技術力と優しさがチームの力…②
矢内原ウィメンズクリニック スタッフの方々のお話
2017年10月発行『i-wish ママになりたい 卵と胚と着床』
ご夫婦の夢と希望大切な卵をお預かりする私たち胚培養士
胚培養士は、患者さんの卵を観察していくことになります。
採卵時に、医師が採卵した卵子をディッシュ上で検卵しますが、このときに卵子と出会うことが、最初の出会いになるのかもしれません。採卵の時には、看護師から卵胞液の入ったチューブを受け取り、培養室で検卵作業をします。
そして、卵子の評価から受精(c-IVF=媒精やICSI=顕微授精)や、受精卵(胚)が体外で順調に分割成長するためにストレスがかからないよう、管理をしていきます。
受精の時には、ご主人の精液が必要になりますから、精子の調整を行います。
それにより、受精から胚の成長成績が大きく変わるということも考えられます。まずは最大限に卵子や胚へのストレスがかからないようにすることを考え、ハードの部分でもソフトの部分でも向上できるものがあればできるだけ導入をしていきたいと思っています。
その点、他のスタッフや先生の理解も厚く、話しやすい環境であることがとてもよいと思います。それがチーム間の理解を深め、患者さんお一人おひとりへの集中や理解も図れることだと思います。
培養士は、ふだん培養室にいることが多いため、何を行っているのか分かりづらいイメージもありますが、ご夫婦の大切な卵を預かる以上、お預かりしている卵の状況や移植に向け、移植胚の選択をどうしていくかのデータを作成し、医師へのデータ提出など責任を持って仕事をしていす。
そうすることで、さらに責任と緊張も高まり、培養室でのミスも注意深く避けていくことができるものと思います。
ダブルチェックやいろいろなミスを避けるためのプログラムも重要ですが、私は、お一人おひとりの患者さん、1組ひと組のご夫婦の胚をみて、とても貴重な将来への命のもとをお預かりしているという意識を高めることこそ、好成績にもミス防止にもつながる基本だと思っています。
信頼をベースにベストな診療へのリーダーシップ
2016年、ブラジルで行われたリオでのオリンピックでは日本は過去最高数のメダル獲得という結果を残しました。本当に素晴らしい個の努力とチーム力があってのことだと感動しました。医療でもチーム力は欠かせません。そのチーム力を発揮するためには、日頃の努力とチーム内の努力や情報共有化意識、雰囲気が大事です。
生殖医療は、まだまだ発展途上の部分もあり、当院のスタッフも、常に充実を目指しているため、それぞれの部署が本当に良く働いてくれます。そして何より、それそれが話しやすく、他部門や医師との意見交換もしやすい環境であることがよいと思います。
患者さんお一人おひとりに対して、最良の結果へ導くために目を向けること。これは医師がもっともやっていかなければならないことです。そこに集中できるよう、意識を共有してくれていることが何よりも価値深いものと考えています。
最近の傾向では、20歳代の方が増えているため、患者層では40歳前後の方と2つの山ができてきています。この2つの山はバックボーンも生活環境も大きく違うため、そうした違いにも配慮しながら新たな工夫や取組みも必要だと考えています。
最後に
取材では、各部門から責任ある方を一堂に会してもらい、お話を伺い、矢内原ウィメンズクリニックは、増々チーム力が強まっていると感じました。その背景にあるのは人への優しさなのでしょう。
それは、患者さんへの優しさはもちろんですが、スタッフ間にも生きています。スタッフ1人1人に人を大切にするという根幹があって、1組1組のご夫婦を中心にその治療が最良の結果にたどり着くよう、1つのチームになっているのだと感じました。そこには、やはり医師が生殖医療だけを行うのではなく、産科までを行うことから自然に沸き起こる、妊娠中の医療から生活までのケア、健診。そして分娩時には、赤ちゃんが無事に生まれてくるために、またお母さんが安全に出産できるための管理と注意。なによりも不妊治療がそこに結びついていることや産むことと、命の尊さ、そして、それを担うスタッフとしての当然のプロ意識の現れがあるのかもしれません。
ですが、それは人としての優しさがあってこそ。それが結集してできたチームは産婦人科医療において、そこを頼る患者さんご夫婦への基本としてずっと変わらないでいて欲しい姿だと思いました。