Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

WUNDERKAMMER

ヨウコウ

2017.12.19 08:50

オレのじいちゃんは猟師なんだけど、昔そのじいちゃんについてって体験した実話。

田舎のじいちゃんの所に遊びに行くと、じいちゃんは必ずオレを猟につれてってくれた。

本命は猪なんだけど、タヌキや鳥(名前覚えてない)も撃ってた。


その日もじいちゃんは鉄砲を肩に背負って、オレと山道を歩きながら、

「今日はうんまいボタン鍋くわしちゃるからの!」と言っていた。(実際、撃ったばかりの猪は食わないが)

そのうち、何か動物がいるような物音がした。ガサガサって感じで。

オレは、危ないからすぐじいちゃんの後ろに隠れるように言われてて、

すぐじいちゃんの後ろに回って見てたんだけど、じいちゃんは一向に撃つ気配がない。

いつもならオレを放っておくくらいの勢いで、「待てー!」と行ってしまうのだが、

鉄砲を中途半端に構えて固まってしまっている。


オレはそのころは背が低くて、茂みの向こうにいる動物であろうものはよく見えなかった。

オレは気になって、じいちゃんに「何?猪?タヌキ?」と聞いた。

しかし、じいちゃんはしばらく黙っていて、茂みの向こうをじっ・・・と見ている。

「あれは・・・」とじいちゃんが口を開いた瞬間、急に茂みがガサガサと音を立てた。

「やめれ!」と言い放ち、じいちゃんはその茂みに一発発砲した。

そしてオレを抱えて猛ダッシュで逃げ出した。


オレは何がなんだかわからずひたすら怖くて、今にも泣きそうになっていたが、

じいちゃんが撃ったのはなんなのか気になり、後ろを振り返った。

すると遠めに、毛のない赤い猿のような動物が、こちらに向かって走っている。


じいちゃんはオレをかかえて走りながらも、鉄砲に弾を込め、振り向きざまにもう一度発砲した。

すぐとなりで発砲されたので、オレは耳が「キーン」ってなって、いろんな音が遠く聞こえた。

じいちゃんは走りながらまた新しい弾を込めている。オレは怖くてもう振り返ることはできなかった。

後ろで「ケタタタタタタ!ケタタタタタタタ!」という、その動物の鳴き声らしい声が聞こえ、

「助けてくれ・・・助けてくれ・・・この子だけでも・・・」とじいちゃんがつぶやいていた。


山をおりきってもじいちゃんはとまらなかった。オレを抱えてひたすら家まで走った。

家につくなり、じいちゃんはばあちゃんに「ヨウコウじゃ!!」と叫んだ。


ばあちゃんは真っ青な顔で台所にとんでいき、塩と酒をもってきて、

オレとじいちゃんに、まるで力士が塩をまくように塩をかけ、

優勝した球団がビールかけやってるみたいに酒をあたまからあびせた。

その後、それについてじいちゃんもばあちゃんも何も話してくれなかった。


間もなくしてじいちゃんは亡くなってしまい、その時ばあちゃんがオレに『ヨウコウ』について話してくれた。

「●●ちゃん(オレ)が見たのはのー、あれはいわば山の神さんなんよ。

 わしらにとってええ神さんじゃないがの。

 じいちゃんはあんたのかわりに死んだんじゃ。お前は頼むから幸せに生きておくれよ」

じいちゃんが死んでから、ばあちゃんも後をおうように亡くなってしまい、オレは20代後半でピンピンしている。

オレが見たのは、村で言い伝えられる妖怪の類いだったのかもしれないけど、

今でも親戚の人にこの話をするとしかめっつらをされる。

福井県の某村の話。