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Main2-9:先逝く命を道にして

2022.04.18 09:00

イルサバード派遣団が結成された。

各国が勢揃いし、イルサバードにあるガレマルドに調査をしに行く者たちだ。

勿論塔の調査もあるのだが、ガレマルドに未だ残っているであろう人々を救援、保護をする事も目的としている。

各国からは精鋭が集った。

見覚えのある人も多い。


「マジかよ……豪華勢ぞろい………!!」


英雄譚を読み漁り、英雄に憧れを持つグ・ラハはそう呟いた。

私が世話になった人も見受けられ、これは心強い派遣団だ思った。


─────


彼の地は私たちの来訪を拒むかのように、吹雪き、凍てつく風が吹き荒れる。

視界も悪く、派遣団は慎重に進む他なかった。

安全に進めるわけがない…その予想は当たったようで、先に偵察に向かっていた者たちから敵の情報が届く。

別行動をしているサンクレッドを始めとする偵察部隊は、陽動作戦に出た。


その間、派遣団の列の方でも戦闘が始まっていた。

私も武器を手に応戦する。

その英雄としての姿は、周りの士気を上げていく。


「みんな、竜詩戦争の英雄が来たぞ!踏ん張れ!」


それは、周りの者の意志を示すかのような言葉だった。


─────


無事に敵を始末でき、その足でガレマルドに入った。

拠点とする場所はキャンプ・ブロークングラス、建造物も幸い生きていたことで選んだ跡地だ。

寒空雪景色の奥には、赤く鈍く光る物があった。

ガレマール帝国の中心に見えるそれが、塔の正体だ。


「こんな所に居たんですか」

「アリスか、もう時間かい?」

「いいえ、陣営が整うまではまだ少し時間がかかるそうです。

それより、ほら、どうぞ」

「これは…クリムゾンスープかい?」

「はい、イシュガルド兵の方々が、今皆さんに振舞ってるんですよ。

[イルサバード派遣団ver.]とのことです」

「ふふ、なるほど」


ゾットの塔の状況が大凡分かったことで、これならアリスにも手伝ってもらった方が良いだろうと判断し、今回は暁の血盟に混じり共に来てもらっていた。

案の定、偵察部隊の方に引っ張られサンクレッドと共に行動する羽目になっていたが、無事に怪我なく済んだようで安心した。

アリスの陽気な性格も相まって、周りの派遣団たちともすぐに仲良くなったようで…こうして配膳したりと[お手伝い]をしている、ということだそうだ。


「流石に寒すぎますね」

「そうだな。お前、体調は平気かい?」

「今はバッチリ元気です!」

「それならよかった。

…陣営が確保できたとはいえ、目前は敵がいるし。

[あんたはよく風邪をこじらせるから、よくよく注意するように。]

って、ヘリオからの伝言な」

「な!?」

「心配されたくなけりゃ、頑丈になるこったな!」


そう茶化しつつ、頂いたクリムゾンスープを飲む。

甘みのあるマグマビートとアバラシア岩塩が良い相性だ、そこにサワークリームも入っているので濃厚になっている。

イノンドはスパイスとして使用、より身体を温めてくれそうだ。

具材は主にロフタンのフランクとプチキャベツを使うのだが、流石に材料全てを積むことはできず、別の物を代用している。

使っているのは豆と葉物だろうか。

戦闘の後だったということもあり、緊張が解れたのかホッと息をつく。

いつの間にか雪も収まり、冷たく静かな風が吹いていた。

景色も先程より良く見える。


「義姉さんこそ、エーテル面の方で体調は大丈夫なんですか?」

「あぁ、問題ないよ。

クリスタルのお陰で上手く制御できているみたいだ」

「ならよかったです」


そんな他愛のない話をしつつ、私たちはルキアたちに呼ばれるまで待機した。


─────


事は順調に進んでいる。

誰もがそう思っていた。

だからこそ、穴がある。

ガレアン人の避難民を見つけ保護の交渉に出ていたが、それは彼らにとって屈辱で、憎たらしく、プライドがそれを良しとしなかった。

ラジオを持ち出し逃げ去った姉妹を、無惨な姿で見つけた時は…ただただ後悔しか残らなかった。

ラジオから流れる声は、彼らを[誇り高きガレアンの民]へと奮い立たせ、焦らせ、死へ追いやったのだ。

いいや、それよりも前に、外部の私たちが来た時から、彼らはその道にいたのかもしれない。

保護できる者は保護しつつ、今後の事を模索することとなった。


そんな話し声は、あの無惨な光景を見てしまった私の耳には届いていなかった。


よくよく考えれば分かる結果だったはずなのに。

慎重に行えば、彼らを刺激することも少なかったはずなのに。

このガレマルドの寒さが、私の思考をマイナスへと導いていた。


「ガウラ」

「……!

