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なるの台本置き場

【男1:女2】Sweet Mary

2022.05.12 01:00

男1:女2/時間目安60分



【題名】

Sweet Mary

(スイート・マリア/スイート・メアリー)

(※お好きな方でどうぞ)



【登場人物】

メア:ナイトメアの名で知られる女の子。

ライ:メアの世話役。

ボス:ファミリーのボス。



(以下をコピーしてお使い下さい)


『Sweet Mary』作者:なる

https://nalnovelscript.amebaownd.com/posts/34293172

メア(女):

ライ(女):

ボス(男):




-------- ✽ --------






【12年前】



<ライが絵本を読んでいる>


001 ライ:

『ある小さな村にメアリーという女の子がいました。


 メアリーはとても恥ずかしがり屋でした。


 いつもお父さんとお母さんの後ろに隠れていました。


 メアリーには夢がありました。


 沢山お友達を作って遊ぶこと。


 でもメアリーはお友達を作るのが苦手でした。


 そんなある日黒い女の子がメアリーに話しかけました。


 「ねぇ、お友達にならない?」


 メアリーは嬉しそうに笑いました。


 次の日も、その次の日も、そのまた次の日も、黒い女の子とメアリーは一緒に遊びました。


 お友達はどんどん増えていきました。


 「さぁ、もう寝る時間ですよ。」


 メアリーのお母さんがドアをノックしました。コンコンという音は夢が覚める合図。


 メアリーはお母さんに抱きついて言いました。


 「今日もね、沢山のお友達と遊んだんだよ!」


 お母さんは不思議そうに笑いました。』


<絵本を閉じる>


002 ライ:おやすみ、可愛いマリア。







【現在・倉庫】



<無線を使って話をするメアとライ>


003 メア:(鼻歌)ふんっふふ〜ん♪


004 ライ:メア、そっちの様子は?


005 メア:誰もいないよ?……あー、でも、何人か倉庫の周りにいるかも。


006 ライ:了解。援護はいる?


007 メア:いらなーい。私一人で十分。


008 ライ:流石 悪夢のレディ、ナイトメア様ね。……メア、ご褒美は何がいい?


009 メア:この国は何が有名なの?


010 ライ:ジェラートじゃない?


011 メア:じゃあ極上のジェラートがいい。


012 ライ:おーけー。


013 メア:極上だからね、極上。


014 ライ:分かったって……(全体連絡に切り替える)あーあー、これから任務を開始する。実行はナイトメアのみ、他は待機。以上。


015 メア:ジェラートジェラート〜♪


016 ライ:ちゃんとやらなきゃご褒美はナシだからね?


017 メア:分かってるよ。


018 ライ:……メア、時間よ。


019 メア:はーい。……さぁて、プレイタイムの始まり始まり!



(間)



020 ボス:どうだ?


021 ライ:ボス!……こんな所にどうして……?


022 ボス:可愛い娘に会いに来ただけだが……悪いか?


023 ライ:いえ、そんなことは。


024 ボス:メアは今誰と遊んでいるんだ?


025 ライ:うちのエリアに新しく出来た、ドラッグを密売していたグループの幹部達です。トップは来ていないようですが。


026 ボス:そうか。ドラッグに手を出すとは……愚か者。


027 ライ:そういえば、ボスはなんでドラッグが嫌いなんです?


028 ボス:お前は好きなのか?


029 ライ:いや、どちらかと言えば嫌いです。でもそこまで深く、なんていうか、その、憎しみとか嫌悪とかは無いですね。


030 ボス:……ドラッグは金しか生まない。だから嫌いなんだよ。


031 ライ:な、るほど……?


032 ボス:いつかわかる日がくる。……それにしても、メア楽しそうだな。


033 ライ:そうですね。


034 ボス:……ライ、あの子の事をどう思う?


035 ライ:メアの事ですよね?……正直怖いです。


036 ボス:と、言うと?


037 ライ:いつもはどこにでもいそうな女の子なのに、戦いの場では誰よりも頼りになります。……あの子相手では恐らく私は勝てないでしょうから。


038 ボス:お前がそう言うのなら、きっとメアに勝てる人間などもうほとんど居ないのかもしれないな。


039 ライ:そうかもしれませんね。


040 ボス:……お前の師匠も同じ事をメアに対して言っていたよ。


041 ライ:ジルさんが?


042 ボス:あぁ。強大な力を持つからこそ、メアが道を外さないように面倒を見ないと、って意気込んでいたな。


043 ライ:そうだったんですね。


044 ボス:まぁあの頃に比べれば、今のメアは格段に強いだろうがな。


045 ライ:私が世話役に命じられた時から比べても遥かに強くなりましたから。


046 ボス:ふふふ……これからが楽しみだなぁ。


047 ライ:そうですね。



(間)



048 メア:終わったー!あー楽しかったー!


