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KANGE's log

映画「とんび」

2022.05.02 23:11

原作未読、ドラマシリーズも観ていないので、事前知識ゼロで鑑賞。

広島の架空の街・備後市で、運送会社に勤める安男は、気性が荒く、すぐに手が出るが、みんなを引っ張る、いわゆるガキ大将タイプ。息子の旭が幼い頃に妻・美佐子を職場の事故で亡くし、街のみんなにも助けられながら、一人息子を育ててきた。しかし、母親が亡くなった原因について、旭には本当のことを伝えていなくて…という物語。

冒頭の、安男の言動を見ながら、「これは、阿部寛というよりは安田顕が演じる役だなぁ」と思いながら観ていたら、いきなり安田顕本人が住職の息子・照庵役で出てきて、驚きました。よく考えたら、予告でもガッツリ出てましたね。正直、阿部寛では、同じ男前でも、甘さが濃すぎる気がしました。もっと、粗さ、荒さがほしいところですね。

本作は、安男と旭の、父と息子の物語なのですが、ほかにも、いろいろな親子関係が出てきます。

まずは、安男自身も、幼い頃に母を亡くし、叔父に預けられたまま、その家の養子になっています。具体的には語られませんが、安男には「旭には、自分のような思いをさせたくない」という意地があったのかもしれません。そして、街の人たちも、そんな安男の境遇を知っているからこそ、彼の子育てを応援してきたのではないでしょうか。

そして、夕なぎのたえ子と、かつての嫁ぎ先に置いてきた泰子という母娘。母親らしいことをしてこなかったのだから娘に見せる顔はないという負い目を感じるという点は、共感します。ハマグリのシーンは、号泣必至。

自分たちに子どもがいないこともあって、旭を息子のように世話を焼く照庵の夫婦。ここにも、語られないドラマはありそうです。大島優子はこういう役がぴったりになってきましたね。旭に、あることを仕掛ける照庵を横で見ているシーンとか、よかったです。

さらに、旭と新しい家族の物語。旭自身は、母親が亡くなった後も、街の人たちに支えられて育ってきましたが、現代の東京では、それはなかなか難しいこと。ならば、少なくとも自分が背中を温める役割を果たそうと出した結論なのではないでしょうか。旭を抱く美佐子と、健介を抱く由美、同じ構図の写真があるので、重ねて見ていたのでしょうね。

そして、旭が、ちょこっと言ったひと言「2人目の孫」が、とても印象的でした。これは、夕なぎで、照庵の仕掛けにハマった安男が放ったひと言を受けての言葉。そして、連れ子も自分の血を受け継ぐ子どもも、同じように愛して、同じように育てていくという旭の決意の言葉、そして、安男に対しても同じように扱ってほしいという懇願の言葉。そのように私は受け取りました。

10分に1回ぐらい、ベタに泣かせに来る中で、こういうセリフがさらっと織り込まれているので、なかなか油断なりません。