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Main2-10:振り回されていた魂(こころ)が、ようやく目を向けてくれた

2022.04.19 08:30

暁は、英雄が居ないことに気がついた。

騒動がひと段落したことで、ようやくそのことに辿り着いたのだ。

と言ってもどうやら心配する程でもなく、遠くから英雄の姿が見えた。


ただし、ヤ・シュトラとアリスだけは、違和感を覚えていた。


アリゼーとグ・ラハは気にせず英雄に近寄る。

英雄が、どれ程信頼され頼られているのか、この行動1つでもよく分かる。


「あんた、誰だ?」


そこでようやく違和感に気づいたのはグ・ラハだった。

英雄の笑みは不気味さを思わせる。

武器を構えるアリゼーとグ・ラハ。

英雄は、笑みを崩さず体内から魔力を渦巻かせ魔物を呼び出した。

[アヴァター]と呼ばれるそれは、幾度も命を喰らったことのあるかのように、何の躊躇もなく爪を立てる。


「(届け───!!)」


その想いは届き、投げた武器がアヴァターに直撃する。

英雄は武器の飛んできた方へ目を向ける。

アリゼーもグ・ラハも、その正体を知るべく目を向けた。

満身創痍、肩で息をしながらそれは叫んだ。


「ゼノス!!!」


その名を聞き、英雄は狂気じみた笑みになる。

お構いなしに叫んだ者は英雄に突進した。

ぶつかり互いが倒れ込む。

その直後、衝撃が走る。

頭が割れるような強い痛み、響く声、身体も動かせる程の体力はない。


「強き神を喰らって、お前の仲間も、世界も、すべてを引き裂こう……」


その声に抗うことは、できなかった。


─────


ヴリトラの言葉を思い出す。

その通りだったと、心で答える。

1歩間違えれば、彼らまでも喪っていただろうから。

己の力不足を痛感した。

彼の執着を舐めていた。


「………」


ゆっくりと目を開ける。

雪の冷たさを感じる…心臓の音が聞こえる。


「目が覚めたのね」

「……、みんな、無事、なのか…?」

「あぁ……みんな大丈夫だ。

あんたが1番、無事じゃなかったんだぞ…?」


あの後どうなったかは分からないが、この様子だときちんと還ってこれたようだ。

少し休んだ後に、塔の中で見たものの説明と、私が不在だった時の状況を話し合った。

それらの状況を整理した上でバブイルの塔と称したそれに居るアニマ討滅を試みるべく、暁とイルサバード派遣団は作戦を立てていった。


みんな、やる気は十分のようで、それぞれが勝負服を着ている。

見慣れた姿だが、寒くないのか?と問うてみたくもなる連中もいる。

うん、まぁ、戦えば身体も温もるだろうとは思うけれど。

先陣切っていた部隊が、バブイルの塔の侵入経路を確保している隙に、突入部隊も念入りに準備を進めた。


─────


バブイルの塔は、ガレマルド皇都の面影を残しつつ、歪な空間へと成り果てていた。

働くテンパードたちは、敵(私たち)を見つけるや否や、襲いかかってきた。

生かしたまま終えることができれば、どれ程良かろうか。

そう願いつつ、放つ矢は彼らの急所を貫いた。

視えるエーテルはゾットの塔と同じく反吐が出るようなもので、いい気分ではない。

それでも進まねばと奮い立たせ、着々と作戦が成されていった。

道中、増援の対処で何人か応戦するために残ることとなり、最後には私を含めた4人だけとなる。

アリスやヴァルも足止めとして途中で別れた。


「義姉さん、ここは任せてください!」

「…生きて帰ってくるんだぞ」


その言葉と背中を押してくれた行動は、私をもっと前へ進めさせてくれた。


─────


アニマを無事に討伐したのも束の間、今度はファダニエルとゼノスを追いかけることとなった。

彼らは全土からかき集めたエーテルをエネルギーとし、月へ放とうと言うのだ。

月にはゾディアークが封印されており、それを刺激するためだそうだ。

それでもどうやらエネルギーは僅かに足りないのか何なのか、出力は不十分で、月からの防衛を突破しきれなかった。

『ならば自身をエネルギーとし、直接月へ赴こう』

そんな無茶な行動は馬鹿だと思ったが、そうしてまで彼らは月へと向かってしまった。


「……嘘だろ…」


息を飲み、唖然とした。

遅れてやって来た面々に状況を説明した。

どうしたものかと考えていると、クルルが血相を変えやって来た。

目の色を見るに、ハイデリンなのだろう。

エーテルが少々ぐちゃぐちゃに視える…相当滅茶苦茶な移動をしてきたようだ、それくらい、彼女は焦っている。

ハイデリンは私たちに月のこととzファダニエルたちテロフォロイの行方を教えてくれた。

どうやら彼らの到着予定である座標をズラしたのだそうだ。

時間稼ぎができているのなら間に合うはず、私も追って月へ向かおうと伝えた。

誰かが止めなければ、奴らは止まらない。

そして、特にゼノスは私が追ってくることを望んでいる。

拒否の言葉は受け付けなかった。


「ハイデリンの言葉が確かなら、あの装置は今、月の[嘆きの海]とって区画にいる、[協力者]のもとに繋がっているらしい。

他の区画に飛ばされたゼノスたちが攻め込んでくるまでに、あんたと、その[協力者]で手を打てってことなんだろう。

何もかもが手探りだ。

……けど、こういう時こそあんたは強い。

だから、うん、思いっきり冒険してきてくれ!

空の向こう……あの白き月へ!」


グ・ラハの言葉は、私を未開の地へ連れて行く。

そうして私は導かれるままに月へ…[嘆きの海]へと辿り着いたのだ。


─────


どこまでも荒涼とした光景は

揺り籠というよりも

墓碑のない墓場のようで

聞こえるはずのない

嘆きの声と祈りの歌が

青き星に昇っていく気がしたものだ


[嘆きの海]と呼ばれたそこは、静かで懐かしげな建造物が目の前に見えるだけだった。

とりあえず、足を進めてみる。

これはエーテライトだろうか?

