―想像以上のものが出てくる瞬間が楽しい―演出家・生田みゆきインタビュー
いつも研修科を応援いただきありがとうございます。
今回は、2022年度第1回研修科発表会『カスケード~やがて時がくれば~』の演出を務める生田みゆきさんのインタビューをお届けします。
演劇と出会った学生時代の思い出や演出家としての目標など貴重なお話が盛りだくさんです!
是非最後までお楽しみください!
―――今回『カスケード~やがて時がくれば~』(以下、『カスケード』)を選んだ理由をお聞かせください。
この戯曲、「ミナミ」と「滝沢」以外は本名でやるじゃないですか、それが単純にみんなの名前が覚えられていいな!って思ってたのと(笑)、どの役もすごい楽しいから。私も研修科2年の4月の発表会が『カスケード』だったんだけど、同期の演技部がめっちゃ楽しそうにやってたって印象がすごいあって。いくつかこの作品以外にも候補出したんですけど、最終的にこの台本がいいなってなった決め手はそこでした。コロナ禍でちょっとせせこましくなりがちな中で、なるべく楽しくできるといいなと思います。
あと、戯曲って色んな人が書いているけど、女性が面白い役をできる戯曲って未だに少ないというか。やっぱりヒロインチックなところに持ってこられて、あとを男性で固めてみたいなことってよくあるんだけど、岩松了さんの本の中でも『カスケード』は活躍できる女性の役がいっぱい出てくるっていう印象だったから。
それから、私が研修科2年生の当時よくわからなかったところを私自身解消したい気持ちがあって。どこの人間関係がどういう風にはっきりすれば、あるいはどのテーマがどう明確に出てくればこの話ってわかるのかなみたいなことを、今回は私なりの課題にしていきます。
―――60、61期生は生田さんとお会いするのは今回が初めてですが、配役はどのようにされましたか?
私自身、残念ながらみんなのこれまでの芝居を全部見てるわけじゃないから、誰がどういう人かあんまりわかってなくて。だから一番最初の読み合わせの時は何の意図もなくランダムに役を振ったんですけど、けっこうキャラが立ってる本だから、誰をどこに入れればいいかは、読み合わせの様子を見てるとだいたい……まあ迷ったけど(笑)
とはいえ役って、どうジャンプするかっていうだけの話だから。ジャンプが大きい人もいれば、ちっちゃい人もいるしっていう。研究所公演だからね、植田真介さん(文学座附属演劇研究所主事)とも相談しながら、研修科生がそれぞれの課題をどう越えていくかみたいなことだったり、単純に役にどの程度フィットしているかっていうようなことを考えてキャスティングしました。
でも全部いい役だと思うな〜、ホントにこれは。
―――登場シーン少なくてもインパクトあって……
そうそうそう。
『カスケード』はチェーホフ作『かもめ』を下敷きにしていることもあって、どうキャラクターを読み解くかってことが岩松さんの他の作品に比べても、割とヒントが多い感じはするし、「若いっていいよね!」みたいな岩松さんの気持ちを感じる本でもある。
この間私の同期のLINEでも、「『カスケード』やるんだ!いいな〜」「楽しかったよね〜」みたいなことでちょっとワイワイしたよ(笑)
―――演劇を始められたきっかけから大学時代の活動、そして文学座を志した理由をお伺いしたいです。
