データ入稿で看板やのぼり旗を作るDTPの話
最近、オリジナルデザインの看板とかのぼり旗などのデザインをDIYし、データ入稿して作成しましたのでその話を書こうかなと思います。
お店をやっている人には必須とも言えるスキルがあります。
それはポップ作りです。飲食店以外でも価格表示とかお客さんへ何かを伝えるためにはポップ(手書きまたは印刷物)は避けて通れません。
チェーン店では、本部で専門のデザイナーがポップを作成し、いろんなキャンペーンに合わせて店舗に配布していると思います。
一方、個人経営のカフェって手書きのメニューがあるのが定番です。(偏見かな?)
でも、私にはその手書きのスキルがありません・・・。
私のお店自体は手作り感のあるお店ながら、手作り感のある洒落たメニューとかポップが作れないんですよ。
字が汚い。センスが悪い。そのくせして変にこだわるから、いつまで経っても完成しない。
これは大変問題です。お客様に伝える必要があることが意外と多く、いろんなところにポップを置きたいのに満足するものが作れない。
そういう私は迷わずITの力に頼ります。
私はプログラミングができる飲食店オーナーですが、学生の頃(20年以上前!)はDTPの勉強をしていた時期もありました。
印刷業界で働いたことは無いので、セオリーとかも良くわからないし、デザインセンスもあまり自信は無いけど、技術としてIllustratorとか扱うことは出来ます。とりあえずペジェ曲線を扱えるくらいには使えます。
身近な例で言うと、多くの人は、ご自分で年賀状を作ったり、Wordで文書を作ったりしてプリンタで印刷することはありますよね。多くの人が当たり前のようにやっていることで、なにも珍しくはありません。
パソコンに印刷物をデザインするソフトが入っていて、プリンタがあれば特に難しいこともありません。
今回はこれをすこし深堀りしたデザインと印刷のお話になります。
年賀状やビジネス文書のデザインはパソコンとプリンタがあればできるけど、特殊な印刷とか一般の家や事務所じゃどうしたってできません。
特殊な印刷とは、例えばチラシフライヤーなどのコート紙(ツルツルしたチラシに使われるような紙)とか、A2サイズを超えるような大きなポスターとか、看板等の紙でないものに印刷したいとか、のぼり旗とかの生地に印刷するなども含みます。
こういったものを印刷したい場合は専門業者さんに印刷をお願いします。
どんなものを作りたいか相談をして業者さんにデザインをお願いする場合と、自分でデザインを作ってデータで入稿する場合があります。
ちょっと変わったところで手書きの紙で入稿というのも可能だったりします。
ラクスルとか有名なオンライン印刷業者さんがいますね。他にもいろんな業者さんが印刷物を作成してくれますが、データ入稿を受けてくれる業者さんが多数です。
私もこれまでにもデータ入稿で何度か利用しています。
いきなりですが、以下の画像を見てください。店の門の下に店の紹介のような説明書きのようなものを掲示していました。
掲示から5か月くらい経っているでしょうか。無残な退色。なんともみすぼらしい・・・。
書いてある内容以前に、こんな掲示物を見たら入店する気もなくなるかもしれない。
これは一般的なインクジェットプリンタで印刷して、UVカットのラミネートをして、さらにアクリル板を上にかぶせて、なんとか出来るだけ退色を防ごうと足掻いたものです。
しかし、結果としては2週間ほどでかなりの色が薄れ、1か月ほどでほぼ現在の姿に。
インクにも色々あって、屋外で日光に当たるようなものは、耐候インクというものを使った特殊な印刷が必要らしいのです。さすがに家庭用インクジェットプリンタでは耐候インクなど使えません。専門の業者さんに依頼をするしかない・・。
ゴールデンウイーク前にはなんとか綺麗なものに変えたいなと考えていました。
ということで、今回ここに張り付ける説明書きの看板をデザインし、データ入稿してアルミ複合版という屋外掲示用の板に印刷をしてもらいました。
次の画像がデザイン中の様子です。
ハイ。完成品。
とても綺麗な掲示物になりました。直射日光が当たっても耐用年数は5年くらいあるらしい。
1か月でダメになる印刷と、5年持つ印刷・・・なんという差でしょう。
しかもデータの入稿から実物が手元に届くまで3日間。
さすが業者さん。やはりDIYで出来ることとできないことがあるなぁ・・・
