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保険業法の改正案について(参議院浜田聡議員のお手伝い)

2022.03.24 06:17

 そろそろ桜がさくらしい、もう桜は咲くら。

 現在開かれている第208回通常国会にて保険業法の一部を改正する法律案が提出されていますので少し考証してみます。

画像:ACフォトより

 法案の検討内容として「政府は、この法律の施行後五年を目途として、生命保険契約者保護機構の財務の状況、保険会社の経営の健全性の状況、保険業を取り巻く経済社会情勢の変化等を勘案し、必要があると認めるときは、この法律による改正後の保険業法の規定について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」その理由として「保険業を取り巻く経済社会情勢の変化を踏まえ、保険契約者等の保護を的確に行うため、生命保険契約者保護機構に対する政府補助の措置の期限延長を行う必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。」としています。

下記資料:金融庁作成

 生命保険契約者保護機構とは、生命保険会社の保険契約者のための相互援助制度として、万一、生命保険会社が破綻した場合には、破綻保険会社の保険契約の移転等における資金援助、補償対象保険金の支払に係る資金援助等を行う機関です。上記の図より、今回の法改正は生命保険契約者を保護する為の補償財源として政府補助を約定する規定を5年間延長する案であり、これまでも繰り返し延長されて来た事案です。生命保険会社の各社が既に販売してきた保険商品の支払負担のリスクを考えると巨額の補償財源が必要となります。保険業法では生命保険会社に対して責任準備金という保険会社が保険金を確実に支払うために支払う予定の保険金や給付金から将来保険会社が受け取る予定の保険料を差し引いた額を負債勘定として計上しないといけないという規定があります。しかしながら、そのような規定があったとしても、バブル景気の崩壊など著しい経済状況の変化が起きたり、東日本大震災のような災害が起きてしまうと保険会社の中には事業の継続ができない状況に陥ることもありえます。そこで、生命保険契約者保護機構のような生命保険会社の互助会のような機関が作られました。ただし、財源を各生命保険会社だけで負担すると生命保険会社の財務状況が著しく悪化してしまいます。そこで政府が応分の借入保証と生命保険契約者保護機構の補償財源を超える場合の負担を行うという時限措置を保険業法に規定し、必要に応じて延長して来ました。その間、生命保険会社も毎年330億円(合計)の積み増しを行ってきています。

 今回の改正案である5年間の政府補助を約す規定の延長はさしあたり必要な措置だと考えます。もし保険会社が経営破綻した場合でもその保険会社の責任準備金の90%までは生命保険契約者保護機構と政府が保証してくれるということが国民の保険業に対する信頼に繋がっていると考えられるからです。国民生活と金融市場の安定と信用の維持の為にも政府の保証と補助は継続するべきだと思います。

 政府は生命保険契約者保護機構の借入保証と資金補助を行うだけではありません。金融庁が各生命保険会社の責任準備金の積み立て状況(支払い能力)とソルベンシーマージン(支払い余力)について監督を行っています。よって、政府は各生命保険会社を監督しつつ、企業の破綻リスクの約半分を負っている状態です。

 さて、生命保険契約者保護機構の運営状況を見てみます。創設後、最初に適用されたのが東邦生命です。約6500億円の債務超過に陥っていましたが営業権代としてGEエジソン生命(後にジブラルタ生命)約2400億円で譲渡、生命保険契約者保護機構の援助として約3663億円が投入されました。東邦生命の破綻時である2000年時点での生命保険契約者保護機構の積立金残高は380億円に過ぎなかったことから残りの3000億円以上を金融機関からの借入で補われました。その後、毎年、積立金から返済しています。

資料:歴史で覚える日本の生命保険5 、かづな先生の保険ゼミより

 その後、上記のように生命保険会社の破綻が相次ぎました。既に東邦生命が破綻した際に生命保険契約者保護機構の資金枠は約1800億円ほどしか残されていませんでしたので、2000年から繰り返し保険業法の改正が行われるようになり、政府の国庫補助枠として4000億円の枠が設定されました。2006年には4600億円となり現在に至っています。

 東邦生命以外にも破綻した生命保険会社に生命保険契約者保護機構の資金援助として日産生命に約2000億円、第百生命に約1450億円、大正生命に約267億円、大和生命に277億円が拠出されています。これらの資金は事前に積み立てられた財源から支払われることはなく、その多くは金融機関からの借入で賄われています。破綻保険会社の多くは会社更生法の適用を受けていますが、千代田生命、協栄生命、東京生命のいずれも生命保険契約者保護機構には拠出を求めませんでした。東京生命は規模が小さかったことからT&Dファイナンシャル生命が援助金を必要としなかったのだと思いますが、千代田生命の債務超過は約5900億円、協栄生命は6895億円となっており巨額です。営業権も千代田生命が約3200億円、協栄生命が約3640億円という巨額です。千代田生命と協栄生命の受皿となったのは共にジブラルタ生命です。ジブラルタ生命は総資産約200兆円の米国のプレデンシャルファイナンシャルグループの一社です。高い支払い能力を誇示する為に生命保険契約者保護機構の援助を必要としない更生計画を作成し、管財人と東京地裁からの受皿会社の選定を優位に進めたのだと思います。その後、大和生命の破綻時にはジブラルタ生命の親会社であるプレデンシャルファイナンシャルが受皿会社に選定されましたが、その際には約277億円の生命保険契約者保護機構の援助金を受け取っています。

