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WUNDERKAMMER

犬の毛皮

2017.11.25 11:07

知り合いの話。

仕事でイギリスに出張した際、現地の同僚から変わった話を聞いたという。

その同僚がまだ幼い頃、彼の家では犬を飼っていたそうだ。

実家の山村からもらった、白い雑種犬だった。

色々と変わった所のある犬だったらしい。

普通、犬猫の類いは、目を見つめるとすぐに視線を逸らす。

好奇心や注意が続かないためらしいが、その犬はじっと見つめ返してきた。

根負けして視線を外すのは、いつも彼の方だったという。


ある日、身体の調子が悪く、学校からいつもより早く帰宅した。

門を潜り庭を歩いていると、いつもは彼を迎える犬が出てこない。

どうしたのかな?と思い、犬の名前を呼びながら犬小屋を覗いてみた。

愛犬の姿は見当たらない。

しかし小屋の床には何か毛のような物が。

持ち上げてみて、思わず悲鳴を上げる。

それは可愛がっていた犬の毛皮だったのだ。


悪い冗談のように目と口が黒い穴を開けており、微かに温もりが残されていた。

ショックで泣き喚きながら、母屋へと駆け込む。

驚きながら迎えてくれた母親に、「犬が剥かれちゃった」と訴えた。

母と慌てて外に出ると「バウッ!」という吠え声がかけられた。

見ると、玄関のすぐ外に犬が座り込んで、尻尾を振りまくっていた。

犬は激しく息を弾ませていた。まるで慌てて駆け戻ってきたかのように。

それを見た母親が、「嘘を吐くのもいい加減にしなさい」と説教をする。

いくら「本当に見たんだ!」と言っても、もう相手にされない。

奥に引っ込んだ母親を恨めしく思いながら、彼は犬の前にしゃがんだ。

いつもは目を逸らさない犬が、その時だけはツッと余所を向いた。


こいつめ、謀りやがって。

腹立ちまぎれに、頭を強くクシャクシャにしてやったという。

犬は機嫌を取るように、その手をペロリと舐めてきた。


「俺が思うに、あいつは時々毛皮を脱いで、何かしていたんだな。

 結局、現場は押さえられなかったけど」


犬は彼が大学に入学する年、フイッと姿を消してそれきりだそうだ。

「あんな犬でも、いなくなると寂しいよ」

そう言っていたという。

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