ちなみに、よく見ると価格が空の状態で仕上がってます。
最近は仕入れ価格がかなり上がってきていて、今後価格変更の可能性があるための策。
後でどうやって値段を書くか、張り付けるか、現在検討中。
ここからは、データ入稿について少し説明したいと思います。
データ入稿とは印刷物等、業者さんに何かを作成依頼するときにデータを自分で用意して
「このデータ通りに作ってください。」と依頼することです。
多くの場合DTPソフトで作成したデータを渡すとそれを元に印刷してくれます。
データ作成をお客さん側がやることで業者さんは手間がかからなくなるために安く済ませる方法であり、間違っても「データ入稿したいんだけどデータの作り方教えて。」
なんて印刷屋さんに相談してはいけません。
データ作成が自分でできない場合は素直にデザインのプロにお願いすることになります。
次に、DTPとは何ぞやと思った方もいらっしゃるかもしれません。
DTPとはDesk Top Publishingの略。簡単に説明すると、
1.写真、文字や図形等をレイアウトして印刷物のデザインを作ること
2.作り上げたデザインを印刷物にするためのデータとして保存すること
大きく二つの役割があると考えてよいかと思います。
さてここから、いつものちょっとうざいウンチクというか解説が始まります。
レイアウトをする用途では、ビジネス系の人だとOfficeソフトに親しんでいますよね。
WordはもちろんPowerPointあたりで印刷物を作る人もいるでしょう。Wordは文書作成に特化、PowerPointはプレゼンテーション作成に特化しているのですが、使いようによってはかなり自由度が高く、オリジナリティの高い印刷に耐えうるレベルのデザインを作ることも可能です。最近ではOfficeソフトのデータ入稿を受けてくれる業者もあります。
しかし、どうしてもOfficeソフトで作ったものって、あぁOfficeっぽい。って感じてしまうんですよね。具体的な違いを上げるのはちょっと難しいのだけど、あえて挙げると…
フォントのチョイスとか、ワードアート使ってたりとか、センタリングとか左右寄せとか、文字間隔、行間隔がOfficeルールに縛られている感とか。図形はOfficeのオブジェクトの組み合わせで出来ているとか。
表現方法に特別なコダワリが無くて、伝えるべき情報が過不足なく入っていれば良い。
というのであれば、Officeソフトでデザインも全く問題ないと思います。
一方、レイアウトでDTPソフトを使うと、はっきり言うと何でも思うがままできます。
1文字1文字の角度、色、大きさや文字間隔を自由にできたり、文字を図形として扱い、文字の一部形状を改造してみたり、文字を複数のカラーに色付けしてロゴにしてみたり、文字をわざと重ねてみたり、写真と文字との融合みたいなことを実現できたり…まあ、とにかく思いつく2次元の静的な表現はだいたい実現できると思います。
作るデザインが写真メインでいろんなフィルタをかけたい、などの場合はPhotoShop等の画像編集ソフトも併用しますが、文字や図形、イラスト、ライン等の要素は基本的にDTPソフトで編集します。
表現方法にコダワリがあったり、個性を発揮したいのであれば間違いなくDTPソフトを使うべきです。
続いて印刷用のデータ保存という点をざっくり説明します。
デザインしたものを保存するにあたり、JPEGとかBMPのような画像ファイルならどんなデザインでも自由に表現できて問題ないのでは?と思われるかもしれませんが、解像度や文字の扱い、データ上で色を示す方法で大きな問題があります。
まず、解像度。
印刷というのは画面表示と比べると大変細かい精度で出来ており、デザインする際に画面で綺麗に見えても印刷してみると粗さが目立つ場合があります。
これが解像度の問題。印刷物では1インチの範囲に300とか400ドット程度の解像度が一般的であり、画面表示においては非常に詳細なディスプレイ(例えば画面サイズ20インチの4kディスプレイ)であっても、200dpi程度となります。解像度が倍違うわけです。
画像や図形がドットで表されている場合、安易に縦横2倍に拡大すると、1ドットで表されていたものが4ドットで表されるようになります。つまり画質がその分荒くなる。
その点、DTPソフトは何かを描くときにドット単位ではなく、ベクター(始点と終点を任意の直線や放物線でつないだデータ)として表現することを優先します。これにより拡大縮小による劣化を防ぐことができます。
