“有ちゃん”の生と死
娘が自死で先立ったあの日、無言で帰宅した亡骸を目の前に、まるで宇宙人に遭遇したように、私は呆然とその姿を見つめていました。
登校後、敷地内で絶ち、救急搬送先の病院で既に対面は果たしていたものの、ちゃんと見つめることができたのは帰宅した夕刻。
悲しみ以上に、その『わけのわからなさ』『理解のできない自己完結』で、横たわったまま動かない娘を見て、宇宙人だ…と呟いてしまったのを憶えています。
未知との遭遇というタイトルの映画がその昔ありましたが、まさに突然降ってきた“謎のモノ”に遭遇してしまったように、脳内は『はてな?マーク』と『びっくり!マーク』だらけになり、かたまってしまったのです。
その後も、強い怒りと疑問が渦巻く悲嘆が続いたのは私の特徴であり、自責の念がジワジワと涌いてきたのは一年をとうに過ぎていた頃。
自責について内容を述べられるようになったとすれば、さらに数年後。
自責を具体的に吐き出せるまでに年数を要したのですね。
その理由は、『宇宙人だ…』と思わず呟いた言葉に凝縮されているのでしょう。
予兆等は感じ取れず、自死したという事実だけがある日降ってきたのですから、当然といえば当然です。
あの日から、学校の机の上に置いていった『いしょ』と題した手紙を数え切れないほど読み返してきました。
遺族会で出会った方々に読んでいただいたことも度々ありました。
私の疑問を誰かに解いて欲しかった、そういう気持ちもあったと思います。
たとえ解けないとしても、話せる誰かと『謎』を共有して、少しでも自分の心を鎮めたかったのだと思います。
主人と長女は、最初に学校職員の方から手渡されたとき以降は読んでいません。
(彼らは飲み込みが早いのでしょうか? それとも諦めが早かった?)
私の脳内のハテナ?マークは一向に消えませんでしたので、そうして数年間読み続けているうちに、あるとき涌いてきた自責の念を言葉に(言語化)できるようになったところで、ピタリと『いしょ』を読むのを止めました。
事後からはいつもバッグに忍ばせていた遺書を、娘コーナーの棚の奥に仕舞うことができたのです。
やっと、亡き娘の『あのときの気持ち』に追いついた。
謎の宇宙人ではなく、私の娘『有ちゃん』として心に取り戻した感があるのです。
(娘と一体化していると感じるようになったのは、そのせいでもあるのかな…と)
ブログでも少しずつ書き出せるようになった自責。
心の底から思い起こした『取り残されていた想い』があることにも気づきました。
そして、気づいたことを綴らせてくださった書籍が、自死遺族の権利等保護研究会からこの4月に発行されました。
遺族当事者はもちろん、専門知識をお持ちの先生方、編集担当記者様のご協力のもと作り上げた、自死遺族等への総合支援のための手引き本です。
より多くのご遺族の苦悩に希望の光が差しますように。
また実害に遭われた方々が少しずつでも問題解決に向かいますように。
〜法律・政策 ― 社会的偏見の克服に向けて〜
⇒『自死と向き合い、遺族とともに歩む』
(全国自死遺族連絡会のダウンロードページ)
【第3章 遺族が直面する現実】では、私を含む4名の自死遺族当事者も各々の体験に基づく想いを書かせていただいてます。
自助グループ郡山市えんの会代表の齊藤智恵子さんをはじめ、Ameba Blog等でご存知の方々も多いかと思いますManboさんこと、敏子ペレティスさんも、大切な一人娘様について書いてくださいました。
(快く承けてくださり、貴重なお話をありがとうございました)
米国での自死に対する考え方の違い、敏子さんからお話を伺ったときに愕然としたものですが、この先、日本国内でも良い意味で変化していくことを望み、私は私のできることを微力なりに続けて人生を全うできたなら、それはそれで私のセカンドベストにもなり得るのかなと思うこともありました。
大切な我が子を喪ったあとの、これほどまでに苦しい自責の念から気づかされたり、芽吹いていく目標や目的があるとは、当初の頃は考えもしませんでした。
私は、娘個人について、どんな子だったのか、どんな出来事を通して、どんなことに悩み、思い詰めて逝ったのか、公的な記録としてもっと詳細にわたり残したかったと、今になり思うのです。
なんらかの統計をとるため、データ化に組み込むのとは違う、この世でひとりの“有ちゃん”の生と死を。
事後直後で何も考えられない状況下でも、時間は刻々と過ぎてゆきます。
期限付きで進めなければならないこともあるので、気持ちが追いつかず取り残されてしまう『遺族の想い』があると自分の経験から気づいたのです。
極力取り残されないよう、こんなのがあったら良いな、こんなのはどうだろう?等々…
拙い考えでも、思ったことを書かせてくださり、ありがとうございました。
疑問に思っていること、気になる項目がありましたら、手に取ってみてください。
(ダウンロード可)
◆自死遺族の集い
お問い合わせ hoshinoshizuku0922@gmail.com