世の終わりのための四重奏曲 解説4
夏田昌和さんに解説バトンタッチしました!作曲家ならではの視点で詳しく書いて下さってます!
第1楽章<水晶の典礼> この楽章で主役を演じるのはクラリネットとヴァイオリン。
メシアン作品には必ずといってよいほど登場する、鳥たちの囀りを奏でます。
スコアの冒頭に置かれたメシアン自身の解説では「早朝3時から4時位のツグミとナイチンゲールの目覚めの歌」とされていますが、音坊主2017公演では前半にクープランの「恋する夜鳴きうぐいす(ナイチンゲール)」も演奏されますので、同じフランスに生まれた240歳差の二人の作曲家が、どのようにナイチンゲールの囀りを聴き分け、書き分けているのかも聴きどころといえます。
さてしかし作曲家の視点から言えば、興味深いのはむしろ背景をなすチェロとピアノのパートの方です。 チェロは、2つの非可逆リズム(回文のような構造を持つリズム・パターン)を合わせて得られる15音のリズム・ペダル(リズムのオスティナート)を、全音音階(メシアンの分類では「移調の限られた旋法第1番」)を用いた5つの音の反復によって、ハーモニクスの音色で奏でます。
5×3=15ですから、5音の旋律(メシアンが多用するM字形の音型です)が異なるリズムで3回繰り返されるとリズム・ペダルの1周期となり、その全体が楽章を通して計6回反復するというしくみです。
さらにすごいのはピアノで、17個の音価の連続から成るリズム・ペダルを、29個の和音群の反復によって響かせます。17も29も素数ですから、どちらをどちらで割っても”割り切れません”。
つまり、和音群の反復とリズム・ペダルの反復は互いに一致することなくずれ続けるのです。
和音群を眺めれば繰り返される度に異なるリズムとなり、リズム・ペダルに視点を移せば反復の度に異なる和音から始まることになります。
これは正に、14世紀フランスの作曲家マショーのイソリズム技法における、タレア(リズムの反復単位)とコロール(旋律の反復単位)の関係そのものです。(分析の大家でもあるメシアンがマショーの音楽に通じていたことは言うまでもありません。)
チェロとピアノがこのように複雑な時の層を織り成すことによって、”宙づりにされた時間”の感覚を生み出されます。
メシアンは解説のなかで、この楽章を「天国における調和のとれた静寂」と言い表わしているのですが、聴きにいらして下さる皆さんの耳にはどう響くでしょうか?