#149.新しい楽譜を手にした時、最初に何をしますか?
今回から数回続きますお話しは、経験値が少々高い人への目線で書かせていただきます。ですので、お読みいただく中で「おいおい、そんなこと言われても!」と思われることがあるかもしれませんが、あくまでも理想の形としてお読みいただき、「近い将来チャレンジしてみよう!」と思っていただければ幸いです。
ということで、スターート。
譜読みの流れ
みなさんは新しい楽譜を渡されて、それがまったく知らない曲だった場合、最初に何をしますか?いきなり楽器で吹き始めてしまう方、多いのではありませんか?もしくは、いきなりyoutubeで検索する人も多いと思いますが、ちょっと待ってください!そういうのは後回しです!
目の前に楽譜があれば音を出したくなるのが当然ですが、これは例えるならレシビを渡されて、いきなり料理を始めてしまうのと同じです。ろくに必要な食材や道具を確認せずに始めてしまうのは無謀すぎますよね。そうならないために、まずはレシビに何が書かれているか、細部までしっかり読むこと、それぞれの工程、完成形をイメージすることが大切です。
ではこれを音楽に置き換えるとどうなるでしょうか。
まずはレシピである楽譜をしっかり読むところからスタートです。「しっかり読む」というのは音符以外のも当然含みます。
・タイトル
・作曲者について
・音部記号(トランペットは100%ト音記号)
・拍子
・調号
・速度、速度記号
・楽譜の読み進めの流れ(D.S.とかCodaとかリピートとかの確認)
・楽語
・全体像、特徴
・音符、休符、スラーの付け方などのアーティキュレーション
・フレーズ、フレーズからフレーズへのつなげ方(ブロックの表現)
こんなにあります。しかも吹奏楽やオーケストラの場合パート譜で演奏しますから、他の楽器の情報が手に入りにくいので、すべての情報を手に入れるためにスコアも必要です。
スコアを見ると自分がどんな立場にいるのか(先頭に立って音楽を作り上げているのか、他のパートと同じ動きをしているのか、など)、他の楽器から受け継がれてメロディを演奏しているなども理解できます。
では、ひとつずつ確認していきましょう。
[タイトル、作曲者]
タイトルから何かイメージができるかもしれません。「交響曲第3番」だったら多分第1番、2番もありそうですね。それはどんな曲か調べておいたほうがよさそうですね。他にも有名な作品があるかもしれません。タイトルに「スペイン」というワードが含まれていたら、きっとスペインの何かと関係があると思われます。ではそれは何か、調べないといけませんね。
作曲者はどこの国の人でしょうか。いつの時代の人でしょうか。その時、その国や文化はどんな感じだったのでしょう。その作曲者はどんな人と関わりがあり、師事した先生や影響を受けた作曲家はいるのでしょうか。作風は?
[音部記号、拍子、調号、速度]
その作品の根幹の部分です。これらを確認しないで演奏はできません。特に、私が最も危惧しているのは、何かの音源を聴いて、大体のテンポを感覚的に、そして受動的に把握することは絶対に避けてほしいです。音源がもたらす弊害については次回詳しく書きますが、テンポというのは自分の中から生み出すものです。誰かに与えられて、それに合わせるものではありません。
そして、冒頭部分だけでなく、その作品の途中で調や拍子、テンポが変わる可能性も高いですから、最後まで目を通してすべて把握しておく必要があります。
ちなみに、オーケストラのトランペットパートはin A、in Fなど様々に移調されて書いてありますから、その点も確認が必要です。また、トランペットは100%「ト音記号」で書かれていますが、ピッコロトランペットの楽譜は実音で書いてある場合と1オクターブ下げて書いてある場合がありますので、そうした確認も必要です。
[楽譜の読み進めの流れ]
ポップスやジャズ、または古典的な形式で書かれた作品に多いのが、D.C.(ダ・カーポ)やD.S.(ダル・セーニョ)、そしてCoda(コーダ)、リピート記号です。どこからどこへ飛ぶのか事前に把握していないと迷子になってしまいます。
オーケストラでは、ヨハン・シュトラウスの(主に2世の曲だと思いますが)ワルツやポルカでは、様々なサイズで演奏できるように至る所にfine(フィーネ)やコーダが書いてありますので、事前に指定された流れを間違えないようにすることも大切です。
[楽語]
Allegroなど速度を指示する楽語以外にも、楽譜にはたくさんの文字が書かれています。器楽の場合は五線の下には演奏表現の楽語がイタリック(斜体)で書かれているまずです。例えばmarc.(マルカート)とか、cantabile(カンタービレ)とか、cresc.(クレッシェンド)なども記号だけでなく文字で書かれてることがあります。作曲者が音符だけでは伝えきれないものを文字として書き記したわけですから、これらを無視しては演奏は成立しません。
ちなみに五線の上に書かれている文字(meno mossoやrit.など)は速度と関係することが一般的です。
[全体像、特徴]
とてもザックリした言い方ですが、楽譜をパッと見て気づくことが何かありますか?例えば前半は長い音符が多いけど、後半は細かい音価で真っ黒だな、とか、トランペットとしては結構重要な「休みがどこにどれくらいあるか」「音域はどうか」などに気づくかもしれません。作品がどのような構成になっているのかを音符、リズム、文字などから察知できたり、特徴的なリズムや、全曲を通して同じひとつのリズムパターンがよく出てくるな、とか、そうしたものにも気付けたら素晴らしいです。
また、ページをすぐにめくらないといけない箇所があるとか、さまざまな理由で楽譜が読みにくい箇所がないかも確認したいところです。
[フレーズ、ブロック]
演奏する前に「ここからここまでがひとつのかたまり(フレーズ)」だな、と把握できたら良いですね。さらに言えば、フレーズからフレーズに受け渡す際、つなげていくのか、一旦区切りを入れるのか、どんな流れにすると良いかなども楽譜の中からイメージできることも理想です。こうしたものは、実際に演奏してみたら違った、とか「やっぱりこのほうが良いな」と変化していっても構いません。大切なのは、楽譜からの情報だけでできるだけ音楽を頭の中で作り上げていくことなのです。
ということで、今回は楽譜を最初に受け取って楽器で演奏する前にやっておきたいことを挙げてみました。
部活動も短縮されるようになりました。大人の方はそれでなくても仕事などで忙しい中、時間を削って楽器を演奏しているわけですから、できるだけ効率的で上質に演奏できるところまで到達したいものです。また、今回のように事前にきちんと頭の中で作品を構築していると、変なクセが付きにくく、修正や訂正する手間が省けます。
楽器をすぐに吹きたい気持ちを抑えて、一旦冷静に楽譜と向き合ってみましょう。
それではまた次回です!
荻原明(おぎわらあきら)
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