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公認会計士法の改正法案について(参議院浜田聡議員のお手伝い)

2022.03.31 02:39

 桜が満開です、花見宴会は我慢かい、それは不満かい、お酒を頼まんかい・・・。

 公認会計士法の改正案が今国会に提出されています。

 上場企業の監査業務の信頼性の向上を図ることを目的としています。それは、現在の上場企業の監査業務の能力の向上を図るだけではなく、監査担当者の配偶関係による資格制限や公認会計士としての資格要件の見直しなどを含む改正の必要性が生じているからだということです。企業活動がグローバル化する中で信頼に足る株式市場を確保する為には法的な整備は欠かせません。

 では具体的な内容を確認していきます。

下記資料:金融庁作成、法案概要より

 今回の法改正で上場企業の監査に関する規律は全ての監査事務所に課せられている規律より更に厳しい規律が課せられるように法規定されます。とはいえ、決して厳しい規律が加わるわけではなく至って容易な内容です。

 監査業務は利害関係者や取引先企業などは請け負えないことになっています。上場企業の監査に関しては、それに加えて日本公認会計士協会による上場会社等監査人名簿への登録を受けなければ上場会社等の財務書類について監証明業務を行えなくなります。この制度は既に2019年より日本公認会計士協会が自主的に行って来た制度です。その制度に法的拘束力を伴うように規定したに過ぎません。つまり、これまで通りです。

 上場会社等監査人名簿の登録要件は公認会計士が5人以上所属していることとしています。管理体制の整備に関しては平成28年に金融庁の有識者会議で取りまとめた「監査法人のガバナンス・コード」に基づいて規定されます。このガバナンス・コートの内容も実に抽象的であり、5つの原則として、

・監査法人がその公益的な役割を果たすため、トップがリーダーシップを発揮すること

・監査法人が、会計監査に対する社会の期待に応え、実効的な組織運営を行うため、経営陣の役割を明確化すること

・監査法人が、監督・評価機能を強化し、そこにおいて外部の第三者の知見を十分に活用すること

・監査法人の業務運営において、法人内外との積極的な意見交換や議論を行うとともに、構成員の職業的専門家としての能力が適切に発揮されるような人材育成や人事管理・評価を行うこと

・さらに、これらの取組みについて、分かりやすい外部への説明と積極的な意見交換を行うこと

などを規定しているに過ぎません。上場企業の精度の高い監査業務を行う為に厳しい規律を設けるという法制化の目的には至らないような内容の管理体制に対する規定だと思います。

下記資料:金融庁作成、モニタリング

 上記のように業務運営だけではなく、虚偽などが疑われた場合の検証も金融庁の指摘を得ることなく公認会計士の監査審査会が行うことが出来る権限が与えられます。とはいうものの弁護士会の懲戒請求みたいなもので公認会計士による自浄作用に頼った制度に過ぎないように感じます。監査法人を公認会計士審査会が検証するのですから身内意識が少なからず作用する仕組みなので制度としては不十分なように思えます。審査会は他の仕業である弁護士などが請負うような仕組みにした方が客観性を保てると思います。

下記資料:金融庁作成、配偶者に対する業務制限

 上記の図のようにこれまでは監査対象となる会社の役員の配偶者が所属する監査法人はその会社の監査業務に携われないように制限されていました。今回の改正案では監査対象となる会社の役員の配偶者が所属する監査法人であってもその会社の監査業務に携わっていなければ構わないとされています。大規模な監査法人であればそれで良いと思いますが、中小規模の監査法人でしたら監査内容に影響を及ぼすことも考えられると思います。登録監査法人は公認会計士が5人以上であれば登録が出来て上場企業の監査業務を請け負うことが出来ます。対象会社の役員の配偶者が小規模な登録監査法人に所属していれば監査内容を確認したり、監査方針に意見することも内々に出て来しまうと思います。監査法人の規模の大小でコミュニケーションの距離感も違ってくることから、できれば、「公認会計士○○人以上の監査法人に関しては」という登録監査法人の規模を限定する法改正であった方が良いのではと思いました。

 法改正の主要な点は以上です。その他に下記のような改正項目があります。

*公認会計士として登録する際には勤務先を申告することが義務付けられる

*公認会計士として登録する為に必要な実務経験が2年から3年に引き上げられる

*研修に不参加であり2年以上所在不明の場合は公認会計士の資格を取り消される

などがあります。これらは正に必要な措置だと思います。

 今回の公認会計士法の改正の背景として上場企業の監査業務について大手の監査法人の受託する件数が減少傾向にあり、中小規模の監査法人の受託が増加していることが挙げられます。

