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空想都市一番街

Heart of GOLD ∞ ②

2022.05.09 13:42

「僕たちにしか出来ないって、どういうことですか?」


忍がやや構えるように言った。


たとえプロデューサーがついたって、アオハルはアオハルの音楽をやりたい。好き勝手に曲を作られたくない。


そんな気持ちを廣治もわかっていた。


「これを、聴いてもらえるかな」


廣治は、ミキサーをいじって古い音源を再生した。スリーピースバンドのようだ。激しい疾走感と、どこか悲しい詩。


「これは、武内さん、あなたですか?声は少し子どもっぽいけど、、」


忍が首を傾げてたずねた。

廣治は穏やかな表情で言った。


「僕に似てるけど、これは僕じゃないんだ。若い頃の僕の兄だよ。」


「これが、なにか?」


今度は渡井《わたらい》誠司が訪ねる。


「まって誠司。この曲は、なんとなく、うまく言えないんだけど、、僕らの音楽に似てない?」


誠司も仁もじっと曲を聴いている。

今度は仁が口を開いた。


「この人、声は違うけど、忍みたいだな。」


廣治はうなづいた。


「忍さん、君の歌い方は彼にそっくりなんだ。僕らが若い頃に作っていた曲は、アオハルの精神に非常に近いと思う。だから、君たちの精神をそのままに、僕たちに力を貸して欲しいんだ。」


「僕たち?」


「僕と、今はもういない兄のために。僕たちが叶えられなかった願いを、君たちに叶えて欲しい。今回プロデュースを申し出たのは、そういう訳なんだ。」


アオハルのメンバーは、それぞれ目を合わせた。


「同じフィーリングを持つ人に曲を作ってもらうのは、僕たちにとってもいい刺激になる。」


忍は言った。誠司もうなづいた。仁はしぶしぶ、といった感じで首の裏ろをかいた。


「話、受けてくれるかい?」


「武内さん」


やや沈黙があった後、忍が口を開いた。


「あなたとお兄さんの願いっていうのはなんですか。あなたは僕らが歌うことで、何を完成させようとしてるんですか」


完成させる。


なるほど、この子は勘が鋭いな、と廣治は思った。そしてしばらく目を伏せ、言葉を探した。


兄とのことを話さないわけにはいかないだろうと思っていた。


そしてゆっくりと口を開いた。



レコーディングスタジオを出たアオハルの3人は、言葉少なく駅まで歩いていた。


「おい、お前らどうする。あんな話聞いて、、正直荷が重いな。」


仁は率直に気持ちを話した。


誠司は複雑だっかた。けど、心の中では受けるべきだと決まっていた。


「受けようよ」


忍が言った。


「武内さんが僕らにしかできないって頼んできたんだ。僕らは力を貸すべきじゃない?。」


「俺もそう思う。あの人の力になってもいいんじゃないかな。荷が重いのは俺も同感だけど、きっと俺たちなら出来るよ。それにあの人、なんか力になりたいと思わせるんだよなぁ、、」


誠司の言葉に忍はうなづく。


2人の言葉に、仁はうーんと首の後ろをかいた。


「まあ、、お前らそう言うと思ったよ。荷が重いけど俺も腹括って賛成だ。俺らにしかできないんだから後悔はしねぇ」


「よし、じゃあ決まりだな」


誠司が言った。


三人は廣治の人柄に触れて、強く惹かれるものを感じていた。


あの人のためなら、と思わせるような、何かをもっていた。


三人は次の日運営を通じて正式にプロデュースを受けることを通達した。