vol.11 須摩陽子さん(31) 【多様性のある社会を、様々な人に知ってもらうきっかけを作りたい:有限会社ビッグイシュー日本】
*はじめに
というのも家の最寄り駅で男性が雑誌を頭上に掲げて販売している様子がとても印象に残っていたからです。
雑誌は本屋やコンビニで購入するもの、という感覚が強かったので、
「なんで道端で雑誌を売っているのだろう」幼心にそう不思議に感じていました。
ビッグイシューを初めて購入したのは高校一年生の冬。
ずっと気になってはいたけれど、勇気がでなかった。
今日こそ買うぞ!
ドキドキしながら、「一冊ください」というと、おじさんが優しく「ありがとう。」と声をかけてくださいました。
そのあと3分ほど世間話をして帰宅。
当時購入したのはこの号でした。
https://www.bigissue.jp/backnumber/208/
トム・クルーズのインタビュー記事や映画や音楽などのエンタメ記事はさることながら、
ますます、この雑誌を作っているのはどんな団体なんだろう。
純粋に興味が湧き、気になる存在になっていました。
そんな中、大学生になり、Facebookにてボランティア説明会があることを知りました。
これは取材を兼ねてぜひ行ってみたい!
そう思い立ち、向かった先は新宿曙橋にあるオフィス。
説明会では、「ホームレス」ということばの定義や、今の実態という基本的なことから
ビッグイシューの取り組み、私たちができることまで、初心者の私にも理解できるよう、細かく説明をしてくださいました。
説明会に参加していたのは、ゼミでホームレス問題について勉強している大学生から、小学校の教論の方、ひきこもり支援を行っている方など背景は人それぞれ。
そのような方たちとともに意見交換をでき、ものすごく刺激的な時間になりました。
ボランティア説明会は毎月一回、東京と大阪にて、開催されています(^^)
https://www.bigissue.jp/event/
説明会終了後、ビッグイシューの活動のことも踏まえて、
「有限会社 ビッグイシュー日本」で働く、須摩陽子さんにお話を伺ってきました!
*ビッグイシューとは?
—ビッグイシューは、どのような取り組みをされているのですか?
ビッグイシューの取り組みは、①有限会社ビッグイシュー日本と②認定NPO法人ビッグイシュー基金の二軸に分かれます。
—よく駅前の路上などで、雑誌を販売されている方を見かけるのですが、それはどちらの事業になるのですか?
雑誌『ビッグイシュー日本版』を編集・出版し、路上販売をする取り組みを行っているのは、私が所属している前者の「有限会社ビッグイシュー日本」です。
原型はロンドンのビッグイシューで、ホームレス状態の方々をビジネスパートナーとして捉え、「働く機会を提供して自立を応援すること」を使命として掲げています。
—他にも様々なサポートの方法がある中で、どうしてホームレスの方を「ビジネスパートナー」と捉えたのですか?
そうですね。私たちは、「セルフヘルプ」(専門家の助けを借りるのではなく、当事者の力で当事者の問題を解決すること)の理念のもとに事業を行っており、ホームレスの方を「施しの対象」とは捉えていません。
そうではなく、「ともにビジネスをする仲間」と考えています。
なぜなら、「セルフヘルプ」の考え方が、その方がこの先生きていく上で、大切な力となると考えているからです。
—今まで、どのぐらいの方が販売されているのですか?
これまで販売者に登録された方は1728人、その中で卒業(販売をきっかけに他の仕事につくことができ、住居を確保された方)された方は189人です。
販売者さんの収入は今年11億円を超えました。応援してくださる皆さんには、感謝の気持ちでいっぱいです。
—1冊の雑誌が積み重なって、11億円を超える収入になるのですね。それでは、認定NPO法人ビッグイシュー基金では、どのような取り組みを行ってらっしゃるのですか?