…なんだ、ヴァルか……ん?なんでヴァルがいるんだい?」


振り返ればヴァルがいた。

いや、私への想いを考えれば来てもおかしくないのだが…『共に来る』など聞いた記憶がない。


「…紛れて来たな…?」

「あたいは立場上その方がラクだからね」

「ったく」

「それより、平気か?」

「何が」

「顔が暗い」

「!

……あぁ、まぁ、改めてああいう光景を見ると、な。

前にお前が言っていた言葉を思い出したよ」

「?」

「[人は簡単に死ぬ]。

正直、呆気なさを感じたよ。

手が届いたはずなのに、掴めず、いとも簡単に逝っちまって。

そりゃ全部を救えることは不可能ということも知っているが、それでも、目の前にすると悔しい。

[救えたはずなのに]って」

「……」

「…悪い、変な話したな」

「いいや…」


きっと今の私の顔は本当に暗いんだろう。

ヴァルの目線が少し痛かった。


─────


そうこうしているうちに、何やら騒ぎが起きていた。

騒ぎの元へ向かうと、1人の帝国兵がいた。


「お話し中すみません!

警備中に、私たちが運び込んだ物資を持ち出そうとしている、帝国兵らしき方を見つけました」

「ユルス・ピル・ノルバヌス。

それ以上、侵略者にくれてやる情報はない」


名乗った帝国兵…ユルスの顔は、意志の強く勇ましい雰囲気を持っていた。

きっと彼も、ガレマルドの、ガレアン人の誇り高き意志を抱えて今を生きているのだろう。

ただ状況がよろしくない。

ここで無闇に彼を刺激すれば、彼を含むガレアン人があの時の姉妹のように更に騒ぎを起こしかねない。

かと言って彼らの好きにさせると、今度はこちらの生存が危うい。


「ガレマルドの人々にとっては、命と未来を懸けた選択なんだ。

私たちも、ちゃんと同じものを懸けよう」


話の末アルフィノが取った行動はそれだった。

ユルスの上官含め、テルティウム駅という場所に避難しているガレアン人の元へ人質という名目で、アルフィノとアリゼー、そして私が向かうこととなった。

道中、ユルスは幾度も後ろを振り返る。

警戒心の強く、真面目な奴なんだろう。

勿論私たちへの警戒だけでなく、ガレマルドを中心として徘徊しているテンパードたちにも警戒の目を向ける。

道を塞ぐものは、気絶させ殺さずに。

そうして辿り着いたテルティウム駅は、キャンプ・ブロークングラスと同じで寒く、凍えるような場所だった。


上官と交渉できる…そう思っていたアルフィノだったが、彼らの意志は強く、逆効果となった。

アルフィノとアリゼーには[首輪]が付けられ、厳重な監視下に置かれた。


「……では逆に問おう、若き異国の民よ。

調和を望むのであれば、なぜ、ガレマールによる世界統治を受け入れなかった?

