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yoyo

池田彩乃『発光』

2022.05.07 13:56

NHKの「君の声を聴かせて」という番組を見た。心理学者の先生が「基本的自己肯定感が人間を支えている、そしてそれは隣にいる人と同じものを見たり聞いたりして、同じことを思っていると感じる共有体験から生まれる」ということを語っていた。


思い出したのは池田彩乃さんの詩集『発光』のことだった。この詩集を読んでいるときの、私は語り手と同じものを見たことがある、同じことを感じていたことがあるという実感、ほんのりとした明るさ。この詩集は、私の隣にいる人なのだ。こうして池田さんは知らないところから、知らない誰かに宛てて、大丈夫だよと言い続けているのだと思った。


感情に依りすぎず、観念的にもなりすぎず。そのバランスにほっとする。感情的すぎたり観念的すぎると、私は叱られているような、惨めな気持ちになってしまう。こうならなくては、ああならなくてはと、焦ってしまう。今の私では不十分だと、何にも及んでいないと悲しくなる。けれどもこの詩集はそういうものとは別の世界にある。すべての言葉たちが、この言葉たちを目にしている私のままでいいのだと語っている。


人と人が分かり合えないことを分かっていながら、それが噛みつかれるに値する行為だと分かっていながら、同じものを見て同じことを感じることは希望と語っている。その覚悟に私は照らされる。