演劇は、中学演劇部がスタートです。その前も読書とか朗読とか好きだったけど、中学で演劇部に入って、フィクションに逃避する中高生活を送りました(笑)。高校生の時は記者とかジャーナリストとかにもなりたかったんだけど、でも演劇もうちょいやりたいから大学でも演劇サークルに入ろうと思って。私の時期で関西だと、わかるかな?「惑星ピスタチオ」っていう腹筋善之介さんたちの劇団があって、その劇団のスタートが神戸大学の「はちの巣座」だっていう話を聞いて神戸大学に入ったんですよ。でも大学の演劇サークルって期によってカラーが全然違うから、私が入った頃にはもう全然違う感じになってて……それで結局ダンス部に入って、演劇は外部のオーディションとか受けてちょっと出演したりとか。
その後、東京藝術大学大学院に進学しました。そのときはオペラの研究をしていたんですけど、そこでペーター・コンヴィチュニーっていうドイツの演出家がワークショップをしてくれたんですよね。当時ドイツのオペラって、演出家がどういう風に作品を解釈して新しい視点で打ち出すかがメインになっていた時代で、ペーター・コンヴィチュニーなんかもそういう仕事をしていた人です。
ワークショップではオペラのいくつかのシーンを取り上げてたんだけど、解釈もわかりやすかったし、この人が作品をどういう風に押し出したいかっていうのが彼の演出を見るとすごいはっきりするなと思って、「演出の仕事ってこういうことなんだ」っていうのがそのときすごいクリアにわかった。で、「演出やってみたい」って思って……あと、裏方の方がまだ食べられる可能性あるぞ、役者はもっと厳しいし、って(笑)
一同:(笑)
でも、「オペラ演出家に」ってすぐには思わずに、やっぱり演劇部で育ってきたから演劇も捨てがたいなって思っていた時に、藝大でも教えていらっしゃる西川信廣さんに相談したりとかして。でも私、大学がパフォーマンスアーツみたいな割と最先端なことやっていたから「新劇って古い」みたいなイメージがすごいあって、「今さら文学座!?」って思っていたんだけど……
藝大プロジェクトで台東区の中学校のミュージカルの演出をお手伝いした時に、その最終稽古に西川さんを呼んだというのよ、藝大が。「やめてくれ!!!」と思って(笑)
一同:(笑)
西川さんたちに素人の私がやっている所を見せるのかと思うとすっごい気が重かったんだけど、西川さんは私が中学生と取っ組み合ってる間に舞台のナンバリングをやってくれて。で、終わった後お礼を言いに行ったときに、演出のダメ出しとかもされるのかなって思っていたら、「今さら演出を変える時間なんてないんだから、みんなが安心して楽しくできりゃ良いんだよ」って西川さんが言ってくれて。でね、ちょっと「いいな」と思ったんだよ。
当時ナンバリングなんてことも私は知らなかったし、稽古場と実際の劇場とでどう変わるかみたいなことも全然想定できていなかった。(新劇は)古いなって思っていたけどスキルがあるってすごいなと思って。限られた時間の中でどう舞台を効率よく作っていくかとか、やっぱりちゃんと勉強した方がいいなって思って西川さんにもう一回相談したら、「(文学座の研究所が)合わなかったら辞めればいいんじゃない?まず基礎だけでも学ぶのはそんなに悪くないと思うよ」って言われたから、じゃあ受けようと思って、大学と二足のわらじを履きながら本科を受験して。
本科の卒業公演の演出がもうお亡くなりになった高瀬久男さんだったんだけど、すごい魅力的で。「台詞を自分のために使うんじゃない」「台詞は相手を動かすために使うんだ」という言葉で、自分が役者をちょっと経験した時に自分の芝居が気持ち悪いなと思っていた部分がすごい解消された感じがして。あと、高瀬さんみたいに役と役の関係性で芝居を作っていくのすごい楽しいなと思って。だから演出のベースは高瀬さんにかなり影響受けたかな。『カスケード』も関係性の芝居だから、基本の「相手をどうしたくて台詞を喋るのか」みたいなことは勉強しやすい本かなあって思ってます。
―――文学座に入って良かったなと思うのはどんなところですか?
