Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

日本萌学会ジャーナルブログ「萌え人」

パングラムと実験小説

2022.05.06 14:00

こんちは

日本萌学会のはんしゃろです(今日2本目)


現代ひらがなの静音46文字で、完全パングラムを作りました。

※パングラムとは:ある文字種すべてを1回以上使った、意味の通る文章のこと。

そのうち、重複がないものを特に「完全パングラム」といいます。日本では『いろは歌』が特に有名ですね。

『いろは歌』
色は匂へど 散りぬるを
我が世誰ぞ 常ならむ
有為の奥山 今日越えて
浅き夢見じ 酔ひもせず

ぼくが作ったのはこれ↓

『はんしゃろ歌』(?)
夢拾い それは八千代
沼の堀さえ澄む青へ
何とかして 罪を消せ

笑う猫にも福来たる


で、なんかせっかく作ったしこれ使って遊べないかなと思って、実験的に、題材にした短編を書いてみました。

(先に言いますが今回の記事に萌え要素はないです。

投げるところがないのでこの場を拝借させてもらいます。)


いきますね〜

ーーーーーーーーー

この記事はフィクションです。

実在の人物、団体とは一切関係ありません。

ーーーーーーーーーー

『賽の河原』


【賽の河原】は、4人の男の集まりであった。

同じ大学に通っていた私ら4人は、青い鳥のさえずる某SNSで知り合ったのをきっかけに自然と集まり、いつしか、【賽の河原】と名乗って、学内やインターネットで交流するようになっていった。

何人か、面白がってゲストメンバーがやってきたこともある。ただ、私はそれらと、それほど打ち解けることはなかった。

そして結局、定例と称する飲み会の場にいつも現れるのは当初の4人だった。


【賽の河原】は石を拾い集める団体だった。

ただし、石は石でもソーシャルゲームの石である。

私たちはあのころ、4人揃ってとある美少女ゲームに夢中になっていた。

毎日欠かさずイベントを周回しては、ゲーム内単位【夢石(ドリーム・ストーン)】を収集する。そして、月一回のガチャイベント…運営という鬼が襲い掛かるその日には、すっかり【夢石】を費やしてしまう。

この繰り返しを、誰が言い出したか彼岸の子供たちの苦行に準え、自分達の集まりに題したのだった。


【賽の河原】には、「猫間障子」という男がいた。

猫間障子とはハンドルネームであり、本名とはかすりもしていなかったと思うが、私はよく覚えていない。(私は人名を覚えることが苦手だ)

仲間内でもいつも、猫間障子と呼んでいた。


ーーーーー


私は猫間障子と、定例飲み会の場で一度、けんか…というか、ちょっとしたいざこざになったことがある。

「いいよな、お前らは。何か、あれよ、『いない歴』に、理由があって」

猫間障子は酔うとよく失言をする男だった。


「何?どういうこと?」

彼の向かって左側の席にいたAは、言葉の真意がわからなかったのか聞き返した。(ちなみに、Aとは私が気を遣って仮称にしたのではなく、そういうハンドルネームである。)

私の左側にいた魔剤坂(これもハンドルネーム)も、わかっていないような顔だった。


「言わないほうがいいんじゃない。他人の生き方について、そういうのは」

猫間障子の正面に座る私は、即座に猫間障子が言わんとすることを察して答えた。こういう無配慮には、憤りを感じるたちである。すぐに大きな声で口に出さなければならないと感じた。

「Aと魔剤坂が彼女いないのはワケありだから、それがむしろ羨ましいって言いたいんだよな」

そして私も猫間障子以上に無配慮であるのだが、まだそれには気付いていない。


Aと魔剤坂は、ずっと彼女を作らないと公言していた。理由について、細かいことは聞いていないが、現実の女性に関心がないとか、交際関係を持つことは不合理だと考えているとか、2人ともそのようなことを言っていたはずだ。


他方、私と猫間障子は、彼女がずっといなかったのは同じであるが、欲しいには欲しいのに機会がなくもどかしい、というタイプであった。理由があって彼女を作らない2人と、何の理由もなく彼女ができない2人。この対照性に、猫間障子は言及したのだった。


「そうだけど、そんな、俺そこまで言わなかったのに、言わなくても」

猫間障子は不満そうに返事をした。今から思えば、不謹慎であることを元々認識しつつ、オブラートに包んで冗談っぽく言ったつもりだったのを、私が真に受けた上、改めてはっきりと言ってしまったから、不快感を示したのだろう。

そのような猫間障子の態度を、私は、反省していないのだと思った。もっと強く言う必要があるのだと思った。

「謝ったほうがいいと思う」


「おい、お前、声デカいよ」

魔剤坂に止められて、はっと周りを見渡した。私は知らぬ間に猫間障子のほうへ身を乗り出し、飲み屋の狭い席の椅子と机に挟まったまま中腰になっていた。

店内はそれなりに混んでいて、幸い周りの席の人たちが気にとめているようすはなかった。しかし、魔剤坂とAが2人揃って、蝿か何かのように縮こまってビールグラスを握っているのを認めた。私はここでようやく、自分もいらないことを言ったらしいということを感じ取って座り込んだ。