半信半疑で手をかざし、交感してみる。

……エーテルの流れを感じた、交感は可能のようだ。

見渡してみると、またも懐かしげな佇まいの影が見えた。

第一世界のアーモロートで見たような古代人…それは私に目もくれず、じっと向こうを見つめていた。

時々彼らは何かに怯え、私に襲いかかる。

私は一瞬、戸惑った。

『何故?』という戸惑いではない…『倒してしまって良いのだろうか?』という戸惑いだ。


『君は、それを躊躇ってくれる人なのか』


終始私の姿を見ていたらしい、白い影がそう言った。

ハイデリンの言った[協力者]である月の監視者だ。

私はそれに導かれるまま、建造物へ向かった。

まず最初に見せてくれたのは、月の中心から漏れ出るエネルギーだった。

次に見せてくれたのは、ゾディアークを封印していた剣。

壊れているものと、壊れていないものがある。

テロフォロイが壊して行ったのだそうだ。

壊れた際にゾディアークの贄となった思念が形を成し、月を徘徊している…先程見た影も、その1つだったらしい。

修復には時間がかかるため、思念の邪魔が入らないよう見てきてほしい…とのことで、私はひとまず行動に移すこととした。


─────


月を歩く。

ひたすら歩き、影を追う。

その中で出会ったのは、光を帯びた犬だった。

じっと私を見つめている…敵意は感じず、警戒もされている様子がない。

何なら懐かれているような気がする。

『着いてこい』とでも言いたげなそれに従い、私はその子を追った。

その子の着く先には影がいる。


影は怯えた。

影は嘆いた。

影は祈った。

影は───


『……あぁ、やっぱりアゼムの色だ』


話しかけてきた。


影を押しのけ影が来る。

それはどことなく懐かしさを感じる影で、私の[奥底]を視るような目線でこちらを見ていた。


『その魂を持つ、けれどもアゼムではないキミがここにいる。

いることを認められている。』

「……」

『うん、そっか……エメトセルクは託せたんだね』


そこまで聞き、ようやく合点がいった。

彼は[あのエメトセルク]を知っているんだ。

そして、アゼムのことも。

彼は……


「……ヒュトロダエウス、なのか?」

『いかにも、ヒュトロダエウスだけど……。

どうしてキミが知ってるの?』

「…エメトセルクが創った、幻影のアーモロートで、君に会った」

『フフ…あのエメトセルクがねぇ……フフフ』


どうやら何かが面白かったらしい。


『[ワタシたち]は、ハイデリンに封印されるまでのことは、しっかり把握できているんだ。

ワタシは信じるよ。

エメトセルクと出会って、そしてここにいるキミを。

だからキミも、キミを信じて、進むといい』


その言葉を聞き、私は驚いた。

決して、自分を信じていないということではない…ただ、確かに心のどこかで疑っていたからだ。

『この行動は正しかったのか?』

『私はみんなの願う英雄とは程遠いのではないか?』

『本当に、私を英雄として良いのか?』

疑念が、確かに渦巻いていたのだ。

目の前の彼は、エーテルの色だけでなく心までも視たのだ。

けれど、それと同時に芽生えた想いはただ1つの感謝だった。

『信じてくれる者がいる』…過去でも、今でも、きっとこの先でも。

彼らにそうして支えられ、私は今ここにいる。

私1人では不可能だったことが、みんなが居たことで可能となったのだ。

なら、応えなきゃ。

彼らだけのためでなく、私自身のために。

信じて。


「……、止めなきゃ」


ヒュトロダエウスが居なくなると、私は前を向いた。

今はやるべきことをするために。


─────


大きな爆発音の元へ向かうと、案の定ファダニエルとゼノスが居た。

ゼノスは嬉々として鎌を構え、私を見る。

相手にするのは正直面倒なのだが、放ってしまうとそれも面倒だ。

弓を構え相手の様子を伺っていると、ファダニエルが口にした。


「あぁ、すみません。

戦うなら[こっち]を先にしてもらえますか?」

「は…?」


