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サックスの音名の使い方について(解決編)

2017.12.13 03:27


今回も音楽の専門的な話になるので、ご興味ない方はスルーしてやってください。


1ヶ月ほど前になりますが、こんな記事を書きました。

はい。このブログを作ってまだほんの少ししか記事を書いていないのに、とってもたくさんの方が読んでくださったようで、感謝しております。


詳しくは上のリンクより記事をご覧いただければと思いますが、かいつまんでお話しますと、


「サックスの音名の使い方、おかしくね?」


ってことです。楽典という音楽の教科書に則って判断すると完全な間違いなのですが、サックス界ではこれが普通になっていることがどうしても納得いかず、ごはんも喉を通らない日々が続きまして、着々と太っております荻原ですこんにちは。


FacebookやTwitterなどでもこの話題を取り上げてくださったり、コメントをいただいたりしまして、自分なりの結論が出ましたので、今回まとめさせていただきます。


コメントをくださった方を実名で掲載させていただきますが、不都合がありましたらおっしゃってください。オープンなところに掲載したもののコピーなので大丈夫だと思って許可を得ずにこちらでも使わせていただきます。なお、理解しやすいように言葉の使い方を統一させていただいたり、少し修正をしておりますが、内容は変えておりません。


日本人だけの特徴?


Facebookにて坪井俊伸氏から、

「イタリア語(ドレミ)、日本語(ハニホ)、ドイツ語(CDE)、英語(CDE)を併用するは日本だけだと思いますから、ドイツ語は実音を表す、という習慣も日本だけだと思います。」(一部修正、以下省略)

というコメントをいただきました。ありがとうございます。

僕はあまり外国人の音楽家とそういったやりとりをした経験が少ないのでわかりませんが、でも確かに母国語を中心に使っているのは以前より感じていました。英語圏の方はシーディーイーだしドイツ圏ではツェーデーエーだな、と。ドイツ語圏の人は練習番号もドイツ読みで言いますが、我々って、練習番号ABCは「エービーシー」って読みますよね。

日本人は日常でも無意識にいろんな国の言葉を使っているんだな、と思いました。

外来語だとはわかっているけど、外国語として使っておらず、「カタカナの日本語」として使っているところもありますよね。



自分の場合

僕自身はどうなんだろう、と思い返してみると、ドイツ音名とイタリア音名を使い分けています。


A:特定の音を誤解ないように正確に伝えようとする場面では必ず「ドイツ音名」を使います。

「この和音はゲー、ハー、デーでできている」

「ホルン、練習番号Aの1小節目の1拍目、Des(デス)の音ください」


B:メロディを歌うときや、複数の音をフレーズとして捉えるときには「イタリア音名」を使います。

「ファ〜 ソ〜 ラ ドファソラシド〜レミファレド」

「楽譜に書いてあるそのトリルは、ド〜レドレドレドレシドレ〜♪って感じで」


文字にすると何言ってんだ、って感じですけど、まあそこはどうでもいいので。

問題は、なぜ使い分けているのか、ということ。理由は簡単です。


「言いやすい」「使いやすい」「習慣(独自の一定のルール)」


これ。


だから、音楽を教える人によって、また教則本を執筆する人によって、独自の使いやすい習慣的ルールがあるのだから、サックスの世界でも当然それが起こり、今のサックス界で当たり前になった調性の読み方は、世界的に使われるバイブル的教則本の執筆者の習慣だった、と考えると納得できる部分があるな、と思いました。


サックス奏者の石森裕子氏もFacebookにコメントをくださり、

「私が芸大を受験した時代は「(アルトサックスで)C durを吹いてください」と言われたら実音Es durを吹く、と決まっていた(抜粋)」

国立(こくりつ)の音楽大学が入試でこう呼ぶんですから、サックスの世界では、ひとつの基準になっている、ということですね。



サックスという楽器の特性と慣習

石森氏はさらにこのようにおっしゃっています。

「ひとつ思うのは、基礎練習はアルトサックスもテナーサックスも同じものを使うので、例えば調号が書かれていない長音階では実音でアルトEs dur、テナーB durという表記が逆に混乱するとか、ソプラノサックスやバリトンサックス、ソプラニーノサックスなど、どこまで表記するのか?といった理由なのかなと思ってます。」(一部修正、抜粋)

