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資金決済に関する法律の改正法案について(参議院浜田聡議員のお手伝い)

2022.04.14 04:47

 今日は、雨リカン、、、、。やっとレイン。

 金融庁が「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案」という法案を今国会に提出していますので、その中身について少し検討してみます。

 長すぎる法案名を簡単なものに置き換えると「電子決済手段等に関する法律案」ということになろうと思われます。電子的支払手段とはいわゆるステーブルコインです。海外において昨今、ステーブルコインの発行や流通は急速に増加しています。ステーブルコインの発行者と利用者の間に立って売買や交換、管理などを行う仲介者に対する法整備を進めるための法案ということになります。

 まず、ステーブルコインとはどういったものなのかに触れておきます。ビットコインなどをはじめとした暗号通貨はドルや円などの法定通貨に比べて価格変動が激しく実用的ではありません。ステーブルコインは価格の安定を目的とした仮想通貨です。価格を安定させることで仮想通貨の普及を促進することが期待されています。

 ステーブルコインには3種類あります。各国の中央銀行が発行する法定通貨と同額を担保として発行するステーブルコイン、ビットコインやイーサリアムと交換が可能な仮想通貨を担保としたステーブルコイン、法定通貨や仮想通貨など既存の通貨を担保せずに通貨の供給量を調整することで価値の維持を図るステーブルコインの3種類です。既に流通しているステーブルコインの多くは法定通貨を担保としたものです。現在の日本の法令上では仮想通貨を担保としたものと担保等がないステーブルコインは「暗号資産」に、法定通貨を担保としたものは「為替取引」か「前払式支払手段」と位置付けられています。

 法定通貨に連動した価格で発行されるコインは「通貨建資産」とされ、その発行や移転は為替取引に該当し得るとされています。為替取引を行うには銀行業免許、資金移動業登録を行う必要があります。

 本法案ではステーブルコイン発行者である銀行と利用者の間に立つ仲介者に関して登録制を導入する案となっています。

下記資料:金融庁作成、安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案の概要1

 仲介業を電子決済手段等取引業として創設し登録制にする法案です。2021年11月の金融審議会資金決済ワーキンググループにおいて発行者に対する規制と仲介者に対する規制を分けるという方針が報告されており、それを受けて今回の法案では仲介者に対する規制を目的としたものとなっています。要件や規制内容は明らかになっていませんが、法律案が成立すると省令で基準が順次決定されていきます。仲介者には恐らく暗号資産交換業者と同様の体制整備を求められるのだと思います。

下記資料:金融庁作成、安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案の概要2

 為替取引分析業を創設して金融機関からの委託を受けて取引内容を分析する業務を行えるようにします。ただし、為替取引分析業は許可制となります。2020年6月のG20報告書においてステーブルコインを利用したマネーロンダリングやテロ資金の供与に関するリスクが指摘されています。P2P(個人間)取引が増えてくると金融機関のモニタリングが追い付かなくなり深刻なリスクを招くことになります。よって、政府の許可を受けた業者によって専門的に取引をモニタリングすることは有効な手段だと考えます。ただし、モニタリングの質にばらつきがあってはいけませんのでどのように標準化するかは今後の課題になると言えます。

下記資料:金融庁作成、安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案の概要3

 高額電子移転可能型前払式支払手段とは端的に言うとクレジットカードの1機能のことを指しています。中でも国際的なブランドのクレジットカードの中には近年、数千万円規模の高額なチャージを可能とするサービスも存在します。クレジットカードでの取引には犯罪収益移転防止法により本人確認等の義務や疑わしい取引の届出義務があります。法案ではクレジットカードの前払式支払手段にも同様の義務を課すように法整備しようというものです。マネーロンダリングのリスクの軽減を目的としています。架空名義や借名口座での契約や暴力団等に係る取引、同じIPアドレスが複数の口座を開設または利用者登録している場合などがこれに該当します。高額とは一回当たりのチャージ額が10万円以上、および1か月あたり累積譲渡額が30万円を超える場合を想定しています。

