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Grandia

一喜一憂

2022.05.06 14:20

twst/ジャミネハ

以前、ジャミル様がアズール様に助けていただいた対価にモストロラウンジで1日だけ給仕をすることになった。金曜日のモストロラウンジは週末ということもあり、多くの生徒で賑わうのだそうだ。イカの手も借りたいくらいなのだとアズール様からお聞きしていた。人手はいつでも足りないとのことで、ジャミル様と最低でもあと一人はほしいと依頼されたらしい。いくらカリム様が快諾するとはいえ、主人に給仕をさせるわけにはいかない。そこで私に白羽の矢が立ったのだ。ジェイドさんに案内されて更衣室に通された先に準備されていた女性用の給仕服はオクタヴィネル寮に相応しい素敵なものだった。眩い真珠を繋げた豪奢な髪飾りは珊瑚の海を想起させてうっとりと眺めてしまうし、パフスリーブの袖が膨らんだ薄紫のシャツは大人っぽくて美しい。あしらわれたフリルは夢のように膨らんで腰を包み込み、黒いロングスカートは素足を隠しながらも深いスリットが入っていて女性らしい淑やかさと色気を演出している。オクタヴィネルの方々とご一緒するのは緊張したが、普段は着る機会などない素敵な洋服に少し気分が晴れた。更衣室で給仕服に袖を通して部屋を出ると、向かいの更衣室は紳士用だったようで、ちょうど同じタイミングでジャミル様が着替え終わって扉を開けたところだった。オクタヴィネル寮服に着替えたジャミル様はとってもよくお似合いで、どんな服も着こなせるのは凄いなぁと改めて驚いてしまった。改めて鏡を見る。私は鏡を幾度覗き込んでも着られているようにしか見えなくて、浮き上がった気持ちが落ち込んだ。こういったフォーマルな服はあまり似合わない。昔からずっとそうだ。

「ネハ」

急に名前を呼ばれて驚く。ジャミル様は不機嫌そうにオクタヴィネルの帽子を被り直して私の腰を指差した。

「は、はい」

「スカートのリボンが解けている」

「あ、すみません…」

「結んでやるから来い」

「え、でも…」

「早く」

急かされて慌てて後ろを向いた。鏡の前でジャミル様が私のリボンを結っていて、それがなんだか嬉しいなと感じた。従者が主人に世話を焼かれるだなんてあってはならないことなのだけれども、手をかけてもらっているということがまるで愛されている証のような気がして嬉しかった。ジャミル様のことが好きだと気付いたのはつい最近のことだ。初めは今まであんなに酷いことをされたのにと納得できなかったが、ようやく理解出来たような気がする。ジャミル様は私の前では不機嫌を隠しもしないし、言葉は乱暴で恐ろしい。でも、文句を言いながらもこうして世話を焼いてくださる。そこに周囲が気付きにくい優しさがあって、抱いてはいけない感情だと分かっていても胸が高鳴ってしまうのだ。馬鹿だと思う。こんな気持ちを抱いたところでジャミル様が私のことを好きになるはずなんてないのに…そう思うと何故だか胸が苦しくて鼻の奥がツンとした。

「結べたぞ」

「…ありがとうございます」

鏡の前で一回転すると鏡の中で大振りなリボンが美しく結ばれているのが見えて嬉しくなった。まるでジャミル様に愛してもらえた証のような気がして。ジャミル様は黙って私を見つめて満足げに頷く。そんな姿にさえ見とれてしまいそうになる。いけない。気持ちがすぐに顔に出てしまう。そんな私の気持ちを見透かしているのかは分からないが、ジャミル様は私を見つめながら口を開いた。

「アズールにお前は厨房から出すなと言ってある。とりあえずあいつらの指示に従ってやれ」

「かしこまりました」

「それから…」

「?」

ジャミル様の目が私の髪からつま先までをゆったりと眺めるので緊張してしまった。

「お前は紫も似合うな」

すぐには意味が理解出来ずに「え」と短い声が漏れた。似合う…似合うと言った…ジャミル様が…?途端にじわりと頬に浮かぶ熱を自覚した。

「あ、ありがとう…ございます」

慌ててお礼の言葉を口にする。落ち込んでいた気持ちはまた浮き上がりフワフワと頭上を跳ね回る。この赤く染まった頬を誰かに見られる前にどうにか跳ね回る心臓だけでも落ち着いてはくれないかと胸に手を当てた。