「ごめん」むしろ私が謝るべきは2人に対してだったと思うが、このとき私はなんとなく、猫間障子に向かって謝っていた。

「はは。俺もこの話は言わないほうがよかったわ、口が滑った。悪い。でもな」

猫間障子は、素直に2人に謝ってから、こっちに目を合わせて言った。その顔は、何の悪意もない、ただただ純粋で快活な笑顔で、「飲み会楽しもうぜ!」とでも言い出しそうだった。

…そう、猫間障子はいいやつだが、やはり酔うとよく失言をするのだと、私は再び痛感することになる。

「ワケありっていうなら2人だけじゃなくて、お前もそうだけどな。」

「何が言いたいんだよ?」

「顔がね…」


私はそのあとの細かいことはあまり覚えていないが、とにかく怒りにまかせて、猫間障子にいろいろなことを言った。

冗談がわからず、受け流すことができない性格だと、人からよく言われる。

自分でも思う。


その日から2〜3日は、何か色々考えすぎてソシャゲにもSNSにも顔を出せなかったが、当の本人の猫間障子は、大学の講義で会うと何事もなかったかのようにけろりとしており、てくてくとやってきてソシャゲの協力プレイを求めてきた。馬鹿馬鹿しくなって考えるのをやめて、その夜にはもう4人で飲みに行った記憶がある。


ーーーーー


猫間障子は、あるときから【賽の河原】の定例飲み会に顔を出さなくなった。SNSも静かになり、こちらからメッセージを送っても反応が悪い。いつの間にか、ソシャゲでも見かけなくなった。


どうやら彼女ができたらしい。


考えてみれば、彼は(酒を飲まなければ)真っ当な好青年である。欠点という欠点は、ちょっと腹が出ていてたまに汗臭いくらいのもので、よく見るとそこそこいい顔立ちをしている。(そういう意味ではあの日の彼の私への暴言は、妥当な内容である。だからこそ腹が立ったのだが。)


性格は気さくで活動的、【賽の河原】以外にも交友が広かった。飲み会のゲストメンバーは大抵、彼が連れてきていたような気がする。


そんな彼が抜けた【賽の河原】は、竜骨を失った船ではないが、飲み会の頻度は目に見えて落ちていったし盛り上がりに欠けた。ソシャゲは3人とも惰性で続いていたものの、彼がいかに大きかったのか思い知らされて、なんだか私は少し認めたくないような気持ちになり、またそれを腹立たしく思った。


ーーーーー


猫間障子に、最近、子供が産まれたらしい。

彼が久々にSNSに投稿した写真には、なんとも幸せそうな寝顔の赤ん坊が写っていた。

彼は大学を卒業してから、すぐ結婚していたようである。はて、そういえば奥さんは大学の頃の例の彼女なのだろうか。多分そうなのだろうが、聞いていないから知らない。というか結婚式にも呼ばれていない。

「何、赤ちゃんの写真なんて見てるの、珍し」

いつの間にか母親が部屋にいて、パソコンを後ろから覗いていた。驚いてヘッドセットを下ろす。

ちなみに、私は卒業後、地元の企業にUターン就職し、実家暮らしをしているので、よくこういうことが起こる。本当に油断ならない。

「別に…」

「あんたもそろそろ赤ちゃんに興味出てきたの?ならいいことね。はよ、孫の顔見せて親孝行してくれんとね。あ、先にお相手さん見つけないとね。はは」

母親は、1人で喋るだけ喋って、部屋から出て行こうとしていた。何しに来たのだろう。私とは正反対に、多弁で陽気な母である。


「まあ、俺はあれよ。"ワケあり"やから」


ぼそり、と呟く。

意味がわからなかったのか、それともよく聞こえなかったのか、母親が「何が?」と聞き返してくるが、無視してヘッドセットを付け直した。


「ごめんごめん親フラ。協力プレイ続きやってよ」

『子供部屋おじさんかわいそう』

『しょうがねえなー…、【夢石】ノルマあと何個?』

Aと魔剤坂が通話越しに笑っているのが聞こえてくる。


【夢石】を拾い始めてから、体感8000年くらいの時間が流れたような気がする。

否、8年の間違いかもしれないが、事実、かつて共にソシャゲ沼で腰の上まで浸されていた猫間障子が子供を持つくらいの、長い長い時間が流れたのは確かだ。


……猫間障子か。懐かしいな。

あの日、実際彼と他の2人がどう思ったかは知らないが、私の中では何か気持ちの悪い罪悪感のようなものが渦巻き続けている。未だについ、あの日の一瞬のことの脳内反省会をしてしまうことがある。


その罪悪は、この石を積んで雪ぐしかないのかもしれない。元々親孝行のできない私だ、なおさら、現代の賽の河原で、石を拾い続ける義務がある。

……そんな適当なことを思いついて、自嘲した。私のそれは、どう考えても罪滅ぼしではなく、ただの現実逃避なのだが。


PC画面の複窓に表示された画像の中で、我が子を抱いた猫間障子は、いつかのようにヘラヘラと笑っていた。

夢拾い それは八千代
沼の堀さえ澄む青へ
何とかして 罪を消せ
笑う猫にも福来たる