僕はこの言葉が一番しっくりきまして、喉につかえていたごはんもストンと落ちました。あ、だから太ったのか。


サックスの最も大きな特徴は、サイズの違う種類の楽器が複数存在している、という点でしょう。

同じ発音体で様々なサイズで設計されていますから、サックス奏者は基本的にすべての種類を演奏することができるわけです。

しかしサックスはサイズ順にEs管とB管の交互になっているため、例えばサックスカルテットの一般的な編成では、


ソプラノ(B管)
アルト(Es管)

テナー(B管)

バリトン(Es管)


と、両隣が自分と違う移調楽器なのです。したがって、お互いがそれぞれを実音読みするよりも「ひとつの通じやすい基準」を作ってしまったほうが効率が良いのだと思いますし、そういう風習が生まれてもなんらおかしくないと思いました。


トランペットも移調楽器

トランペットの世界も移調であふれています。オーケストラでは、今でこそC管やB管の楽器を用いて、移調された楽譜を読むスタイルになりましたが、元をたどれば「曲の調性によって楽器を持ち替える」方法を取っていました。どんな調でも吹けるピストンやロータリーバルブがまだなかったころの話です。

技術が進歩してバルブが作られ、半音階が演奏できるようになっても、C管に比べてB管の演奏上の安定感はハンパなかったようで、世界のトランペット奏者は好んでB管を使うようになりました。

そうすると、実音で書かれた楽譜では、奏者がいちいち移調読みしなければならない負担があったわけで、だったら最初から楽譜を「in B」で書いてくれたら読みやすいじゃないか、作曲家さん、ちょっと移調して書いておいてよ。と、ピストンバルブが当たり前に使われるようになった時代から始まった軍楽隊吹奏楽や金管バンドなどは「in B」楽譜を使うようになった、というわけです。

トランペットの歴史に関しては僕の著書「まるごとトランペットの本」にも詳しく書いてありますので、ぜひお読みください。

たくみに宣伝を組み込む。



奏者の「そうしたほうが読みやすい」「使いやすい」と独自の都合で用意した楽譜は、その垣根の外にいる違う楽器奏者からしてみれば、「読みにくい」「使いにくい」となるのは当然です。



方言

ここまで考えてひとつ似ていることを思いつきました。


「方言」です。


同じ日本語でありながら、地方や地域、時代によって様々に変化しながら、文化として受け継がれている「方言」。


僕は横浜生まれ横浜育ち東京在住のため、方言を喋ることができないのですが、例えば関西圏の人と会話していても、当然何ら問題もありません。単語が完全に変形してしまったもの以外は、例えば沖縄と関西と東北の人がそれぞれの方言で話していても会話は成立するわけです。


独自のシステムによって様々なサイズで作られたサックスの世界では、独自に使いやすい方言で会話をしたほうがコミュニケーションが取りやすいですし、それがサックスの世界では「習慣」になった、ということではないでしょうか。

しかし、サックスの人たちは標準語(楽典が定めたいわゆる実音名)を知らないか、と言えばそんなことはなく、少なくともプロの世界ではそれはそれできちんと理解をしている。だから他の楽器とのコミュニケーションも問題ない。


よって、




結論:サックスの音名の使い方は方言である




これでいかがでしょうか。



他にもたくさんのコメントをいただきました。ありがとうございます。

また、いつも素晴らしい記事やツイートを書かれていらっしゃるトロンボーン奏者で作曲編曲家の福見吉朗‏氏は、ご自身のブログにサックスの移調について取り上げてくださいました。

ありがとうございました。

ぜひ福見氏のブログもぜひご覧ください。





荻原明(おぎわらあきら)