ビッグイシュー基金では、「仕事以外の部分のサポート」を行うことを軸に
ホームレス状態の方の生活の相談や、スポーツ・文化活動、貧困問題に関するネットワークづくりや政策提言など様々な取り組みを行っています。
ビッグイシュー基金が設立当初から行っているのは、住まいや医療に関する生活相談や雑誌販売を含めた仕事の相談事業です。
また、スポーツ・文化活動も行っており、「野武士ジャパン」というフットサルチームで「ホームレスワールドカップ」という国際大会に参加したり、
ダイバーシティの考え方のもと、ホームレス状態の方に限らず、様々な社会的困難を抱えた方をつなぐ「ダイバーシティカップ」というフットサル大会を開催したりもしているんです。
—ダイバーシティカップ、すごく興味深いです!でも、「仕事以外のサポート」は何故必要なのでしょうか?
それは、「仕事のサポート」だけでは、補いきれない部分があるからです。
ホームレスになる方々は、最初に仕事、次に家を失います。
三つ目に身近な絆を失くし、一人ぼっちになり“ホープレス”(Hopeless)に。
最後にホームレスになります。
ホームレス問題は、社会的な問題であると同時に、
人々の孤立の問題。
ビッグイシューではそのように考え、仕事以外の生活面や、人と人とのつながり、居場所づくりのサポートも大切にしています。
暑気払い料理会にて。夏野菜をふんだんに使ったお料理で夏の暑さを吹き飛ばしました
*須摩さんのこれまで
◇初めてのボランティア活動を経て気づいた自分の気持ち
—なるほど。次は、須摩さんについてお聞きしたいです!
須摩さんはもともと新卒でビッグイシューに入社をされたのですか?
いえいえ。実は、大学卒業後、広告代理店で8年間営業の仕事をしていました。
もともと大学ではドキュメンタリー制作を行うゼミに入っていたことや、
入社2年目の2011年に東日本大震災が発生し、ボランティアとして被災地に出向いたことが、きっかけです。初めてのボランティア活動でした。
—どのような団体ですか?
—ゆどうふでの活動にはどれくらいの頻度で行かれていたのですか?
二足のわらじ状態です(笑)
◇自分のやりたいことと割いている時間のギャップに悩まされ…
—広告代理店だとお仕事が忙しくて、両立するのは大変ではなかったですか?
そのうち、自分の興味のある分野と仕事、そしてそれに割いている時間のギャップが自分の中で顕著になってきてしまったんです。
—なるほど。そのあとすぐ転職を考えられたのですか?
考えてはいたけれど、迷っていて。
今年2月に、若者支援を行っている団体が交流するイベントに「ゆどうふ」のスタッフとして参加をしたことで、転職を前向きに考えるようになりました。
そのイベントには、全国から様々なNPO団体や、社会的企業が集まっていて、
他にも様々な試みをしている団体がたくさんあることを知り、
自分の知らない知識もたくさんあることに気づき、
こっちに時間を費やしたい、その思いがさらに強くなり、そこから転職を本格的に考え始めました。
◇最終的な転職の決め手は、知りたい、関わりたい、という純粋な気持ち
—ビッグイシューもそちらに参加されていたのですか?
ですがそれが直接的に就職先の決め手になったわけではなく、
雑誌をよく購入していることもあって、
とても気になる存在だったんです。
それに、販売者さんの元気に話す姿が魅力的で、
「この方々を囲む人達は、どんな形でサポートをしているのだろう。」
「当事者だけでは解決が難しいホームレスの問題にどのように取り組んでいるのだろう」
多くの疑問が生まれる中で、自分もスタッフとして働いてみたいという気持ちが高まっていきました。
*須摩さんの今
◇ サポートには、マニュアルも成功法も存在しない
—雑誌を買うときに販売者さんがたくさん話しかけてくださる様子が、私もとても印象に残っています!
広告代理店から、社会的企業であるビッグイシューに転職をされて、大きく変化した部分はどのようなところですか?
たくさんあります!その中でも、一つ挙げるとしたら、
「型にはまった答えではなく、一人ひとりに合ったサポートを考え続ける」ということです。
広告代理店時代は、打ち出す広告の種類によって、テレビ、ポスター、等…
正解はないものの、クライアントに成功法を提案することはできました。
広告代理店時代の須摩さん
—なるほど。転職をされてみてどうですか?