続いて、文字の扱い。
文字について細かく書くと本が1冊になるので、簡単に説明すると、
デジタルの世界での文字というのはコンピュータ上ではUnicode等の数バイトの文字番号を示すデータで出来ており、文字を表示させる際には、その文字をどんな形状で表示するか、というフォント情報を与えることで表現します。
「あ」という文字を「明朝体」「ゴシック体」「筆文字」みたいな文字形状で表示するという示し方です。文字の大きさとか、色とか、どの位置に、という情報も当然含みます。
この仕組みにより、文字をデジタルの世界で扱うのはとても軽快で便利なわけです。
しかし印刷の世界になると事情が変わります。デザインしたものを正確に表現しなくてはいけない。最近聞かない懐かしい言葉ですが、WYSIWYGでなくてはならない。
それなのに、文字の形状(フォント)は環境により表現できない場合があります。これはフォント自体が基本的に著作物で、それを正式に入手した人でないと扱うことを許されないからです。
フォントは大変高価なものもあるし、大変沢山の種類がありますので、印刷屋さんがなんでもフォントを持っているわけではありません。そうなると、WindowsやMacに最初から入っているフォント等、誰もが使えるフォント以外で文字を表現した場合、そのフォントを持っていない環境で見ようと思ってもそれを再現することができないわけです。
これはデータ入稿のように、データづくりと印刷場所が異なる場合には大変困ります。
この対策として、フォントをベクターで表した図形として変換するのがセオリーとなっています。
文字自体を画像にしてしまう手もありますが、先に書いた解像度の問題もあるので画像にしてしまうのは望ましくない。ベクター図形として扱うのがベストなわけです。
イマイチ、ベクターの良さが少しわかりづらいかもしれませんが、最終的に印刷機が印刷をするときには線で描くわけではありません。でも最終的にデータを出力する印刷機械によって対応しているdpiがそれぞれ異なるので、最後の最後に機器に適したドットに変換ができるということが重要であるのと、例えばA2ポスターとして作っていたが、後でやっぱりA1に拡大して印刷する場合もベクターであれば品質を保ったまま拡大が出来るという利点もあります。
そして色。
画像データというのは多くの場合、画面表示に適した情報(RGB)で出来ています。DTPで保存するデータは、これを印刷に適した情報(CMYK)に変換して保存することになります。
表示と実物の色合いの違いの問題は通販とかオンラインショッピング等でも遭遇する問題ですが、印刷においては重要な問題です。
画面は見る環境や使っているディスプレイによって色が変わりますから、画面上で色合いにこだわっても印刷物が目的の色になるかはわかりません。
画面上で真っ赤に表示されていても、家庭用インクジェットプリンタで印刷したらくすんだ色になったこととかありませんか?
このためデザインの仕事をする人はディスプレイの表示にこだわったり、色についての造詣が深いのです。
デザイン業界の人は画面で見る色で「もっと濃く、明るく」みたいな事を語らず、CMYKの数で語るという話を聞いたことがあります。
商品の実物の色を見てインクの適した色をズバリ言うのだそうです。
絶対音感みたいに「この色はシアン○○、マゼンダ△△、イエロー□□だね。」が分かる。
画面上でどんなに色合いを調整したところで、印刷に際しては全く当てにならない。
画面の表示色よりインクの量を数値で指定した方が色合いを正確に示せるわけです。
長々と書き綴ってしまいましたが、DTPという世界ではデザイン、レイアウトをして、印刷用にデータを持つということに特化した技術が必要なんだよ、ということです。
さあ、話を戻しましょう。
自分でデザインをしてデータ入稿して業者さんに印刷物を作ってもらいたいと考えた方に、じゃあ何から始めれば良いか。私の環境を含めてお伝えします。
一般的にチラシとかフライヤーとかを作るなら基本的にはAdobeのIllustratorが使われます。
AdobeのIllustratorはプロ用のソフトですから結構いいお値段。私が勉強してた頃はIllustrator6とかのバージョンで当時価格は6万円くらいしてたかな…?
