歴史 (上)(中)(下)ヘロドトス
先日読み終えた、塩野七生さんの「ギリシア人の物語」で書かれていたペルシア戦争。このペルシア戦争の経緯を詳細に扱っている歴史書、ということで今回、そのペルシア戦争の興味がなくならないうちに、と思いこのヘロドトスの「歴史」に挑戦しました。 本書の著者/ヘロドトスという人は、当時、小アジア(今のトルコあたり)のドーリス地方、ハリカルナッソス(現トルコのボルドム)という都市の名家に生まれました。生没年は不詳ですが、おおよそ、前490年から前480年に生まれ、死亡は前430から前420の間とするのが定説のようです。(つまり、おおよそ60歳で死んだことになります。)
ヘロドトスは、古代ギリシアの歴史家。歴史という概念の成立過程に大きな影響を残していることから、歴史学および史学史において非常に重要な人物の1人とされ、しばしば「歴史の父」とも呼ばれる。彼が記した『歴史』は、完本として現存している古典古代の歴史書の中では最古のものであり、ギリシアのみならずバビロニア、エジプト、アナトリア、クリミア、ペルシアなどの古代史研究における基本史料の1つである。(Wikipediaより) ヘロドトスは上記の Wikipedia に紹介されているように、しばしば「歴史の父」と呼ばれますが、当時はそもそも「歴史」という研究ジャンルはなく、従って、ヘロドトスは自分を歴史家という研究家としては見なしていなかったと思われます。そのせいもあって、「歴史」という題名であるにも関わらず、ある人物の話を語っていると急に、その人が住んでいた地方の人々の話や、その人が生まれた都市の話、その地方の言い伝えと言った感じで話題が移ったり、、また地誌学的要素も盛り込まれ、本書はどちらかというと、ペルシア戦争における正確な記録、と言うより、「ヘロドトスの世界観に沿った『ギリシア/アジアの歴史/地誌学』とでも呼ぶべきものになっているのが特徴です。
そのため、本書には次から次へとギリシア、アジア(中東よりの)のさまざまな人物、民族、地方都市、政治家などの名前が登場するので、当時のギリシア、アジアを勉強していない人がいきなり読むには、少々ハードルが高いかも知れません。(かくいう自分も、出てくる人物、地名をスマホで検索しながら読了しました。。)
とはいっても、この中に書かれてあるエピソードには印象深いものもたくさんあるのも事実です。個人的には、フェニキア人によるギリシアのアルゴス人女性誘拐事件、リュディア王国のクロイソス、アケメネス朝ペルシア帝国の初代王キュロスなどのエピソードが興味深かったです。例えば最初のフェニキア人によるアルゴスでの女性誘拐事件ですが、ヘロドトスによれば、現在のヨーロッパという名の起源である「王女ヨウロペ」の伝説(*)はこの事件の一種の趣意返し的意味がある、ということです。(この頃の言い伝えには神話の話も混ざっていてどこからどこまでが史実かはっきりしないところもありますが。) また、傲慢な政治を続けたリュディア国王クロイソスが神からの神託を受けるためにデルポイへ使いを送りますが、そこで以前巫女から受けた神託の真意を自分の都合で読み間違えていたことを理解し、自らの愚かさを悟る、という場面があります。これなども、自らの運命は変えられない、というギリシア人の哲学が反映されているようでとても興味深いものでした。
史実、伝承、神話、地誌学、世界観などいろいろな要素が混在しているところがこの「歴史」を興味深くしているところかもしれません。一方、 ヘロドトスの「歴史」と並び称されるトゥキディデスの著した『戦史』(歴史)は、前5世紀後半のペロポネソス戦争を題材にしており、「客観的な歴史記述」を特徴としている歴史書です。(ネット/世界史の窓より)
(*)王女ヨウロペ:言い伝えによるとフェニキア(現在のレバノン)地方の都市テュロスにいた王女ヨウロペが彼女を見初めた全能の神ゼウスによりクレタ島へ連れ去られた。そこからフェニキアから見て西側を彼女の名にちなみ「ヨーロッパ」と呼ばれるようになった。