木挽(きこり)
【コラム】木挽さんの今
かつて家を作るとなると木挽さんに頼んで山から木を切り出して
製材し家の部材を揃えていました。
戦後日本の復興とともに木材需要が急速に高まり価格も急騰、
地方ではそう簡単に家創りは出来なかった。
木材の価値、重要性に気づいた人々は広葉樹の山や山間僻地の田畑にも
子や孫の時代に難儀しないようにと杉や檜を植え手入れしてきた。
その杉や檜の年輪が60年を数えようとする今、
殆どの人がその価値を忘れかけている。
戦後植林された山は膨大であるが故に手入れ見向きもされない山が荒れ
様々な被害を持たらしている。
時代の流れにのって材木は買った方が安いかもしれないが
せめて地元材を豊富に使った家で心身豊かに
暮らして欲しいと美しい山を見て思う。
【interview】
東 辰己さん (S6.2.20生 86才)
一本一本と対話するように、念を入れて切る。
山の神に手を合わせて仕事に入ります。
50歳で会社を定年退職後、友人について樵(きこり)の仕事を始めました。切り出した木は、製材して材木にすることもあれば、製紙用パルプに使われることもあります。材木用の木を切る時は、きれいな状態で出せるよう切り方に気をつかいます。
仕事は、山の持ち主から依頼される場合もあれば、自分で見当をつけた山を切らせてもらうこともあります。木が育つのを数十年待つこともあります。昔は、自分の山に植えた木で我が家を作ることが当たり前に行われていたので頼まれることも多かったのですが、今の若い人は安い既製品を使うようになりました。長い目で見れば、故郷の山で育った木を使うほうが風土に合っているし、質も良く、耐久性に優れているのですが。残念なことです。
一つの山を切り出すのに大体数カ月かかります。仕事に取り掛かる前には、山の神様に塩と米をあげて「切らせてな」とお願いします。木を切るだけではなく、切った木を運ぶ道を作るところ、切った山の後始末までが私の仕事です。一本の木を切る時は、最初の切り口の入れ方が肝心だから、木をよく見ます。間違ってしまうと、木が他人の山に倒れてしまうし、倒れた時の弾みや絡まった枝の落下で大けがをするかもしれない。万一の場合の逃げ道も確保しておかなくてはならない。そして、良い仕事のためには道具の手入れも大事です。ノコギリの目立て(研ぎ)では他の人に負けません。樵は、体だけじゃなくて頭も結構使う仕事なんです。仕事を続けている限り、ボケないと思います(笑)。若い人に(後継者として)入ってきてほしいけど、木材の値段が安すぎるので無理は言えません。林業の大きな課題です。