勇者アッシュの冒険譚 3
■ 神官 ■
白兎王国の執務を一手に担っているのは、神官達です。
神に仕える身として、人々に恩恵をもたらすと共に、民が健やかに過ごせるよう王をサポートするのが大切な役目となっていました。
さて、その神官達が暮らす教会では、今、蜂の巣を突いたような大騒ぎとなっていました。
『王子様が国を出られるそうだ!』
『先刻の国境の村へ旅立たれるとの事だ!』
危険だ、まだ早い、そんな声が口々に上がります。
『…しかし、王がお決めになった事だ。』
生まれた時からずっと側で見守っていた神官達にとって、王子は我が子同然。
危険な場所に行かせたくないのは皆同じ思いでしたが、それと同時に、王に全幅の信頼を置いているのも事実でした。
『王子は確かに剣の腕が立つ。そう易々と敵に遅れはとらないだろう。』
『だが、そもそも同行する、武闘家兎とやらは信用に値するのか。』
期待と不安が交差します。
その時、段の上で一人黙していた神官長が、すっくと立ち上がりました。
『王子に後二人、供をつけるよう進言する。一人は、我が弟子の一人にして、治癒術に精通した者。』
そう言い、年配の神官長は、隣に控えていた若い神官に視線を送ります。
『よいな、【クローバ】』
突然の名指しに、しばし瞬きを繰り返していた清々しい白い毛色をした若い神官クローバは、しかしすぐに襟を正すと、深々と頭を下げました。
『そして、もう一人は…』
■ 西へ ■
『では、行ってきます。』
旅立ちは、王都の混乱を避けるため、数人の見送りのみでひっそりと行われました。
王子アッシュと武闘家ブロッサム、そして、神官クローバ。
『王子、ではまず、灰色の魔女に会いに行きましょう。』
『おい、あんた。"王子"なんて呼んでいたら、悪い奴等の格好の獲物になっちまうぜ。な、アッシュ。』
『し、しかし呼び捨てにするなど…』
『アッシュでいいよ、クローバ。』
ニコニコ笑うアッシュとニヤニヤ嗤うブロッサムに押し切られ、クローバはしぶしぶ頷きました。
『…アッシュ。灰色の魔女はここから西にある深い森に住んでいるといいます。まずはそこへ…』
『おう、西だな!行こうぜ!』
『うん!』
かくして三兎の旅は、西に向かうところから始まるのでした。