 以上のように電子決済手段等取引業の創設、為替取引分析業の創設、高額電子移転可能型前払式支払手段への規制の3つの対応に関する法整備する法律案です。今回の改正法案が整備されても未だ多くのステーブルコインに関するリスクは残されています。コインの取引量の規制もありませんし、金額の上限もありません。取引に関して登録している仲介業者や金融機関の利用も義務付けられてはいません。

 法改正によって法定通貨によって担保されたステーブルコインの取り扱いが明確化されることは望ましいことですが、厳しい規制を行うことで日本の競争力を削いでしまうことは避けなければならないと思います。現在、日本において通貨建資産に該当するステーブルコインはJPYコインの1社のみとなっています。JPYコインは1円が1JPYCとなりますが、その購入はビットコインかイーサリアムで行うようになっています。日本では銀行免許の取得が非常に困難ですし、資金移動業の場合は100万円以下の取り扱いに制限されています。暗号資産型のステーブルコインは暗号資産交換業者が取り扱う場合は金融庁の厳格な審査があり、体制の準備にも相応のコストがかかることから日本での取り扱いはありません。

 このような状況では世界から大きく遅れることになりますし、日本の発展と世界での競争力の向上という観点からも望ましくない状況だと思います。今後、政令や内閣府令によって規定されていくとは思いますが、国際的な規範との連携を前提とし、日本円を基軸にした通貨建資産のステーブルコインの発行をメガバンクが主導して整備していくことが望まれるのではないでしょうか。

 その一例としてメガバンク3社を含む国内主要74社が参画する「DCJPY」というステーブルコインの準備が進んでいます。DCJPYのユニークな点は銀行預金と連動しているという点です。DCJPYのコインが移動するとその裏で銀行預金も同時に移動する仕組みとなっています。実質的に銀行プログラムが可能となるということです。銀行預金を活用してステーブルコインを発行したという側面だけでなく、ブロックチェーンを使って銀行預金をプログラム可能にしたという点がDCJPYのユニークな点です。スケジュール的には2021年に実証実験を行い2022年中には試験的な発行を目指すということになっています。

 政府と日銀が主導する中央銀行デジタル通貨(CBDC)は2021年6月に閣議決定されており、2022年3月までに基本機能の検証を行い、2022年4月に開始予定となっていますがまだ開始できていないようです。CBDCの重要な役割としてホールセール型CBDCがあります。一部の取引先に対する大口の決済を行う目的があります。

 政府と日本銀行が主導するCBDCと国内メガバンクと主要企業が参画するDCJPYが決済可能な通貨建資産として広く流通し安定的な運営を行えるような状況を早々に確立されることを期待します。

 世界の民間のステーブルコインの状況です。香港のTether社が市場の82%を独占しています。時価総額は17兆円にも達しています。続いてアメリカのUSDコインが8%のシェアを持ち、時価総額も5兆円に上ります。それ以外ではマルタのPaxos Standard(PAX)が4%、インドのTrueUSD(TUSD)が3%となっています。そのすべてがUSドル建てのステーブルコインとなっています。

 世界の中央銀行CBDCを巡る動向を確認します。欧州(ユーロ圏)はデジタルユーロ導入に向けた2年間の調査を開始しており、CBDCの発行は更に3年後の2026年頃と目されています。アメリカはボストン連邦銀行とマサチューセッツ工科大学が共同研究を行っている状況に留まっています。中国は2020年以降、深圳、蘇州、北京、上海において大規模なパイロット実験を実施しています。2022年1月には試験運用版アプリから試用版アプリにバージョンアップしており実用化もそう遠くない将来に可能な状況となっていると思われます。

 いずれにせよ、金融のデジタル化は日進月歩で進化しています。安定的で効率的な制度を迅速に整える必要があります。

 最後までご拝読を賜りありがとうございます。


参考資料:金融庁、「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関す  る法律等の一部を改正する法律案(令和4年3月4日提出)」

     https://www.fsa.go.jp/common/diet/index.html

     金融庁、事務局説明資料

     https://www.fsa.go.jp/singi/digital/siryou/20211101/jimukyoku.pdf

     仮想通貨ニュース

     https://crypto.watch.impress.co.jp/docs/news/1232698.html