049 ボス:おかえり、メア。


050 メア:あれ、パパ?なんでここに居るの?


051 ボス:可愛い愛娘に会いにきちゃダメか?


052 メア:ううん!嬉しい!……パパ、ライ、ただいまっ!


053 ライ:おかえり。


054 メア:パパも一緒にホテル帰るの?


055 ボス:あぁ、ホテルまでは一緒に行くよ。久しぶりに少し時間があるからな。


056 ライ:ではこちらにどうぞ。


057 ボス:ほら、メア乗りなさい。


058 メア:うん!……あ、ジェラートは?


059 ライ:車の中に。


060 メア:やったー!帰ろ帰ろー!


<車に乗り込む3人>


061 ライ:(運転手に向かって)出してちょうだい。


062 メア:ねぇこれどれが私の?


063 ライ:右から、チョコレート、ストロベリー、パイナップル、ブルーベリー。食べたいやつをどうぞ?


064 メア:じゃあ全部!


065 ライ:そう言うと思った。どれから食べるの?


066 メア:……これ!


067 ライ:はいはい、他の3つはここにしまっておくからね。


068 メア:うん!ありがとう!……ん〜!美味しい!


069 ライ:この辺では名の知れたジェラート屋のやつだからね。そりゃあ美味しいでしょう。


070 メア:そうなんだ!道理で美味しいわけだ。


071 ライ:ご褒美だからね。


072 ボス:メア。


073 メア:ん?パパも食べる?


074 ボス:いや、私はいらないよ。……メア、私からもなにかご褒美をあげよう。


075 メア:ほんと?


076 ボス:あぁ、いつも頑張ってる事はファミリーの皆から聞いているからね。何が欲しい?


077 メア:うーん……新しい本がほしいなぁ。


078 ボス:本でいいのか?


079 メア:うん。持ってる本は全部読んじゃったし、新しい本がいい!……あ、1冊でいいからね?


080 ボス:1冊だと逆に難しいなぁ。


081 メア:ふふ、とっておきのを待ってるね!


082 ボス:あぁ、分かったよ。


083 メア:んー、ジェラート美味しい。


084 ボス:メア、今日の連中はどうだったか聞いてもいいか?


085 メア:うん、どーぞ?


086 ボス:今日の奴ら、メアの事は知ってたのか?


087 メア:いや、知らないみたいだったよ?名乗れって言われたからナイトメアだよー!って言ったらバカにされたもん。


088 ボス:ふふふ……確かにメアの事をバカにするやつなんて、メアの事を知らない奴しかいないなぁ。


089 メア:あいつらなんて言ったと思う?!……『どんな悪夢(ナイトメア)を見せてくれるのかなぁ?可愛いお嬢さん?』だって!……あー!ムカつく!


090 ライ:あーあー、馬鹿な奴ら……。


091 メア:それにね?自分から煽ったくせにすぐドールみたいになっちゃってさ?面白くなーい。


092 ライ:さっきは面白かったー、楽しかったー、って言ってたじゃない。


093 メア:ドール遊びは楽しいの。でもすぐドールになるのはダメ。こう、なんていうの?少しずつドールになってくれないと、面白くないの。


094 ボス:まぁメアがそう言うってことは手練では無かったのか。


095 メア:うん。ファミリーの名前は知ってるってレベルだったし、私の事知らないんじゃ、こっちに来てまだ間もないんじゃない?


096 ボス:だろうな。


097 ライ:そんな連中がドラッグに手を出すとは……馬鹿な事をしたわね。


098 メア:……知らないってさ、怖いよね。


099 ライ:そう、ね。……何かあった?


100 メア:……ううん。何でもない。


101 ボス:何かあったのか?メア。


102 メア:本当に!何も無いよ。ただ、ルールを知らなかっただけで大きい、しかもうちみたいな怖い組織をいつの間にか敵に回してた、なんてあの人達も運が悪かったなぁって思っただけ。


103 ライ:そうね……よりによってうちのファミリーのエリアで……本当に知らなかったのなら、運が悪かった、としか言えないわね。


104 メア:うん……世の中にはさ、知らなくていいことって沢山あるけど、でも知らないといけないことってさ、やっぱりあるよね。


105 ライ:……メア、何か気がかりな事があるなら(※被せ)


106 メア:(※被せ)大丈夫、何も無いよ。……あー!美味しかった!次はどれにしようかなぁ……。


107 ライ:まったく、ゆっくり食べなよ。


<ボスが煙草に火をつける>


108 メア:あ、煙草。


109 ボス:ライ、お前も吸うか?


