら破壊されていく。

辺りの廃墟も巻き添えを喰らい倒壊し始め、道幅は狭くなっていった。


「……っつ……」

「(…?…あれ、さっきまであんなに……)」

倒壊する廃墟に顔を歪める炎華を見ていた七瀬は、炎華の焼けた肌の範囲が広がっている事に気が付いた。


「(…もしかして、)

…ツバメちゃん!」

「!なに!?」

「…もしかしたらあの化け物、接近戦が苦手なんじゃねぇですか?」

「えっ……」


よくよく考えてみると、確かに炎華はこちらにあまり近寄っては来ず、むしろ先程の七瀬との対戦では吹き飛ばす作戦を取った。

あの炎ならば近距離でも勝てるはず。それなのに一切近づく様子を見せないのはおかしい、と七瀬は思い始めていた。


「…もしそうだとしたら……」

「…私が何とかして気を引かせます、その間にお願いしますです、ツバメちゃん」

「…分かった。でもムチャしちゃやだよ!」

「はいです!」


すー、とひと呼吸すると七瀬はまっすぐ炎華に接近を開始する。

炎華はすぐに気付き距離を取り始めるが、振り上げられた鉈は彼女の右脚に傷を負わせた。


「っ…顔に似合わない武器を使うもんじゃないよ、ッ!」

「!?」

炎華はとっさに砂利を掴むと七瀬の顔に浴びせかけ、七瀬は怯みながらも鉈を再び振るった。

防ごうとした炎華の右の手の平に、斜め一直線の傷が瞬時に出来上がる。


「ッッ、いったいね……」

距離を取り、それでも表情を歪めたままの炎華はすぐに春風の行方を探す。


「ーーーッッ」

背後に回り込んでいた春風は勢い良く鉄パイプを振り上げ、背を向けた状態の炎華に電流を浴びせかけようと一気に電気を生成した。


「ーーッッ、熱…っ!?」

振り返った炎華が放った炎が青色に変色し、それをとっさに受けた鉄パイプが急速に熱され、春風は両手に大火傷を負ってしまう。

炎華は放電による一瞬の光を見逃してはいなかった。

熱に耐えきれなくなった春風はつい、鉄パイプを手から離してしまった。


「ーしまっ、」

「……アタシの勝ちだね、電気ちゃん」

炎華が声を上げたと同時に、転がっていたスタッフを手に持つと一気に春風の胸を炎とともに貫いた。

肉を鈍く断ち切るような音と、肉が焼けるような音が一度に春風の体内から木霊した。

「……っは、ッゴブ、ッボ、」

「…ツバメ、ちゃ、…??」

焼かれる激痛と貫かれる激痛で頭が混乱していく。

それなのに現実は無慈悲で、口から血が吹き出ていく。


「(…ぁ、どうしよ……怒、られ)」

春風は無意識にスタッフに手を掛ける、が、それは炎華にすぐに引き抜かれ、その場に倒れ込んでしまう。


「…み、ぉ゙……ッブフ、り゙…、ど……っご……」

「……ぁ……え……??」


七瀬は信じたくない光景で血の気が引いて膝をついてしまい、春風は眩む視界の中で七瀬を探し目だけを動かす。

しかし、次第に痛みが遠のくと同時に思考も薄れていくのを春風は感じ取っていた。

滲んでいく涙で人の姿はもう捉えられず、悔しそうに眉を歪める。


(……どうしよう、夏実、に、怒られ、る。

……澪莉、無事、だと…良いんだ、けど。

痛い……なぁ、どう、し……、

…、ご…め、なさ、………

…ぉ…ねぇ、……ちゃ、

…、……)