今はサブスクリプションで月額3000円未満で使用できますが、残念ながらこの料金を支払いするほど活用してませんし、予算の余裕も無いし使えません。
代わりにオープンソースのInkscapeというソフトウエアを使用しています。
このソフトは突然エラー終了する等の致命的な問題(笑)もあるけど、使い慣れると結構できる事が多くておススメです。
本格的なDTPソフトで、非常に細かく思い通りにレイアウトを組めますし、ちょっとしたイラスト等をオリジナルで描きたい場合などペジェ曲線でイラストを作ることも出来ます。
文字のアウトライン化も問題なくできます。
InkscapeではAIファイルを作ることは出来ませんが、EPSなど印刷データとして十分な機能を持ったファイル形式で保存ができます。
・・・と、AIとかEPSとかファイルの形式についてもほんの少し触れましょう。
データ入稿においては、Illustratorの保存形式であるAIファイル(拡張子*.ai)で入稿を求める業者さんが主流ですが、EPSとかPDFファイル形式でも受けてくれる業者さんも少なくありません。
PDFで受け付けてくれる場合、最近ではOfficeソフトでPDF保存することも可能ですから、Wordで作った文書を業者さんに大量印刷してもらえたりもできるわけです。
まあ、Officeソフトは先に語った通りレイアウト機能が貧弱なのでそれなりですけどね。
なお、業者さん側がAI入稿と謳っていても、つまりは業者さんがIllustratorを使うのだということですから、Illustratorで読み込み可能な形式であれば相談は可能なはずです。
私の場合、AIファイルで入稿受付している業者さんにEPSファイルで入稿して印刷をしてもらいました。
EPSファイルは基本的には本格的なDTPソフトでしか作成できないと思いますが、Inkscapeでは作成できますので、Inkscapeでデータ入稿はOKなわけです。
一応ですが、印刷業者さん側で何か予期せぬことが起こる可能性がありますので、Illustratorではなく、Inkscapeを使ったEPSで入稿する、と伝えるのはマナーとしてあったほうが良いかもしれませんね。
データ入稿自体は、たいして難しい事ではありません。
ラクスルとかだとクレジットカード決済をしたあと、ラクスルの入稿システムで作成済みのPDF等のデータをアップロード入稿するだけ。最終確認のやり取りをすればあとは納期を待つだけ。
楽天とかでも印刷業者さんは沢山いて、こちらも決済したあと作成したデータを業者さんに送るだけです。DTPのデータ容量はだいたい50MBを超えるようなのが当たり前ですから、メール添付は厳しいので、データ送信サービスなどを使って入稿します。宅ふぁいる便とか、ギガ楽とか。コチラも業者さんとデータ確認のやり取りをして作成に入ってもらいます。
さて、改めて見るとずいぶん長いブログになってしまいました。意外とDTPについて語れることが多い事に改めて自分でも驚いている。
そろそろ締めに入りたいのだけど、あまり画像が少なく寂しいので、他にも作ったものの画像を少し上げたいと思います。
以下は、最近作ったデータ入稿ののぼり旗のデザインの様子です。
コーヒー、ランチプレート、指や虫メガネのアイコンのイラストはモノトーンのシンプルなものですが自作でペジェ曲線で描いています。
そこら中に似たようなアイコンとかイラストは落ちているけど、こんなサイズで印刷しようとするとPNG画像とかでは拡大に耐えられませんし、著作権侵害とか気にしてしまうタイプなのですよ。
IT屋さんはソフトウエアのライセンスとかに厳しいので、体に染みついています。
で、こんな感じで出来上がったのぼりがこちら。
写真を見ると。色合いはカーキ色って感じしますよね。
それに対して上のデザイン中の画面では赤み強めの茶色!って感じの色合に見えます。
のぼりは光を通すというのもありますが、正直ここまで違うと、人によっては苦情になるレベルかもしれません。
でもこの色合いの違いが上の方で語っていた画面で見る色と印刷の色の違いなんです。
この辺、意識して画面の色と印刷後の色合いとの違いを把握できていないとデータ入稿は難しい。
長々と書きましたが、今度こそ締めです。
最初に書いた通り、本当は味のある手書きとかでやりたいんですよ。
でも、全然思い通りに作れないから、仕方なくITと専門業者さんに頼るしかない。
それでもデザインごと人に任せるのではなくて、自分の思い通りにデザインできているからDIY志向の私にはまあまあ満足です。
今後もデータ入稿にはこれからもいろんなシーンでお世話になりそうです。
今回はここまで。