自分が将来こういう風になっていきたいなっていうのをゼロからイメージするのってすごい大変だと思うんだけど、文学座には先輩がいっぱいいるから、例えばこういう風にデビューして、こういう風に色んなカンパニーと関係を持っていって……みたいなことの色んなケースがサンプリングされてる。将来の見通しが立てやすいところや相談しやすい環境はメリットだなあと思う。役者もそうかもしれないけど特に演出家で言うと、例えばデビュー作をちゃんと新聞とかに取材してもらえるっていうのはかなり恵まれてる。
それから、単純に色んな世代の役者と知り合える。ある共通言語や仲間意識みたいなのを持って一緒に仕事ができる人がいっぱいいるっていうのはありがたいなと思います。
―――では、今後の演出家としての目標をお聞かせください。
宮本研さんの『俳優についての逆説』の中の台詞で「舞台は役者のもの」みたいなことを言っているし、『カスケード』でもそういう台詞があるけど、それはすごい分かる。作品が舞台に上がった時に、演出の自分の手すら離れていつの間にか役者と客席のものになってるみたいな、そういう作品を作っていきたい。自分でコントロールできちゃうとさ、やっぱり自分が想像したものしか出てこないから。稽古場でもそうだけど想像以上のものが出てくる瞬間が楽しいから、そういうことが作品づくりにおいて実践できるといいなって思っています。
今だと多分パワハラで訴えられるような現場づくりをしてきた世代もあったけど、そうやってある種暴力的に役者を動かしていくことで、良い場合は役者の殻が破れるとか「凄い瞬間」ができちゃうことがあったのも事実。一方で、それで潰れちゃった役者さんもいっぱいいると思うんだけど。それが、一種のテクニックとして通用する時代じゃなくなった今、じゃあどうやって人を動かしていくか、無理矢理作っていた「凄い瞬間」みたいなのを私たちがどうやって作り出していけばいいのかなって考えた時に、より丁寧なコミュニケーションが求められると思うかな。
あと、役者さんもそうかもしれないけど、プライベートと仕事をどう両立していくか。演劇って家庭と両立しにくいみたいなところも多少あるかなって感じがしていて。私が今ユニット(理性的な変人たち)で一緒にやってるメンバーは同年代で身体的な性別は全員女性だけど、そのごくごく限られた世代のコミュニティで言うと、子供ができた時にどう演劇を続けていくかとか、子育て世代にどう演劇を届けていくかとか、そういうことを考えた時に、ちょっとでも自分たちでできるところから実践したいかなって。どうしても小屋入りするとさ、お金もったいないから朝から晩までずっといるみたいなことになっちゃうけど、それって健全じゃないなって思うこともあるし、体力的にも続かないよねみたいな。例えば自分が家庭を持ったり歳をとってからもそういう仕事できるかなって思った時に、そういう人でも関われる演劇の作り方みたいなことは考えていきたいかなって思っています。
もう一個は、私の場合はたまたま演劇だけど、自分の仕事を通じてどう社会や世界と関わっていけるか。色んな戯曲を扱うけど、その戯曲が描いている世界に触れることで、私自身の世界が広がるし視野も変わる。そういう体験を観客とも共有できるか、少なくとも心を馳せてもらえるか……みたいなことって、演劇の持つ力を最大限に発揮できれば、十分に起こり得ることだと思う。
―――生田さんは演劇だけでなくオペラの演出もなさっていますね。
演劇の現場の、戯曲に書かれている言葉をどう立ち上げていくかっていう面白さは何事にも代えがたいと思っていて、一方でオペラとかだともうちょっとパズルに近いというか、音楽がもう決まってるから、そこにその音楽を活かす、あるいは反発するような動きとかをどう当てはめていくか。例えば、この音のおわりまでに暗転したいから、この数小節で必ず役者を捌けさせなきゃいけない、じゃあどう動かすか、みたいなことをオペラでは考えないといけない感じがしてて、だから使ってる感覚は全然違うんだけど、オペラの方が音楽が導いてくれるから一気にダイナミックなところまで行けちゃう、そのダイナミックさも捨て難いっていうか。
新劇もずっと、それこそ70年前と同じことやってるわけじゃないじゃん?時代とともに姿かたちを変えていってるわけで、舞台芸術も、他の近しいジャンルで今どういうことが行われていて、それをどう取り入れていくかとかどう影響されていくかとか、そういうことが柔軟にできると楽しいよね。
―――最後に、生田さんにとって良い俳優とはどんな俳優か教えてください。
良い俳優とは。わー、難しいな(笑)良い俳優とは……
いかにさらけ出せるか、っていう部分かな。さらけ出してくれる人ってあんまりいないから。「あ、ここまで出しちゃうんだこの人」みたいなのって、やっぱり単純に感動するよね。でもそういう役者さんが稽古しやすいかと言われると、イコールではないとは思うけど(笑)。「この人すごくいいな」って思ってもムラがあるタイプの人もいるし、やっぱり作品の完成度を考えた時に、ストライクゾーンに近いところに毎回球を投げられるかも重要……。「さらけ出してくれる」+ある安定感は同時に求めちゃうかな。
あと、やっぱり役者は見られる職業だから自意識って出て来てしまうと思うけど、自意識が崩されちゃった時にどんな顔が出てくるかみたいなのが面白かったりするから、そういう顔を見せてくれると嬉しなと思うけど、まあそれはね、(それを引き出す)こっちのテクニックとの勝負かな(笑)
―――以上になります。ありがとうございました!
聞き手・文字起こし:研修科メディア係
写真撮影:村田詩織
記事編成:稲岡良純
※このインタビューは2022年4月5日に行いました。本記事はインタビューをもとに再構成したものです。