我らがお前たちの神を信じなかったからか。

我らとお前たちの形が違うからか。

お前たちと異なる理想を、法を掲げ、異なるものを愛するからか。

そうだとも、不和は争いを生み、調和の先に自由はない。

誰もを幸福にできる道などないのだ。

なれば我らガレアンは、最後まで自由と誇りのために争おう。

私の望みは、それだけだ……」


言葉は重く、のしかかった。


─────


「燃料が必要ならば、市街地から集めてくるようにとのことだ。

俺の指示のもとで、お前たちを青燐水集めに従事させるなら、外に出ても構わないとおっしゃった」


アルフィノとアリゼーは諦めることなくユルスと話を続ける。

ユルスの目には、小さな揺らぎが見えていたのを覚えている。

そんな彼が切り出した言葉がそれだった。

ガレマルドに住むガレアン人は魔法による火起こしは不可能、故に彼らが着火燃料として目を付けたのが[青燐水]だった。

だが崩壊したガレマルドでは集めることも困難となり、日に日に暖を取ることもできなくなっていたのだ。

けれどそれさえも諦めないのがアルフィノとアリゼー、そして私だった。

ユルスの監視が届く範囲で、青燐水を探す。

魔導アーマーに青燐水が積まれていると話を聞き、機能が停止しているそれをしらみ潰しで探していく。

だが付近は既に捜索済みなのか他の場所で避難しているガレアン人が取っていったのか、見つけることができなかった。

道中、公園だったであろう場所にある水辺が、凍っていないことに気がつく。

こんな寒冷地で、なぜ凍っていないのか…水というものは冷やせば凍り、温めれば湯となり蒸発していく。

……まさかと思い、ダメ元で水の中に入る。

ユルスはそんな姿を見て驚いただろう。

『何故こうも単純で、優しいんだろう』と。

寒さなど今はどうでもいい、ただこの行動1つで彼らも私たちも生きながらえられるのなら、なんだって構わない。

私を動かしたのはたったそれだけで、彼に渡せる答えではないだろう。


だがそうして見つけた青燐水さえ、上官は[魔導アーマーの燃料に回せ]と言い放った。

彼は戦うつもりなのだ。

ガレマルドのために。


─────


結局、アルフィノとアリゼーは捕虜として居残り、私だけがユルスに連れられキャンプ・ブロークングラスに戻ることとなった。

帰り道に案内されたのは、ユルスたち家族が住んでいた家だった。


「……家だったんだ、うちの家族の。

帝都が崩壊したあの夜、俺はクイントゥス様と同じ場所にいて助かった。

けど、うちにはあのラジオはなかったんだ。

朝になって、どうにかここに駆けつけた。

研究職の父も、母も、妹と弟もまだいて……だけど、もう、言葉は届かなくなってた。

話しかけたら襲われて……それで……俺は……。

本当だったらその朝に、みんなは帝都を出るはずだったんだ。

内戦が収まるまで、安全な場所に避難してもらう約束だった」


その言葉に静かに耳を向ける。

救えなかった命の重さを、確認しながら。


「……ガレマールの旗には、

民族の団結を示す鎖が描かれてる。

血色の鎖は、犠牲になった同胞たち。

彼らも含めて、ガレマールって国なんだ。

でも……じゃあ、この国がなくなったら、死んだ同胞たちが生きてたって証は、どこに残る?