「……うそ、嘘ですよね、ツバメちゃん…つ、ツバメ、ちゃ、起き、」

「死んだよ。この出血量を見ればわかるだろ?」

ふらつく思考にとどめを刺すように炎華が口を挟み、遺体と化した春風の瞼を片手で閉じるとそのまま担ぎ上げた。


目を閉ざしたのは炎華にとって戦ってくれた相手へのせめてもの敬意だったのだが、七瀬はそれを見て一気に現実に引き戻され、同時に怒りが沸き起こったようだ。


「……、触、るなッッ!返せッッ!!!」

少し歪んでしまった鉈を地面に叩き付け、怒りと悔しさで涙を滲ませた。

しかし威嚇には目もくれずに炎華はその場を離れていく。


「逃げるなッッ!私と、私と戦うです!!!」

「嫌だね。第一、高校生ちゃんは怪我を負ってるじゃないか。そんなハンデがある状態で戦っても…アタシは満足しない。

ーそれに、アタシなら、もっと殺し合える相手と戦うね」


炎華はフイと背を向け、仇を取りたかった七瀬は背中を狙おうと一歩踏み込もうとしたが、貧血のせいで力が入らず、足が上手く動かない。

ーそれだけじゃない。足が動かないのは、それだけではない。

それを感じ取ったと同時に、七瀬は狂ったように叫び始めた。


「ーッッ、うあぁ゙あァ゙あぁ゙ァ゙ァ゙ッッ!ぁ゙ッッあぁ゙ぁ゙!!!!!」

仇が、春風の仇が遠くに消えていくのをただ見ている他に何もできない。

それどころか、春風の遺体すら遠くに行ってしまうその悔しさと、自分が助かったことへの安堵が入り混じった形容し難い感情を、鉈でひたすらに地面へ何度もぶつける。


見透かされた。炎華には心のすべてを見透かされていた。

鉈が歪んでいく不快な金属音と去っていく足音だけが木霊し、しばしの間その場は異様な空気に包まれていた。

帰りが遅い事に不安を感じた樋崎は緋高に声をかけ、しばらくの捜索後七瀬を発見すると同時に大規模な瓦礫の破壊、広く滲んだ血痕を見て二人は事情をすぐに察した。


「……春風ちゃんまで…っ……」

「……何なのよ…なんで、こんなッ……」

緋高は思わず近くの瓦礫に手を強く叩き付け、己の対応の遅れを悔やんでいた。

樋崎も立て続けに友人を亡くし精神的に追い込まれつつあったが、七瀬の存在があったため気丈に振る舞わんとしていた。


「……ごめんなさい……私が、もっと……」

「…七瀬ちゃんは何も悪くない。

それに…嫌かもしれないが、この場を離れないと。また化け物が来ないとも限らない…」

「……はい……」


七瀬も樋崎も悔しさを懸命に堪え、緋高はそれを辛そうに眺めつつも指示を出し、足場が悪い中懸命に本部に戻っていった。


(…こんなにも、俺達は、人間は無力なのか?

……何も、変えられないのか?)

人の弱さを噛み締め、やり場のない悔しさを発散する場も時間も無いままで、三人は同じ感情を引き摺り続けた。



春風の遺体が行方不明になってから数日が経過し、七瀬はあの時合流した樋崎と緋高に願い出ていた。


「……お願いです。

ツバメちゃんを、探したい……んです」

「…」

「……」


「…無茶な事は分かっているんです…、でも……」

「…………夏実ちゃん」

「…分かってるわよ、手伝うわ。

……私だって、化け物のところなんかにツバメを置いておきたくない」


緋高は少し悩んだものの、樋崎と同様に遺体を放置することはできないと意見が一致する。

それに連れ去られたとあれば、ローザが見逃すわけがない。今頃、どこかの部位が持ち去られていることは間違いない。


せめて、埋葬くらいはしなければ同じ人間としての面子が立たなかった。

……それに、置いてきてしまったのは春風だけではないのを、緋高も樋崎もよく理解していた。

「…三人で行動しよう。詳細を知っているのは俺達だけだからね」



明け方に春風の遺体の捜索を開始したが、瓦礫を退けながらの捜索は困難を極めた。

かと言って大人数で作業を行うのは得策ではない。もし一気に攻め込まれでもしたら一般市民の命も、本部さえも失いかねない。

3人とも必死に目を凝らしながら探し回っていると、ふと七瀬が甲高い鳶の声を耳にする。


「…あの鳥……」

「どうしたの?」

「…本部に戻ってからも思ったんですけど…最近多いんですよね、鳥……京さんが食料の確保には困らねぇって言ってたですけど…」

「なによ、鳥なんてどこにだって……」


最初は誰も鳶の飛来の多さにはなんの疑念も抱かずにいた。

だが、ここは『生物が住まないような』荒れ果てた土地。

そんな土地で、なぜこんなにも多くの鳥が飛んでいるのか?

そう樋崎が考えると同時に、ふと嫌な予感が脳裏をよぎった。


「っ……」

「夏実ちゃん!?何処に行くんだ!」

樋崎は思いつくや否や、鳥が多く飛行するルートを辿りながら崖を乗り降りして進んでいく。

足場の悪い中、時折転びながらも必死に鳥の後を追い続ける。


「(嘘よ、だってそんなコト、一度も)」

脳内で何度も否定しながら鳥を追跡していくうちに、次第に開けた場所に足を踏み入れる。

数秒と経たずに、樋崎は全てを理解した。



『ッギャァ、ギャァ』

『ッピィィ』

烏や小鳥が群がる先。

嘴で引き上げられている、赤色。

近くに転がっているのは、割れたゴーグル。

まさか、そんな。嘘、嘘、嘘、嘘嘘嘘嘘。



「ーーーーーー」

声を失った樋崎の足元でカツン、と歪んだ金属音が鳴り、樋崎は目だけでその物体を見た。

変形した、持ち手が焼け焦げた鉄パイプ。


「ーぁ……

ッぁあ゙ァ゙あぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!離れろ!!!離れろぉ゙ッ゙ッ!!!!!」

樋崎は無意識に鉄パイプを手に取ると、鳥目掛けて何度も振り回す。

追い払うことに必死になり、周囲が見えない程に混乱していた。


「夏実ちゃん!?」

追ってきた緋高がすぐに異常事態に気づき、樋崎に接近する。すかさず腕を掴んだ際に嫌な臭いを嗅ぎ、彼女の持つ鉄パイプに目を向けた。


「(…腐食!?)

夏実ちゃん!しっかりしてくれ!」

「離しなさいよッ!ツバメが、ツバメがっ」

「…ツバメ、ちゃん…?

……ッッ」


暴れていた先の光景を見た緋高は言葉を失い、喉がひゅ、と嫌な音を立てるのを聞いた。

ーこんな、無残な死が、よりにもよって、この子が。


「……ぁ……つ…ばめ……ちゃ……」

後から来た七瀬も事態に気付いたらしく、膝を地面に付けてへたり込み、顔を青くしながら涙をボタボタと流していく。

三人全員が、顔の原型を無くし始めている遺体から目を離すことができなくなっていた。



(地獄というのは、まさにこの事なのだろうか。

だとしたら、俺達は一体なんの罪を犯したんだ?

俺達は、どうしたら許されるんだ…?)


答えのない解いが脳内で渦巻きながら、樋崎と緋高、七瀬は目の前の現実を受け入れられずに、ただ時間が過ぎていくのを感じていた。