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Linda's Happy Panic!

紙の月ホテル1203号室

2017.12.03 02:37

角切り大根の漬物を食べるワタルから、音楽のようにぽりぽりと良い音がする。青椒肉絲とごはんが来て、形の良い右手が箸を握り直す。

「うまいなぁ」

嬉しそうに頬張る顔をじーっと見る。

「少し痩せたかな?僕」

自分を僕と呼ぶ男がわたしは好きだ。

痩せた?そうなのだろうか。最後に会ったのは2年前の夏。ダッフルコートを脱いでセーターになったワタルの肩も胸も、昔と変わらずたくましく美しいカタチをしている。

聞きたい事は山ほどあったが、言い出せなかった。味噌がしたたり落ちそうな肉とピーマンの千切りが箸の先からワタルの口に入っていく。いつしかほほえんでそれを見ているわたし。

「ようこちゃん、変わらないね」

ワタルは箸を置き、テーブルに置いたわたしの左手を取った。

「あなたはきっとお金持ちになります」

手のひらをマッサージしながら、占師と化す。こんな事をいつもやってた。わたしはくすぐったいのと、相変わらずなワタルに声を出して笑う。

「今度、砧公園を散歩しよう。サッカーコートがあるんだ。知ってる?」

バス通りから見えるサッカーコートは、小さな選手たちで賑わう。

「ようこちゃんみたいな子どもが遊んでる。行こうね」

手を離し、ワタルは再び箸を握った。わたしを子どもと呼ぶのも昔のまま。

押された手のひらは温かく、眠っていた血液がイッキに目覚めたかのように紅く染まった。ワタルと別れてから、手のひらでさえ誰も自分に触れてない。じんわりとした温もりが、手のひらから心に届き、わたしはワタルを見た。きっとさみしい目をしていたと思う。

「大丈夫だよ。僕がいるから」

即座に返したい言葉がある。

でも声にはしなかった。


(何が大丈夫なの?

あなたは誰かのオットなのに)


※このお話はフィクションです。実在の人物とは関係ありません。