お前たちみたいに神に祈れたら、答えを得られてたのか?」

「………」


その問いは、[神殺し]と称された英雄にとって重く、一生答えなど出せないようなものだった。


─────


キャンプ・ブロークングラスに付き、ユルスは捕虜の件と解放条件を伝えた。

だが、返ってきた答えは[アルフィノとアリゼー、2人の捕虜の奪還成功]だった。


「……聞いたとおりだ。

貴公らと我々は、これでまた対等にテーブルにつける。

その上で、改めて相談したいことがあるのだ。

我々のもとに届いた、ある情報について、クイントゥス殿も交えて話がしたい」

「……それは不可能だ。

交渉が失敗した場合についても、すでに指示は受けている」


ユルスは剣を手に言い放つ。


「我ら、ガレマール帝国軍第I軍団……祖国の頂を護る者……。

皇帝陛下亡き今も、この地は尊き帝都なれば……同胞戻り来るまで、身命尽きようとも、蛮族を排せよ!」


叫びが響く。

それと同時に新たな報告(彼ら帝国にとっての悲報)が入る。


「アラミゴに、第X軍団を中核とする一団が来訪。

会談を希望してきたそうだ。

曰く、彼らは帝都解放を目指して共闘を呼びかけるも、第IV、第V、第VIII、第XII軍団とは交渉決裂……。

大半の軍団が独自路線を突き進み、交信すらままならぬ中で、第X軍団自体が属州兵の大量離反を許し、事実上、継戦能力を喪失……。

以て、グランドカンパニー・エオルゼアに―――」

「嘘だ、騙されるものか……ッ!」

「いいや、事実なのだ、ユルス殿。

第X軍団長から、第I軍団長に宛てた伝言も預かっている。

『イルは立たず』と」


『イルは立たず』。

その一言は、彼ら帝国兵にしか分からない言葉だった。

だが、その一言が彼らの戦の終わりを告げたことは、明白だった。


その後、テルティウム駅にいた避難民が次々と保護された。

だが、上官の姿はなかった。

彼は最期まで帝国の兵士として、意志を貫いたのだ。


『生きたくば生きよ』


彼の最期の言葉は、ユルスや他のガレアン人だけでなく、私の耳にも痛く残った。


─────


事がひと段落し、避難民への治療や配膳が行われていた。

それはとても温かく、生きた実感を得られるものだった。


そう……ひと段落、したはずだった。


「うわぁぁぁああ!!」


悲鳴は1つではない。

確保していたラジオから、声が聞こえる。

その声は愛国心を持つガレアン人を魅了させ、テンパードへしようとしたのだ。

発信源はそびえ立つ塔。

咆哮が響き、派遣団の者たちにも焦りを与える。

みんなが騒動を収めようと奮闘する中、私の足を止めたのは1人の黒渦団だった。


「お待ちを!」

「!?」


その声は聞き覚えがあった。


「あなたはどうぞこちらへ、殿下がお待ちです」


その声と共に、私の目の前は鈍く暗転した。


─────


………。

身体が重い。

瞼も重い。

気分が悪い。

エーテル酔いでもしただろうか。


重い瞼を上げると、目の前には豪勢な料理が並べられていた。

これはどういうことだ?


「あぁ、兜を外す時は気をつけて。

まだ[その身体]に慣れていないでしょうから」


私をここへ招いたファダニエルが言った。

そこで初めて気づく…私の身体でないことに。

身体が重いのはこれが理由か、心底気味が悪い。


「いかがです?

魂を別の身体に移し替えられた気分は」

「……最悪だ」


その一言しか出なかった。


目の前には黙々と食事をしているゼノスがいた。

この光景に興味があるのかないのか…彼は見向きもしない。


[皇帝]は、信仰に価する。

愛国心は、団結力を上げる。

ファダニエルは、神への信仰をしない国で皇帝という象徴に目を付け、彼らガレアン人を騙しアニマ[皇帝]を顕現させたのだ。

本当に、汚い考えだ。


「英雄……それは、絶望と悲感が渦巻く場所に現れ、命を賭して戦う者だという。

なかなかに学ぶことも多かったぞ。

異なる体躯で戦うからこそ、己が癖も見えてくる。

強さというもには、魂に宿るのか、肉体に宿るのか……。

それを問う機会を、お前にも贈ろう」


ゼノスは晩餐に飽きたようで、立ち上がりそう言った。

彼を目線で追う。

向かった先には、玉座らしき物と、そこに伏せ座る[私]がいた。


「……!

止めろ!」


その声も無意味で、ゼノスは私の身体に移った。

目を開けこちらを見、不敵な笑みを浮かべる姿は、私に憎悪と怒りを与えた。


─────


ファダニエルに導かれるまま、崩壊したガレマール帝都へ降ろされた。

ゼノスを今すぐにでも追いかけたいが、ファダニエルの[遊び]と身体の重さが許してくれなかった。


テンパードとなった帝国兵と戦うにも骨が折れる。

これ程までにキツイのか。

『自分自身の身体でなら、助けることができたのだろうか…』

そう考えるも、立ち止まってられないので先に進む。


「そこの軍人さん!

正気なら手を貸してくれ!」


進んだ先にいたのは、未だ抵抗を続けるガレアン人たちだった。

応戦するものの、体力が続かない…。

長期戦になりつつあるのか、ぞろぞろと敵も増えていく。


「爆発するぞ!

その魔導アーマーの後ろに隠れるんだ!」


その声とほぼ同時に、敵の魔導兵器が爆発した。

爆発と共に倒れ込む…衝撃が強かったようで、今にも気を失いそうだ。

周りの者たちは、敵味方関係なく即死だった。


「………」


また自分だけ生きながらえたのか。

救えたはずなのに、守れたはずなのに!

何故こうも、私と共に戦った者たちは、先に逝ってしまうんだ!


「……!」


だったら、生きてやる。

先逝く同志のために、生きて、抗ってみせる。

今や瀕死の私を動かすことができるのは、たった1つの想いだけだった。