とある冒険者の手記

A.月に呼応し、白く染る

2022.04.20 07:22

バブイルの塔を制圧し、ガウラがアニマの討伐を成功させた。

そして、そのままガウラが月に向かったと聞き、アリス達は1度キャンプに戻ることとなった。


1人で月へと向かってしまったことが心配ではあったが、後でサンクレッド、ヤ·シュトラ、ウリエンジェが後を追うとの事だったので、今は出来ることをしようと決めた。

塔で生きて捉えることのできた帝国兵を治療する為、キャンプに護送し、慌ただしくなる。

搬送が済み、一休みをする。

そして、義姉がいるであろう月を見上げる。


「義姉さん。大丈夫かな…」

「ガウラの事だ、無茶さえやらかさなきゃ心配はいらないだろ」


声に振り向くと、不滅隊の制服を着たヴァルの姿があった。


「だから心配なんじゃないですか…」

「…確かにな…」


流石のヴァルも、アリスの意見には同意せざるを得なかった。

その時、アリスは身体に違和感を覚えた。

体調不良ではない。

身体の、特に右脇腹に熱を感じた。


「なん……だ?」

「…どうした?怪我でもしたのか?」

「いや、そうじゃなくて……」


会話をしてる間にもどんどん右脇腹は熱くなっていき、次第に耐え難いものになって行った。


「ぐあっ………熱い……っ!!」


右脇腹を抑え、蹲るアリス。

流石のヴァルも動揺する。


「なんだ?!どうした?!」


ヴァルが慌ててアリスの手をどけ、服をめくり、右脇腹を確認すると、蝶の痣に変化が起きていた。

黒い蝶の痣は白く染っていく。

その間も、熱いと悶えるアリス。

それが白に染まり切ると、そのままアリスは気を失う。

急いでアリスを医療班に引渡し、事情を説明した。

痣が白く染まった以外は外傷はなく、直ぐに目が覚めるだろうと思われたが、アリスは静かに眠り続けている。


だが、ヴァルはアリスのある異変に気がついていた。


「…エーテルが変化した?…いや、あれは……アリスなのか?」


人気のないところで、ヴァルはそう呟いたのだった。