映画パンズ・ラビリンス
尊い死。圧倒的ダークファンタジー。
「むかしむかし、地底の世界に病気も苦しみもない王国がありました。その国には美しい王女様がありました。王女様はそよ風と日の光、そして青い空をいつも夢見ていました。
ある日、王女様はお城をこっそり抜け出して人間の世界へ行きました。
ところが明るい太陽の光を浴びたとたん、彼女は自分が誰なのか、どこから来たのかを忘れてしまったのです。
地底の王国の王女様はその時から寒さや痛みや苦しみを感じるようになり、ついには死んでしまいました。
姫を亡くした王様は悲しみましたが、いつか王女様の魂が戻ってくる事を知っていました。そしてその日をいつまでも、いつまでも待っているのでした。」
舞台は内戦中のスペイン。
母が再婚した相手は軍の大尉。
身重の母と一緒に森の砦に移り住みます。
主人公のオフェリアは期待と不安を胸に砦に行きますが不安的中。
数回しか、もしくは一度も会わず家族となった父は無愛想というか冷たい。
幼子心に場違い、不要とされ持て余されている感が伝わっているようでした。
そんなストレスフルな中、パンという迷宮の門番に会います。
「貴方は地底の姫君の生まれ変わりだ。それを証明してくれ」
そう言われパンの出す試練を乗り越えていくお話です。
最初にも言いましたが、戦争中の話です。
拷問に死、スパイや薬というまったくファンタジーではないワードが沢山出てきます。
義父。
彼はオフェリアの現実の真ん中に必ず鎮座しています。
義父は冷酷な人で疑いがあるからと民間人を撲殺し、拷問し、脅し、戦いと血も涙もない
軍人として出ていますが、この義父の父親も軍人なんです。
「あなたの父上は戦死する瞬間、懐中時計を壊してあなたに自分の死亡時刻を教えた」
という会話が出てきたのですが、義父はそれを聞くと不機嫌になります。
彼がオフェリアの母と結婚した理由はただ「息子が欲しかった」だけなんです。
息子を軍人として育てて、もし自分が死んだとき、父と同じように時計壊して死亡時刻を
教え、「お前の父は勇敢だった」「尊敬できる父だった」と伝えてもらう。
そうして自分の人生に終止符を打ちたかったと。
しかし劇中で義父が剃刀で髭を剃っている時、ふと自分の首に剃刀を押し当てる仕草を
します。
父とは違う事を求めたのか、同じを求めたのか。
自分を否定すれば父を否定することになって、でも父の事は否定したくて、
後にも先にも行けなくて、早く死にたくて、
誰か自分を憐れみ尊敬し、誇りに思うような死を迎えたい。
哀れ、可哀想、尊い、美しい、死。
「自分の死はどうでもいいことではなく、誰かの悲しみに触れる」事を願った事はありませんか?
多分義父はそんな死を望んだのかなと。
結局叶わず、その立場はオフェリアに移った。
この映画の中で一番残酷で一番自分の死を望んだのは義父です。
そんな義父に殺されたのは抗い、仲間と生きることを願ったみんな。
彼らは何と戦ってるんでしょうね。
オフェリアの元に来た妖精や試練での敵?もまったく可愛くはありません。
クリチャーです。不気味です。
もしこの幻想世界がオフェリアの空想だとしたら、流石戦争中、現実にファンタジックなものが全く無かったんですね。
逆にこの不気味な分「幻想世界も実際はこんな感じか」とリアルな感じもします。
なので最後まで本当の世界なのか妄想なのか、判別がつかないんです。
また演出も凝っていて、最初のシーンとラストのシーンが繋がるようになっています。
最初からこのラストの運命は変わらないのかぁ…。
登場人物の心理描写もかなり細かく出ていて、繊細な映画でした。
美しく純粋な心を持った為、生きずらい時代に生まれてしまった彼女にとっては
ハッピーエンド。
そんな彼女を愛した人にとってはバットエンド。
あまり類を見ない映画かなと思いますので、精神的ダメージ覚悟で是非。