ファダニエルの方を見ると、彼はにこやかにこちらを見ていた。

次の瞬間、彼は穴へと落ちる。

身投げした──そう思った時には遅く、彼は核となりゾディアークを無理矢理再成させたのだ。

エリディブス(本来の核)とは違うので未だ不完全だが、それでも強く暗い闇が襲いかかる…。

呑まれた…けれどそれが何なのだ。

私は、私のするべき事を、やり遂げるために…ここにいる。


『そう、信じて前に進むんだ。

その魂は、それでこそ輝くというものさ。

キミが望んでくれた結末とは、違うのだろうけど…

これはこれで、ワタシたちには似合ってるんじゃないかな。

キミも少し、そう思ったんじゃない?

ねぇ、────………』


またも、誰かが背中を押してくれた。

その声は私を突き動かす…私(アゼム)を目覚めさせる。

私の中に眠っていた、私(ニア)までも。


思い描くはアゼムの召喚術、難解な術式なので記憶できるようなものじゃない、だが私は知っている。

術の使い方も、それに必要なエーテルの使い方も。

私はそもそもエーテル操作が苦手だったはずなのに。


「……そうか、そうだったんだ」


今やっと、その答えが見えた気がした。

苦手としていたそれは、目を背け[忘れて]しまっていただけだということを。

そして、ようやくそれに向き合えたのだ。


『私は、未来に願い、総てを託す。

私の魂を持つ者が、私と同じ道を歩まぬことを。

私の力を持つ者が、今度は正しき道へと歩むことを。

私の姓を継ぐ者が、理に抗い未だ見ぬ道を切り拓くことを。

そして──私を憶えている者が、私の後悔を知り、末に託したあらゆる詩を謳うこと──』


私は、確かに憶えていた。

目を向ければ、答えはすぐそこにあった。


『やっと、私に目を向けてくれましたね』

「──ニア・リガン」

『私の名前まで知っていてくれていたのですね』

「いいや、教えてもらっただけだよ。

私は、お前が築き上げた一族の記憶は持っていないから」

『えぇ。

……分かたれた一族は、私の術式のせいで持てる力が限られていました。

けれど、その中で全の力を持つ貴女が産まれた。

やっと、私の術式から外れた者が。

[アゼム]の色を色濃く継いでいたから』

「…!

アゼムを、知ってるのか!?」

『えぇ。

私も[超える力]を持っていましたから、その人生の中で1度きりですが、視ましたよ。

けれど、今は一族の事よりもやるべきことを。

どの道何れ、真実を知ることができますよ』

「…!待て!」


まだ、聞きたいことがあるのに!


『───あぁ、そうでした。

1つだけ訂正を』

「なんだ!」

『彼(ヘリオ)と貴女は確かに繋がりを持っています。

けれど、彼はこの11年で、個となった…世界が彼を生きる者として認めたから。

だから繋がりは消えずとも、共鳴などもう既にないのです。

貴女の力は、私が未来へ託したもの。

私の想いが、ようやく貴女に届いた証。

長い長い間、待ち続けていた…この時を』

「……」

『けれど今やその力は私のものではなく、貴女のもの。

思う存分、意のままに……』

「…」

『えぇ…そう、枷など必要なかったのです。

外す術は、[愛する彼]が未来へ託した…

─────』


残りの言葉はうわ言のようで聞き取れなかった。

きっと、彼女は後悔した後にあらゆる術を遺していったのだろう。

同じ道を辿らせないために、正しき道に進んだ者へ真実を託すために。

[愛する彼]は、まぁ普通に考えればカ・ルナ・ティアなんだろうけど、考えるのはアリスたちに合流できてからで構わない。


なぜここに来てようやっとニアが姿を見せたのかは分からないが、アゼムの想いが残るクリスタルがきっと私の心底を冒険していたのだろう。

想いが心底に眠っていたニアを起こした…だからこそウォーリア・オブ・ライトと対峙するよりも強く力を引き出せたのだと思う。


アゼムのクリスタルは輝きを増す。

光は闇を相殺し、ゾディアークの姿を捉えた。

決着をつけよう。


「集えよ、抗う者よ!」


未来のために、私のために!