『W旦那+(プラス)』第22~24話 (剛典の実家) 三代目妄想劇場
甘い香りが脳まで達してくる。
華奢な体だが、その体重全てが剛典にかかり、そのままベッドに倒れこむ。
剛典を下にして、理愛が上に乗っかるように体を預けているが、重さは全く感じない。
理愛の柔らかい舌が、剛典の口内に侵入してくる。
(り…理愛ちゃん…参ったな)
茫洋とした見た目からは全く想像できない濃厚なキスを、理愛から仕掛けてくる。
(どうしよう…)
数分間溶けるようなキスをして、ようやく理愛が離れた。
「理愛ちゃん…おれ」
「剛典さん…私なら今夜…大丈夫ですよ」
(えっ⁉︎それって…抱いてほしいってこと?)
この世の物とも思えないほど美しい顔が、
目の前で囁く。
強烈な誘惑に負けそうになりながらも、
理性を保とうとする剛典。
「気持ちは凄く嬉しいんだけど、まだ俺達初デートしたばっかだし…」
「なにより、理愛ちゃんの二人の保護者から、くれぐれもって預かってる身だからね…」
「私のこと好きじゃないんですか?」
「好きだよ!好きでなきゃキスなんてしないよ」
(そうなんだ…そもそもあの日、理愛ちゃんの店で俺からキスしたんだっけ…)
「剛典さん…私もあの日から…あなたのことが…」
「理愛ちゃん…凄く嬉しいよ」
優しく抱き寄せる。
「…だったら尚更あの二人に後ろめたい気持ちのまま、理愛ちゃんといい関係になるんじゃなくて…」
「何回かデートを重ねて…さ」
「剛典さん…」
「んっ?」
「私、抱かれてもいい日と…そうでない日があって…」
「えっ?」
(女性の安全日とか…そういう意味かな?)
「う…うん」
「今夜なら…大丈夫なんです」
「そ…そうなんだ」
「でもね、理愛ちゃん…俺は…」
言い終わらないうちに、また理愛から口づけをしてくる。
理愛の細い足が剛典の太ももに絡みつく。
頭の中にモヤがかかり、理愛の誘惑に負けそうになる。
できるだけ傷つけないように、優しく理愛を離し、
「凄く嬉しいんだけど…」
「まだそこまでいくのは、早いよ」
「剛典さん…私そんなに魅力がないですか?」
「そんなこと絶対ない」
「みんなが競い合うほど、君は綺麗で魅力的な女性だよ」
「だったら…今夜抱いて下さい」
「理愛ちゃん…」
『くれぐれも…わかってるよね』
臣と隆二の顔が脳裏に浮かぶ。
(わかってる…わかってるけど…)
(これ、かなりの試練だよ)
(俺の体は理愛ちゃんを求めている)
(密着してるから、彼女にも伝わってるはず…)
(後は俺の理性が持つかどうか…)
突然、静かだった庭に風が吹き始め、
カタカタと窓を揺らす。
先程まで怪しい光を放っていた月に雲がかかり、外が暗闇に包まれていく。
「駄目ですか?」
「ごめん…理愛ちゃん」
「遊びじゃない…真剣だから、きちんと二人にも許しをもらってからそうなりたい」
「そうですか…」
今度は簡単に引き下がった。
剛典は少し拍子抜けしたが、
「側にいるから、ここで眠るといいよ」
理愛の肩を優しく抱き寄せる。
「はい…」
剛典の胸に顔を埋める理愛。
(あー…後悔するなよ、剛典…)
(これで理愛ちゃんの、俺への気持ちが薄れたら、絶対凹むよな…)
「もいっかいキスだけしていい?」
「はい」
少し寂しげな顔を向ける理愛。
「せっかく女の子の方から言いにくいこと言ってくれてるのに、ごめんね」
と言い、剛典から唇を合わせる。
今度は舌を絡ませてこない。
(可哀想なことしちゃったかな?)
(大丈夫な日って月一回位あるんだろか?)
そんなことを考えていると、またあの甘い香りに包まれ、剛典の方が先に眠りに引き込まれる。
唇がゆっくり外れ、寝息をたてるのを確認してから、剛典からそっと離れる理愛。
どこに忍ばせてあったのか、スマホを取り出し操作する。
メールではなく、電話をかけている。
通話口に唇を持っていき、小さく呟(つぶや)く。
「採取できませんでした」
End