 特筆すべきは東京生命の破綻時の受皿会社となったT&Dファイナンシャル生命以外は全て外資系の生命保険会社であることです。T&Dファイナンシャルグループは太陽生命と大同生命が合併した日本の生命保険会社です。会社更生法を申請した東京生命の更生計画にT&Dグループは生命保険契約者保護機構からの援助を受け取らないこととした為に外資系保険会社ではなくT&Dグループが受皿会社として選定されました。戦後、破綻した8社の生命保険会社の内、7社の外資系保険会社が受皿として承継しています。7社の内、5社(千代田生命、協栄生命を除く)が生命保険契約者保護機構から援助金を受け取っており、その合計は約7412億円に上ります。その一部が日本の生命保険会社の積立金、残りの殆どが日本政府の保証付借入(公的資金)によって支払われています。

 以上のことから懸念事項が2つあります。一つは補償財源は事前積立と規定されていますが、借入金の返済や利払いに使われており、現実的には事後的な拠出となってしまっていることです。それは、最初の拠出となった日産生命及び東邦生命に拠出した際から既に金融機関からの借入に依存しており、事実上の事後的な拠出になっていました。法規定で事前積立を義務付けていることは制度が創設された当初から形骸化してしまっていると言っても過言ではない状態だと言えます。金融庁の各生命保険会社への監督が機能していて、保険金の支払い能力、支払い余力が十分に担保された状態を確認できれば事前積立の負担を必要としないように法改正することも一案ではないでしょうか。各保険会社は責任準備金を毎年計上しており、それに加えて生命保険契約者保護機構の積立金を捻出することは過大な負担になっているのかもしれません。米国ではニューヨーク州だけが事前積立制で、それ以外の州はすべて事後的な拠出制度になっています。

 もう一つは経営破綻した生命保険会社の殆どが外資系企業に買われていることです。言い換えれば、日本の生命保険会社の破綻は外資系保険会社の日本進出の足掛かりとなっていることです。破綻した生命保険会社を保険業法による手続きで処理したのは、日産生命、東邦生命、第百生命、大正生命の4社で約7380億円もの公的資金(政府保証)が投入されています。4社とも外資系保険会社が受皿会社となっています。破綻した生命保険会社の残り4社は会社更生法の適用を受けて債務をカットする形で再生計画を立てています。つまり、公的資金の投入はありませんが、債務の中から4社合計で約6745億円を全額免除とする再生計画となっています。一般更生債権は全額カット、優先債権についても8%から38%をカットされています。このことは、バブル崩壊と超低金利政策の受け、日本の生命保険会社が逆ザヤ状態に陥って厳しい経営環境にある中で、外資系保険会社が公的資金や会社更生法を利用し、有利な条件で日本の生命保険市場に参入することを可能にしました。結果として、外資系保険会社の為の生命保険契約者保護機構になってしまっているのです。一見、本末転倒のような印象を受けますが、多くの保険契約者は日本国民であることから、決して無駄な制度ではありません。

 今後の課題として、各生命保険会社は不適切な経営管理、キャッシュフローの過少申告、不適切な責任準備金積立、無理のある資産運用、代理店や再保険事業者との異常な取引などを是正し、且つ、金融庁は厳しく監督し改善を進める必要があります。少なくとも個々の経営能力の欠如による生命保険会社の経営破綻が起こらないような体制を整えなければなりません。破綻処理に公金が拠出される可能性があるので当然のことと思います。

 また、現在の契約者の保護の範囲である責任準備金の90%まで補償されるという規定がそのままで良いのかという検討も今後は必要になると思います。契約者保護の為に誰がどこまで負担するのか、社会的なコストを最小化する為にマクロ的な議論が必要だと思います。また、これまでの破綻処理に関する検証を行わなければならないと思います。

 保険会社の国際グループ化も進んでいますが、支払保証制度は各国で統一されていません。統一されていないどころか、支払保証制度が整備されていない国もあります。グローバル化が進む保険業において契約者保護の観点から各国との連携も図っていく必要がある

以上、最後までご拝読を賜りありがとうございました。

参考:生命保険契約者保護機構

   www.seihohogo.jp

   金融庁、保険契約者保護機構制度(保険会社のセーフティネット)

   https://www.fsa.go.jp/ordinary/hoken_hogo/index.html

   歴史で覚える日本の生命保険5

   www.fp-kazuna.com/ins/history5/

   金融庁、保険業法の一部を改正する法律案の概要

   www.fsa.go.jp/common/diet/208/01/gaiyou.pdf