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とある冒険者の手記

V.掌の感触

2022.01.09 05:10

「ただいま」

「おかえりヴァル!」


ガウラはキッチンから顔を出し、GCの任務から帰ってきたヴァルを出迎えた。

裏稼業を請け負わなくなってから、ヴァルはある意図があってGCに所属し、任務をこなすようになった。

顔を全体隠す訳にはいかないので、目元を隠す装備を着用している。

階級をある程度上げておきたい事もあり、厄介な任務を選び、連日任務続きになるとこが多かった。


「任務はどうだった?」

「やっと今日で終わったよ。単独で出来れば直ぐに終わりそうな内容だったけどな。GC任務となると、そうは行かないのが厄介だな」


首を軽く振り、溜め息を吐くヴァルに苦笑するガウラ。


「もうすぐ夕飯出来るから、先にシャワー浴びといで」

「分かった、使わせてもらう」


ガウラに促され、シャワー室に向かう。

汗を流しながら、ヴァルの顔を綻んでいた。

任務から帰ってくると、用意されているガウラの手料理。

それが、今のヴァルの楽しみであった。

シャワーを終え、体を拭き、髪の水分をある程度拭きとり、ダイニングへと戻る。

テーブルに並べられた夕飯に、無意識に頬の筋肉が緩む。


「お!良いタイミングで戻ってきたな」

「少しレパートリーが増えたな」

「今日は作ったことの無いものに挑戦してみたんだ!」


気づいて貰えたのが嬉しいのか、尻尾がユラユラと揺れる。

その様子に、ヴァルはクスッと小さく笑い、席に着いた。

ガウラも席に着き、2人で食事を始める。


「ん、美味しい」

「それは良かった」


食事をしながら他愛のない話をする。

食事も終わろうとした頃、ガウラが「そういえば…」と話を切り出した。


「ヴァルはいつもどこで寝てるんだい?時々、フロアソファで寝てるのを見てはいるけど…」


素朴な疑問を投げられた。


「階段に座って寝たり、外の木の上だったりだな」

「木の上!?」


ガウラにとって予想外の返答だったらしく、声がひっくり返る。


「賊なんかを警戒するには、そういう所で寝た方が気づきやすいんだ」

「…その辺は、双蛇党の巡回もあるから心配いらないぞ?」

「万が一、という事もあるだろう?」

「はぁ…心配症と言うか、なんと言うか…」


溜め息を吐きながら、ガウラは黙り込んだ。

すると、良いことを思いついた表情で顔を上げた。


「ヴァル!一緒に寝よう!」

「…は?」

「寝る時まで警戒してたら休まらないだろ?ウチにはベットは1つしかないしな!それに女同士だから問題ないだろう!」

「………」


ガウラの提案に呆気に取られるヴァル。


「ま、待て!問題あるだろ!」

「どこに問題があるんだい?」

「この前、お前が猫になった時、アリス達が帰ったのに気が付かない程に深く寝てしまったんだぞ?」

「それのどこに問題が?」

「いち早く危険を察知出来ないだろ?!」

「だーかーらー!そんな心配いらないって!今日から一緒に寝る!これは決定事項だ!」

「……はぁ……」


今度はヴァルが溜め息を吐く番だった。

だが、ガウラ側の立場になってみれば、居候とは言え寝床が階段やら木の上やらだったら気を使うだろうと考え、素直に従う事にした。

食事が終わると、早々に食器を片付けるガウラ。

それを洗い終わると、ガウラは念押しとばかりに言った。


「私はシャワー浴びて来るから、先にベッドに行ってるんだぞ」

「……承知した」


着替えとタオルを持って、シャワー室に向かうガウラを見送り、ヴァルは寝室へと向かう。

ベッドに横になり、天井を見上げる。


「全く、ガウラの強引な所には敵わないな…」


小さく溜め息を吐きながら言ってはいるものの、その表情は微笑んでいた。


「なんだか…夢…みたいだ…」


そう呟いて、ヴァルの意識は微睡みに沈んでいった。



「ヴァルー、お待たせー!」


そう言って寝室に入ってきたガウラ。

返事が帰ってこない寝室に、首を傾げながらベッドに向かうと、寝息を立てて居るヴァルの姿があった。


「任務続きで疲れてない訳ないもんなぁ」


苦笑しながらガウラもベッドに横になる。

その時にヴァルの手に触れた。

その感触に、何が思うところがあったのか、ガウラはヴァルの掌をにぎにぎし始める。


「皮が硬いな…特に指の付け根付近…」


ふと、以前聞いたヴァルの子供の頃の話を思い出した。


「きっと…修行中に、豆ができたり、皮が剥けたりしたんだろうな…」


里で1番の実力を身につける程だ。

修行も、過酷なものだったに違いないと思い至る。

それが自分を護りたい一心だった事を考えると、なんだかむず痒い気持ちになった。


「おやすみ、ヴァル」


むず痒い気持ちを誤魔化すように、ガウラは瞼を閉じ、微睡みへと意識を沈めていった。