「儲かっているということは、いい商売をやっていない」
ここだけ切り取るとどういうことかと思うかもしれませんね。
これは、東京にあった大坊珈琲店という珈琲屋の店主である大坊勝次さんが「大坊珈琲店のマニュアル」(出版:誠文堂新光社)という本の中で語られた言葉です。
大坊さんは、店に来るお客さんはどんな立場の人であろうと〈対等〉であり、みんな同じように尊重できる、そういった空気感を守り抜くということを基本方針としていたのだそうです。
その為には「常連の人に占領されている店の印象は避けたかった」とも語っています。
初めて入るお店で、常連と思わしき人と店の人が談笑していると、心地良く過ごせないという方は、多いんじゃないでしょうか。
少なくとも私はそういうタチですので、アットホームさが売りなんだよ、というお店には進んで足を運ぼうとしません。
私は目の前で実際に大坊さんの仕事ぶりを拝見したわけではありません。それでも、ただ実直に、お店に立つ、やるべきことをやる、という姿が活字を通してでも伝わります。
そういった姿勢に私は憧れるのです。
私は、「あわい堂」がただの「珈琲が飲める本屋」であるよう、粛々とやっていきたいと思っています。
「誰でも」「いつでも」「ふらっと」来れるというのが店舗を構えることの意義だと思うのです。
儲けに走り、本質からずれるような仕事はしたくないのです。
お声がけはしないほうがいいのではないかという気持ちと、話しかけた方がいいのかな?という気持ちで、よく揺れています。
実際は、寡黙な店主を目指していました。
お客さんの中でもしこれを読んでいる方がいらっしゃるとしたら、意外だという印象を抱く方も多いのではないかと思います。
一対一での関わりなどは好きですし、来てくださるのが嬉しくてつい話しかけてしまうことが多いんですよね。
その時その時でうちの雰囲気は違っています。
読書室のように静かな時もあれば、井戸端会議みたいなことをしている時もある。
ですので、店に来た人が受ける印象もそれぞれに異なっていると思います。
ただ、それでもし、私の態度によって店に入りづらいと思わせてしまっている方がおられるとしたら…
店主としてのふるまいというのはいつも考えます。
反省することばかりです。
一人ひとり対等に、平等に、見る。実直な仕事をする。という姿勢をきちんと示す、示し続けるというのは案外難しいということを実感しています。
(写真:「大坊珈琲店のマニュアル」97ページより)