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フェスのなかでの異空間。本と向き合うことで生まれるチルアウト。【PARADISE BOOKS / 気流舎(ジロケン)】

2022.08.23 01:00
野外パーティーに行くことで浮かび上がってきたチルアウトの欲求。そしてあの〈バーニングマン〉を体験したことで芽生えたシェアのメッセージ。フェスのなかでの図書館という位相。

文 = 菊地 崇 text = Takashi Kikuchi
写真 = 須古 恵 photo = Meg Suko


ー フェスで野外図書館を開く。このアイデアはどういう経緯で生まれたのですか。

ジロケン もともと実家が、江戸時代の終わり頃から続く本屋なんです。小さな頃から本には親しんでいました。大人になって、下北沢にある気流舎にも、しばらくの間共同運営として関わっていました。


ー 気流舎というのは、カウンター・カルチャー系の古本カフェの?

ジロケン そうです。友人のひとりが、1年くらいかけてセルフビルドで内装をして。その友人が東日本大震災の後に西に移住することになって、気流舎を続けるために仲間うちで共同経営することになったんですね。


ー そこからPARADISE BOOKSの活動につながっていった?

ジロケン 20歳くらいの頃に、先輩に連れられてレイヴに行ったんですね。革命的というか、野外でこんな遊びがあるってことがとにかく強烈で。ハコの遊びとは違う開放感。その後レイヴにはカメラマンとしても関わるようになっていったんです。かつては、メインではガシガシ音が鳴っていても、セカンドではアンビエントでチルアウトするような、バランスの取れたパーティーが多かったのですけど、いつしか両方とも大音量のダンスミュージックが鳴るパーティーが増えてきて。チルできる場所が自分でも欲しいなって思って、ちょっと休めて自由に本が読めるような場所があるといいなって思ったのがはじまりです。

ー 基本は図書館?

ジロケン 売ってはいないから図書館ですね。フリーでやっているので、みなさん楽しんでもらっている気はしていますけど。


ー フェスの雰囲気をイメージして、本をセレクトして持って行くわけですよね。

ジロケン そうです。セレクトするっていうことが、自分にとっての醍醐味だったりするんですね。気流舎では本がすでに準備されていて、誰かが来るのを待っている。PARADISE BOOKSでは会場のシチュエーション、アーティストのラインナップ、イベントやフェスが掲げているメッセージ性などを加味して、何を持って行こうかってセレクトする。10代の頃にDJもしていたんですけど、その感覚に近くて。会場に到着してからは、お客さんの反応を見て、並びを変えたりもします。


ー フェスに出店する際は何冊くらい持って行くのですか。

ジロケン 400冊くらいですかね。絵本から濃い本まで。出演するアーティストの関係する本もセレクトしますね。


ー 場所や気持ちしだいで、いろいろな出会い方がある。本も同じだと思う。

ジロケン 読むタイミングってありますよね。普段と違うシチュエーションだからこそ、言葉がすっと入ってくることもあるんじゃないかなって。


ー 自分自身のなかでは、どんなメッセージをPARADISE BOOKSに込めているのですか。

ジロケン カウンターカルチャーからめちゃくちゃ影響を受けているんですね。今ではフェスだけではなく、いろんなスタイルのイベントに出店していますが、最初はレイヴでした。レイヴでやりたいって思ったのは、レイヴカルチャーとヒッピーカルチャーってリンクする部分が多いはずなのに、日本では隔たりがある感覚があったんですね。そこを本でつなげられないかなって思ったんです。気流舎の延長線上でのスタートでした。

ー 今まで参加したパーティー、フェスで印象に残っているのは?

ジロケン 〈バーニングマン〉ですね。2005年に行ってるんです。10人ぐらいでキャンピングカーを借りて。その体験が自分のなかでは大きくて、イベントで図書館をするって決めたのも、どこかに〈バーニングマン〉の影響があるからなんだと思っています。〈バーニングマン〉の会場内では、お金を媒介にしたやりとりはしてはいけない。〈バーニングマン〉に内包しているシェアするというスピリットを日本のイベントでやるとしたら、自分なら図書館というスタイルで伝えられるんじゃないか。自分にとっても居心地のいい場所を作って、居心地のいい時間を提供する。ギフトしているっていう感覚がどこかにあるのかもしれないですね。


ー 本に対するこだわりは?

ジロケン 本にしかできない表現ってあるじゃないですか。写真集で言えば、色味であったり、サイズであったり、紙質であったり、構成であったり、デザインであったり。それらをひとつひとつにこだわって、写真家の作品としてアウトプットしている。細密さとかデジタルの方が優れている部分もあるんですけど、それはあくまでも見る側のモニターにも依存しなければならないですから。写真集は、写真家の世界観が一冊のなかに詰め込まれているし、そこに物語があるっていうことが魅力なんだと感じています。


ー 今後の展開は考えていますか?

ジロケン いろんな人にチルアウトな時間を届けられればいいなっていうことがひとつ。もうひとつが、今の時代は考えが極端に行きがちなんで、相互理解みたいな感じのことを本でやれたらいいなと思っています。


ー 確かに白か黒か、勝ちか負けかということをはっきりさせようとする社会になってきている感が強い。

ジロケン グレーって濃度があるからこそ、わかり合える部分も見い出せるわけじゃないですか。本によって、もうちょっと気をほぐしてあげられたらなって思います。


PARADISE BOOKS / 気流舎ジロケン
楽園のような場所に立ち現れては消えていく不思議な図書館。野外フェスなどで開店し、本と出会えるチルアウトスペースを提供している。絵本など子どもが楽しめる本から、少しディープな本まで幅広くセレクション。ジロケン氏は、東京・下北沢にある対抗文化専門カフェバー&古本屋「気流舎」の初期メンバーでもある。https://paradisebooks.jp/