とある冒険者の手記

V.護る対象は形を変える

2022.04.20 05:01

「うわぁぁぁああ!!」


キャンプ·ブロークングラスにガレアン人の悲鳴が響き渡る。

バブイルの塔から発せられたエーテル波で、ガレアン人がテンパードと化す。

そんな時、ヴァルの目に飛び込んできたのは、闇に包まれ消えるガウラと黒渦団員の姿だった。

その瞬間、ガウラが敵に捕まった事を悟ったが、襲いかかってくるテンパード化したガレアン人を対処する羽目になり、身動きが取れなかった。

騒ぎがある程度沈静化したのを見計らって、ヴァルは足早にキャンプを離れ、ヨルを呼び出し飛び乗った。

ガウラを追っていた頃、バルダム覇道でどさくさに紛れ、ヴァルもヨルを服従させていたのだ。

バブイルの塔を目指し飛んでいると、キャンプに向かって歩いているガウラの姿を見つけた。

だが、雰囲気がおかしい事に気がつく。

咄嗟にエーテル視を使うと、ガウラの身体から異なるエーテルが見えた。


それはゼノスのエーテル。


ゼノスがガウラの身体に入っていると知り、全身の血が逆流するような感覚に襲われる。

感情的になるのをグッと堪え、頭を働かせた。


(ゼノスがガウラの身体に入っているなら、ガウラの魂はどこに?!)


胸騒ぎを覚えつつ、エーテル視をしたままバブイルの塔を目指し、辺りに目を凝らす。

すると、市街地後から這いずりながら進むガウラのエーテルを見つけた。

急いでそこへ向かい、ヨルから飛び降りて駆け寄る。


「ガウラっ!!」


花の甘い香りが、見間違えではないと証明される。

だが、それと一緒に死臭も漂う帝国兵の身体。

それが今のガウラの姿だった。


「……ヴァル……か……」

「さっき、お前の身体を見た!魂を入れ替えられたのか?!」


ヴァルの言葉に、ガウラは腕にしがみついた。


「皆が…危ない…っ、早く…行かなきゃ……っ」

「っ!!」


その言葉にヴァルはガウラを担ぎあげ、ヨルに飛び乗る。

そして、手持ちからハイポーションを取り出した。


「気休めにしかならないかもしれないが飲め!」


兜の口の部分を何とかこじ開け、ガウラにそれを飲ませる。

軽く噎せながらも「すまない」と答える。

これで立てるぐらいにはなるだろう。


「また、自分だけが生きながらえてしまった…」

「…なに?」

「何故こうも……、私と共に戦った者たちは、先に逝ってしまうんだ…っ」

「………」


ゼノスを追ってる途中に何かがあったのを察したヴァル。


「安心しろ。お前が望むなら、あたいはお前より先に死なない。だが、後にも死なない。約束する」

「………」


ガウラがその言葉をどう受け止めたかは分からない。

その時、キャンプ付近にガウラの身体を乗っ取ったゼノスを見つけた。

見つからない所にガウラを降ろすと、ガウラはおぼつかない足取りで、気力を振り絞り、走り出した。

そして、ゼノスの行動を阻止し、無事に元の身体に戻ったのだった。


ガウラが戻り、バブイルの塔の内部が分かったことで、イルサバード派遣団は行動に出た。

それに紛れ、不滅隊員として作戦に潜り込む。

アニマを討伐するべく進むガウラを護る為、増援部隊を殲滅していく。

そして、近くで戦うアリスを見つけた時。

ガウラの言葉が頭をよぎった。

彼女の心の憂いを払う為、アリスの背後に背中合わせ立つ。


「怖気付いて無いだろうな?」

「まさか。その逆ですよ」


声をかければ、頼もしい言葉が返ってくる。

これで弱音を吐く様なら、蹴りのひとつでもお見舞いしてやろうと思っていたが、杞憂だったようだ。


「ヴァルさん、後ろは任せます!!」

「言われなくてもっ!!」


必ず護り抜く!

ガウラも

彼女の心も

彼女と共に戦う者達も!


その想いが、ヴァルに闘志を燃えさせた。