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Botanical Muse

美人のプロとアマ

2018.01.19 08:03

私ごとになるが、私は健康と美容の専門講師をしている。ご要望があれば、濃厚な個人レッスンも行っているのだ。

プライベートでも仲良くしてもらっているスミレさんが、私の美貌に憧れて(諸説あります)私の講座を受講してくれることになった。スミレさんは銀座の超高級クラブに勤めている。そう、女王のような貫禄と威厳、気品をすべて兼ね備えている女性がいっぱいいるところだ。


ゆえに講師として私は定期的にすみれさんのお宅に伺い、影のように寄り添っている。

本当の美人というのは、こういう人のことを言うんだなあと私は思った。心意気が普通の女性とはまるで違うのだ。普通の女性は話を聞いても、ああそうですかで終わるところ、スミレさんは知識を生活の中に落とし入れてちゃんと実行している。しかもこの″やる″ということが重要なのだ。″やる″ことが才能であり、すべてなのだ。

はっきりと言う。人間の知恵で美貌をコントロールしたり、引き寄せることはできる。どんな女性でもいつも小さい不満を持っているから、女性はキレイになる能力があるのだ。望む、叶える、望む、叶える。美意識とはこれをずっと続けていくことなのである。


もうお気づきだと思うけれど、私はキレイな女の人が好きである。キレイでおしゃれだったら、もう全面的に降伏する。

スミレさんはその場の空気を変えるぐらいの美人であり、そしてコーディネート上手だ。フォアカードが二つ揃ったようなものである。美女の中の美女。誰もが羨むオーラに包まれている。

繊細な表情のレースを贅沢に使用した真っ白なブラウス、ビンテージライクな刺繍の周りにはまるで妖精が浮遊しているようで心洗われる美しさである。ボトムスはこれまた真っ白なハイウエストのテーパードパンツ、そこからのぞくウエストと足首には無駄なものが何ひとつついていない。そう、美女にぜい肉はつかないし、老廃物も溜らないのである。

冴ゆる冬空の下、ホワイトコーデの美女に後光が射す、このシーンの美しさといったらどうだろう。快感を覚えない人間は一人もいないはずだ。


「類は友を呼ぶ」とはよく言ったもので、私のまわりには占い好きが集まっている。

「お店のお客さんから、ものすごく当たる占いの先生を教えてもらったの」スミレさんに言われた。

 一度もそんな話をしたことがないのに、私が占い好きだとすぐに見抜いたらしい。

「さっそく連絡したら、人気があり過ぎて、もう新しい方はお引き受けできないと言われたの。でもね、お客さんの口添えで特別に占ってもらえることになったの。私、恵美子さんの分も予約しといたからね。今日の講座が終わったら一緒に行きましょうね」

「そりゃどうも」

私の周りの人たちの特徴は、勝手に私の予約をしてくれることであろうか。


占いの予約時間まで少し時間があったので、リビングでゆっくりさせてもらう。ソファーに座っていてふと視線を向けると、目の前に上質の真っ白の、すごく素敵なバスローブが目についた。

どういうものを部屋着にするかということは、女性の別の個性が現れて面白い。部屋着というものは、どういう人生を送りたいか、どういう彼氏が欲しいか、という隠された願望を表現しているのではあるまいか。

私は知っている。普通の女性は部屋着となると、かなり服のレベルを落とす。ネットやそこいらで買ったもので手軽に済ませているのだ。なかにはもうお役ご免となった服を部屋着にシフトする人もいる。やはりセカンドクラスといった感は免れない。


「バスローブを部屋着にしたら、体のお手入れが億劫じゃなくなるの」″家の中でも美女″のスミレさんは言った。

スミレさんの美の秘密に触れたような気がした。バスローブを着て、体の隅々までピカピカに磨きたてる。まるで職人がのみをふるうように、コツコツと自分のボディをつくり上げていく。″ひとりの時も、美しく愛らしくいる″そういう心が、男性といる時に役に立つのではなかろうか。そしてここが、男性が大金を遣ってくれる女性とせいぜいクリスマスプレゼントをもらうぐらいの女性の差であろう。


スミレさんはバスローブを羽織ってみせてくれた。髪をさっとワンレングスにして体を斜めにする。そしてほっそりとしたうなじをこちらに向け、上目遣いをする。その様子は、女性の私でもゾクゾクしてしまうぐらい色っぽい。男の人ならましてや、心がとろけてしまうはずだ。

「恵美子さんもきっと似合うはずよ」スミレさんのこの言葉におされて、挑戦してみた。肌着の上にバスローブを着てベルトをギュッと結んで鏡に映す。スミレさんは「素敵、お似合い」なんて誉めてくれた。

ふーむ、私の場合″女性格闘家″のリラックスタイムという雰囲気がしないでもない。


インターホンのチャイムが鳴った。

「あっ、Wさんだわ。恵美子さんにも紹介するわ」チャイムに急かされて私とスミレさんは玄関へとかけていった。

Wさんとはスミレさんのお店の方で、スミレさんのマネージャーさんだ。お会いしたことはなかったが、スミレさんからよく話は聞いている。

「おくつろぎのところ申し訳ないです」Wさんは困惑の表情を浮かべた。

なんでだろう、万端ゆかりなかったと思う。今日は講師として伺うので、キリリとしたメイクにピシッと隙のないミニマリズムなものを着て自宅を出たはず。我ながら素敵なコーディネートだと思うわ。

そして私はとんでもないことに気づく。なんと私はバスローブ姿で「初めまして」の挨拶をするという迷惑防止条例ギリギリのことをしでかしてしまっていたのだ。拭えぬ汚点。もう卒倒しそう。が、さすがWさん、″武士の情け″で私の首から下には触れないでいてくれた。好感度ぐっとアップである。


「スミレを宜しくお願いします」Wさんから厳命が下った。

銀座のホステスさんとお店の外で会うということがどれだけ凄いことか私とて理解している。スミレさんに何かあったら大変だ。

「全力でスミレさんをお守り致します」かくして、これほど使命感に満ちたボディガード兼格闘家が今ここに誕生したのだ。

洒脱なWさんとの会話ははずんだ(つもり)、よっていつもの調子が出たのである。

「お店にお邪魔したことがあるんですよ、あの夜は楽しかったわ。ところで私、ホステスさんの仕事に興味があるんです。あんな素敵なお店で働けたらなあ、なんて思っているんです」私は鼻息荒くして自分を売り込んだ。猛プッシュした。が、あれから事態は動いていない、、、。


この後、続きあります。