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マヤ

『W旦那+(プラス)』第6~7話 (街中~婦人服専門店) 三代目妄想劇場

2017.11.15 03:15


臣に手を引かれながら、銀座の街を歩く二人。



臣は黒のニット帽を被り、サングラスをしている。



「理愛、薄着で寒いだろ?」



「平気です」



完璧な変装をしている訳でもないのに、

臣が今をときめく有名なアーティストだとバレないのは、すぐ隣を歩く女性のせいだ。



理愛はシルクシャツの上に、薄手のコートを羽織っている。



銀色の長い髪と、ベージュのコートが風に揺れる。



街灯に照らされて通りをゆく姿は、まるで光が人の形をとっているかのよう…



立ち止まって振り向く男女は、臣の方を気にするでもなく、その光輝く女性を目で追っている。



「理愛と一緒なら、プライベートのショッピングも安心だな」



特に関心も持たず「そうですか」と理愛が答える。



ふと立ち止まり、「相変わらず、冷たい手だね」と臣が言う。



「心はあったかいのかな?」



臣は、自分が着ていたウールのシャツコートを脱ぎ、理愛に着せる。



薄いTシャツ一枚になった臣を見て、



「旦那さま…風邪引きますよ」と理愛が言う。



「鍛えているから、大丈夫だよ」



そう言って正面から理愛を軽く抱き寄せる。



「こうしてるとあったかいでしょ?」



「はい…」



理愛の髪に触れ、



「早くしないと店閉まっちゃうね」



優しく微笑みかける。





銀座の一等地にあるオーダーメイドの婦人服専門店。



試着室から、ベージュのワンピースを着た理愛が静かに出て来て、椅子に腰かけている臣の前に立つ。



スポットライトに照らされて、舞台に立つ女優のように、全身から光を放っている。



じっと見ていた臣が、「おいで」と理愛の手を取る。



椅子に座ったまま、臣の膝の上に理愛を座らせる。



後ろから理愛の腰に手を回し、ギュッと抱きしめた。



隣に立って見ている店の若いスタッフは、火が出そうなくらい赤い顔をしている。



「登坂様、素材の感じはいかがでしょうか?」



臣は理愛の髪に顔を埋めながら言う。



「うん、抱き心地はこれがいい」



「では、この素材でお仕立てさせていただきます」



「す…すぐにお見積書をご用意致します」



スタッフはそう言って、床のカーペットにつまづきそうになりながら、部屋を出て行った。



その様子を見て、



「なにか酷く慌てていらっしゃるよう…」



と理愛が言った。



「俺たちにあてられたんだろ?」



臣は理愛を軽く持ち上げて、自分の膝の上に横向きで座らせる。



「ネックレスは欲しくないの?」



「はい、あまり好きではありません」



確かに、その光る肌の上では、輝く宝石も色褪せて見える。



「そっか…」



「旦那さま?」



「ん?」



「私のことが好きですか?」



「…理愛はどう思う?」



「よく…わかりません」



すると臣は優しく、自分の胸に理愛の頭を抱き寄せる。



「こんな風に抱かれるのは…嫌?」



何も返事がないので、理愛の顎を持ち上げて近くで顔を見てみると、



その青い瞳を潤ませ、臣の目をじっと見ながら、薄く笑って言った。



「いえ…優しくしていただいて、幸せです」



まるで壊れやすい物を扱うかのように、片手で頬に触れ、優しくキスをする臣。



扉の外には、完全に入室するタイミングを失ったスタッフが、困り果てた顔をして立ちすくんでいた。




End