近代思想8-フォイエルバッハの人間学
2022.04.20 11:39
1841年フォイエルバッハの「キリスト教の本質」が出版された。この書はキリスト教の批判だけでなく、人間の歴史=精神の発展の歴史だというヘーゲル哲学を根本から批判するものだった。フォイエルバッハは、キリスト教の神は、人間の本質を投影したものであり、それは「人間の自己疎外」だと批判した。
ヘーゲルは「法の哲学」で、自分の哲学とプロイセン国家を完成とみなしたが、実際それからも現実は不満だらけで、どんどん動いている。神によってもヘーゲル哲学によっても歴史は完成せず、実際に動くのは現実に生きている人間なのだ、と人間学を主張するのである。
ではどうすればいいのか?キリスト教に投影した人間の本質は「類的存在」である、そして人間の自己回復は、類的存在であることを「愛」によって見出すことだ、と主張する。この愛は、エロスではなく、ベートーヴェンの第九やフランス革命の理想のような人類愛のことだ。
フォイエルバッハは、それが自然に実現するとは思わない。人間が神を捨てて、他者と対話することによって、類的存在にめざめて、共同社会をつくることに自己回復を求めるのである。これはフランス革命の継承であり、また社会的対立を越えたユートピア主義の広まりに呼応するものだった。