下記資料:金融庁作成、上場企業の監査の担い手の推移

 上記のように大手監査法人の上場企業の監査業務の受託が減少しているのは高額な監査報酬が原因なのだと思います。3年前までは大手監査法人の受託率が72%であったのが2021年には67%まで下落しています。私の経営する会社の会計監査もデロイトトーマツにお願いしていましたが毎年結構な出費となり負担に感じることもありました。それでもメインバンクに気を遣いトーマツとの契約を続けていました。三菱系金融機関がメインバンクの企業はデロイトトーマツを、住友系金融機関がメインバンクの企業はあずさ監査法人に依頼していることが多いです。見えない不文律のようなものがあるように感じます。例えばデロイトトーマツが三菱系の企業を、あずさが住友系の企業を、それぞれ監査業務を請け負うことは利益相反にはならないのかという疑問も感じます。つまり、監査している企業の不利益な指摘も中立な立場から監査法人は指摘しないといけませんが、系列か関連企業のような状況に監査法人がなってしまうと正確に監査できるかどうか疑問に思われてもしょうがないと思うのです。各企業が持つ経営倫理に頼ることなく、監査の中立性が確保できるような規定を研究する必要があるかもしれません。

 上場している日本企業は約3900社あります。大半の上場企業を大手監査法人であるデロイトトーマツ、新日本、あずさ、PwCあらたの4社が請け負うことは無理があります。そのため、中小規模の監査法人の果たす役割が年々高まっていますが、中にはキャパ以上の監査を引き受ける法人が出てくることが避けられません。その結果、監査の質にばらつきがあることを指摘されるなど新たな課題が生まれているのです。

 報酬が安い中小規模の監査法人に4大監査法人が請け負っていた企業の監査業務が移行することは決して悪いことではないと思うのですが、監査の質の確保は徹底されなければなりません。

 上場直後の業績修正が頻発しています。最近の例ではスマホゲーム開発のワンダープラネットがマザーズに上場後わずか2か月で業績を大幅に下方修正して信用を逸しています。パーソナルトレーニングを提供するトゥウェンテーフォーセブンも上場後1か月で業績を下方修正したことによって株価が三分の一になるまでの下落を招きました。ゲーム開発のGUMIも上場から3ヵ月で業績の下方修正を行っています。これらは監査事故と言っても過言ではないかもしれません。

 上場企業の会計監査は資本市場の重要なインフラですので精巧な監査は当然のことです。抽象的なガバナンス・コードではなく具体的なルール作りを行うことが必要だと思います。

企業のIPO準備から上場後の監査に至るまでの業務を4大監査法人が請け負うことが少なくなっています。4大監査法人の報酬が高額であることも影響していますが、4大監査法人からしても報酬とリスクが見合わないと考えているようです。そこでIPOを目指して準備している企業の受け皿となっているのが中小の登録監査法人です。IPOによって新規に市場に参入する企業を支援することは、企業の財務情報の信頼性を担保することを通じて資本市場の活性化を担う役割が期待されている公認会計士の使命に合致しています。上場企業が増加しづらい環境にならないように中小の登録監査法人の監査能力の向上に資するようなサポート環境等を検討してはどうかと思います。

 新型コロナウイルスの感染拡大は会計士の仕事に劇的な変化をもたらしました。監査現場で非対面のリモート化が進み、AI(人工知能)などデジタル技術の導入が加速しています。公認会計士は新しいテクノロジーを駆使して不正会計等が起こらない監査体制を構築する必要があります。被害原告団だけでも3200名以上に上ったライブドア事件のようなことが再び起きないように会計監査業務における技術革新を政府として支援していくことをご検討いただきたいと思います。グローバル経済競争が益々激しさを増す中で公認会計士の業務も時代の奔流に遅れることなくデジタル化を進めることが必須となります。設備投資に対する余力の小さい中小の監査法人のデジタル化対応に対して政府による特別な支援を期待したいと思います。

 業界大手である4大監査法人がコンサルティング業務やM&A業務など非監査業務に注力している中、上場企業の監査業務やIPO準備に関わる業務を中小の監査法人に依頼する企業が今後も増えていくと思われます。政府は、中小の監査法人がおしなべて信頼性の高いその受皿になれるように教育研修や情報共有、システム共有、インフラ投資支援などサポート体制の構築を一考してみてはいかがでしょうか。

以上、最後までご拝読を賜りありがとうございました。


参考:金融庁、公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律案 概要

https://www.fsa.go.jp/common/diet/208/02/gaiyou.pdf

金融庁、公認会計⼠法及び⾦融商品取引法の⼀部を改正する法律案 説明資料

https://www.fsa.go.jp/common/diet/208/02/setsumei.pdf

金融庁、公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律案要綱

https://www.fsa.go.jp/common/diet/208/02/youkou.pdf