ビッグイシューに入ってからは、日々向き合う販売者さんは、当たり前だけど、それぞれまったく異なる境遇で、まったく異なる人生を送ってきていらっしゃいます。
なので、広告代理店時代と同じように、どの方にも通じる答えというものがないんです。
私はその中で、その方自身にはなれないにしろ、できる限り心に寄り添った存在でありたい、と思っています。
また、販売者の方には一つの正解ではなく、様々な選択肢を提示できるような存在でありたいですね。
◇想像力をフルに使って解決策を考える
—選択肢を選び取るのは、販売者さん。その中で、多くの解決法を提示することで、ビッグイシューが彼らの心の拠り所にもなるのですね。
逆に、広告代理店と、ビッグシューでのお仕事で共通していることは何かありますか?
「想像力をフルに使う!」
という点は似ているなあと思います。
広告代理店時代は営業担当として、お客さんの要望を聞いてそれを形にする
ということを行っていました。
販売者の方の気持ちを想像力を膨らませて聞く。
そして幾つかの解決策を考える。
両者は似ていないようで、結構似ているところもあるなと感じます。
—ビッグイシューで働かれていて、大変なことは何ですか?
先ほども少し触れましたが、「販売者さん」とひとことで言っても境遇が人それぞれ違うということですね。
幼少期の環境や人間関係も様々、障がいがあったり、依存症に悩まされたりしている方もいます。
そのような中で、信頼関係を築き本音で語っていただく、そのような環境を作ることは難しいと感じます。
でも、私たちが介在する意義はそこにあるので、
対話を通して、販売者さんの意思を尊重しつつ解決の糸口を探っていく、
ですが、「販売者さんがどうしたいか」という部分を第一に考えたい。
◇少しづつ起こる良い変化にやりがいを
—嬉しかったエピソードはありますか?
販売者さんたちと和気藹々と朝ごはんを食べながら、世間話や近況を話したり、聞いたり(笑)
—ほっこりした空間になっているのが、すごく素敵ですね。
というダンスユニットがあるのですが、そちらに入られている販売者さんですね。
その方は、ビッグイシューにいらしたその日に、
「昔ダンスをやっていたから、行ってみたい」と、“ソケリッサ!”の練習場所に足を運ばれました。
今は様々な場所で公演されており、雑誌の販売とダンスの練習で、日々忙しそうにしていらっしゃる姿がとても印象的です。
ずっと路上でお一人で過ごされていた日常に、お客さんや他の販売者さんと関わる時間が生まれたり、好きなことにかける時間が出来たり・・
そういう変化が少しずつ起きてくることが、嬉しいです。
*須摩さんのこれから
—須摩さんのこれからの夢を教えてください。
でも、ゆどうふを始めいろんな方との出会いがあってこの選択をしたので、
特に若い方のキャリアを決定する際は、たくさんのきっかけがあるといいなと思うんです。
その一つとして、ビッグイシューがきっかけになって、
社会の問題に興味を持つ方が増えるというのはとても嬉しいことです。
*須摩さんの好きなもの
ー好きな本
ー好きな漫画
早稲田ちえ 『NERVOUS VENUS』
ー影響を受けた人
新聞記者の父親です。
今思い返してみれば、そんな父の社会に対する姿勢や、それを伝えようとする使命感は、大学の学部選択の時なども含め、少なからず自分に影響があったのだろうなと思います。
ー人生を100点満点とすると?
難しいですね。家族がどんな時でも応援してくれたので、自分のやりたい事を選択させてもらって、感謝しています。
決められないので、今31歳ということで「31点」にします!笑
自分の足で、しっかりと100点まで年を重ねていきたいです。
ー20歳の皆さんへ向けてメッセージをお願いします!
そのような仕事に最初の就職で就いていたら…近道だったんだろうなとか思ったこともありました。
大学時代は大好きなバンド活動にに精を出されていたという
22歳で人生における正解を求めなくてもいいと思います。
経験したことが無駄になることなんて一つもないですから。
ボランティアに参加したい・話を聞きたい:https://www.bigissue.jp/event/
有限会社ビッグイシュー日本:https://www.bigissue.jp
認定NPO法人ビッグイシュー基金:http://www.bigissue.or.jp