Heart of GOLD ∞ ②
「僕たちにしか出来ないって、どういうことですか?」
忍がやや構えるように言った。
たとえプロデューサーがついたって、アオハルはアオハルの音楽をやりたい。好き勝手に曲を作られたくない。
そんな気持ちを廣治もわかっていた。
「これを、聴いてもらえるかな」
廣治は、ミキサーをいじって古い音源を再生した。スリーピースバンドのようだ。激しい疾走感と、どこか悲しい詩。
「これは、武内さん、あなたですか?声は少し子どもっぽいけど、、」
忍が首を傾げてたずねた。
廣治は穏やかな表情で言った。
「僕に似てるけど、これは僕じゃないんだ。若い頃の僕の兄だよ。」
「これが、なにか?」
今度は渡井《わたらい》誠司が訪ねる。
「まって誠司。この曲は、なんとなく、うまく言えないんだけど、、僕らの音楽に似てない?」
誠司も仁もじっと曲を聴いている。
今度は仁が口を開いた。
「この人、声は違うけど、忍みたいだな。」
廣治はうなづいた。
「忍さん、君の歌い方は彼にそっくりなんだ。僕らが若い頃に作っていた曲は、アオハルの精神に非常に近いと思う。だから、君たちの精神をそのままに、僕たちに力を貸して欲しいんだ。」
「僕たち?」
「僕と、今はもういない兄のために。僕たちが叶えられなかった願いを、君たちに叶えて欲しい。今回プロデュースを申し出たのは、そういう訳なんだ。」
アオハルのメンバーは、それぞれ目を合わせた。
「同じフィーリングを持つ人に曲を作ってもらうのは、僕たちにとってもいい刺激になる。」
忍は言った。誠司もうなづいた。仁はしぶしぶ、といった感じで首の裏ろをかいた。
「話、受けてくれるかい?」
「武内さん」
やや沈黙があった後、忍が口を開いた。
「あなたとお兄さんの願いっていうのはなんですか。あなたは僕らが歌うことで、何を完成させようとしてるんですか」
完成させる。
なるほど、この子は勘が鋭いな、と廣治は思った。そしてしばらく目を伏せ、言葉を探した。
兄とのことを話さないわけにはいかないだろうと思っていた。
そしてゆっくりと口を開いた。
レコーディングスタジオを出たアオハルの3人は、言葉少なく駅まで歩いていた。
「おい、お前らどうする。あんな話聞いて、、正直荷が重いな。」
仁は率直に気持ちを話した。
誠司は複雑だっかた。けど、心の中では受けるべきだと決まっていた。
「受けようよ」
忍が言った。
「武内さんが僕らにしかできないって頼んできたんだ。僕らは力を貸すべきじゃない?。」
「俺もそう思う。あの人の力になってもいいんじゃないかな。荷が重いのは俺も同感だけど、きっと俺たちなら出来るよ。それにあの人、なんか力になりたいと思わせるんだよなぁ、、」
誠司の言葉に忍はうなづく。
2人の言葉に、仁はうーんと首の後ろをかいた。
「まあ、、お前らそう言うと思ったよ。荷が重いけど俺も腹括って賛成だ。俺らにしかできないんだから後悔はしねぇ」
「よし、じゃあ決まりだな」
誠司が言った。
三人は廣治の人柄に触れて、強く惹かれるものを感じていた。
あの人のためなら、と思わせるような、何かをもっていた。
三人は次の日運営を通じて正式にプロデュースを受けることを通達した。