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Linda's Happy Panic!

紙の月ホテル1208号室

2017.12.09 00:00

急の雨で傘がない。

「ようこさん、持って行ってください」

ネイルサロンのマミちゃんが傘をくれた。

「返却不要ですよー」

夏からほったらかしの足の手入れをお願いして、ついでにちょっと昼寝をしようと企んで、マミちゃんのお店に来た。マミちゃんは独立して一年半。

「いい感じでもないですよー。売り上げも相変わらず、彼氏もいないですしー。ようこさんはお元気でしたか?」

マミちゃんは細い電動ヤスリで小指の端の角質を削っている。小さな音が心地よい眠りを誘う。目覚めると手入れはほぼ終わっていた。

「相変わらずお疲れですね!」

「いびきかいてた?」

「寝言言ってましたかねー」

「え、ほんと?」

「あはは!嘘ですよー!」

寝言は怖い。かつて隣で寝ているワタルが、なんとか子は僕のものだ、と知らない女の名前を呼び、わたしを強く抱き寄せた事がある。カッと来て、ワタルの胸をドンっと叩き、ベッドから出た。ワタルは、突然だが受けて当然の攻撃に夢から戻り、どうしたの?とふにゃふにゃ言っている。

「誰が僕のものなの?」

「え?なに?」

「いま寝言言ってた」

「なんて」

「誰かは僕のものだって」

なぁんだ、やきもちかー、誰もいないよ、ようこちゃんかわいい、おいで、寝よう。

ーーー誰もいないよ。

ーーー何もないよ。

信じる事の方が幸せだったんじゃないの?と、爪先が呟く。美しく仕上がった紅いジェルネイル。誰かに見てもらえるわけでもないのにね、と心が答える。


※この物語はフィクションです。