110 ライ:あ、はい。頂きます。


<ライが煙草に火をつける>


111 メア:煙草って美味しいの?


112 ボス:あぁ、こういう大仕事が終わった時は特にね。


113 メア:今回は頑張ったの私でしょう?


114 ボス:情報を集めたり、誘き寄せたりも立派な仕事なんだ。今回は特にライ達もよく頑張ってくれたんだぞ?


115 ライ:ありがとうございます。


116 メア:パパは?


117 ボス:そうだなぁ、私はおまけ。


118 メア:ふふ、何それ!……ねぇ、その煙草は極上の煙草なの?


119 ボス:あぁ、極上だよ。


120 メア:ふーん。じゃあお揃いだね!……まぁ煙草の善し悪しなんて私にはわかんないんだけど。あ、窓開けてよ?


121 ライ:はいはい。


122 メア:その煙草、なんだか懐かしい匂いがする……気がする。


123 ライ:気がするって(笑)


124 メア:だって!匂いの記憶なんて余り残らないでしょ?何となく懐かしいなって思うくらいで誰の匂いとか、どこで嗅いだかなんて覚えてないよ。


125 ライ:確かにそうね。


126 ボス:……この煙草はね、昔私の親友だった男が教えてくれたんだよ。


127 ライ:……親友だった?


128 ボス:あぁ、その男はね、私がアカデミーの学生だった頃の数少ない友人だったんだ。私が裏社会と繋がっていることは噂されていたからね、友人はあまりいなかったんだ。


129 メア:へぇ〜。パパが学生の頃の話するの珍しいね。


130 ボス:まぁたまにはね。……あいつはとても頭が良くてね。先生からも生徒からも気に入られていて、私とは正反対の人間だったよ。だから、なのかもしれないな。彼はハメを外しすぎた。加減を知らなかったんだろう。


131 メア:何したの?その人。


132 ボス:ドラッグをやっていたんだ。


133 ライ:ボスの親友がドラッグを……?


134 ボス:あぁ。しかも、ドラッグに加えてギャンブルもやっていたよ。アカデミーを卒業してからあっという間にあいつは腐ってしまった。


135 ライ:その人はどうなったんです?


136 ボス:私がファミリーのトップであることをあいつは知っていたから、私に金を貸してくれと言ってきたよ。……あの頃の私も若かったからね、これで懲りるだろうと最初のうちは貸していたんだ。……それがそもそも間違っていたんだろうなぁ。


137 メア:その人は懲りる事無く金を借り続けた、って訳ね。よくある話。


138 ボス:あぁ。その通り。いくらだったかなぁ。もう忘れてしまったが、とてもあいつには返せないくらいの借金がたまっていたよ。流石に庇いきれなくなってね、あいつの家まで行ったんだ。いやぁ、酷い荒れようだったよ。ギャンブルとドラッグに浸かりきった父と母に、傷だらけの小さい娘……。



(ボスが黙る・間)



139 ライ:……ボス?


140 ボス:……あいつは、最低だった。……友としても、父親としても。……私に向かって言ったんだよ。『返せるだけの金がない。だから代わりに娘をやる。どこかのお偉いさんに売るでも、玩具にするでも、好きにしてくれていい。』ってな。……ふふ、そう言った時のあいつの顔は今でも忘れられない。


141 メア:……パパ?


142 ボス:こんな話をしてすまないね。こんな空気にするつもりではなかったんだ。


143 メア:ジェラートひとつあげるから、元気だして?


144 ボス:メアの分が無くなってしまうから、私は大丈夫。ありがとう。


145 メア:そう?食べないならいいけどーっ。


146 ボス:その気持ちだけで十分だよ。メアは優しい子だね。


147 メア:そ、そんな事ない、よ。


148 ライ:……ふふ。(笑いをこらえる)


149 メア:あ!今笑ったでしょ!


150 ライ:いや、笑ってない。


151 メア:絶対笑った!


152 ライ:いや……ふふ。


153 メア:ほら!


154 ライ:メアがそんなに照れてる姿なんてなかなか見ないから、その、新鮮で。


155 メア:照れてないし!……笑うな!


156 ライ:ごめんって。


157 ボス:2人とも、ホテルに着いたみたいだ。


158 ライ:あっ……すいません。


159 ボス:いや、いい。メアの笑った顔が見れたからな。


160 メア:ねぇ早くお部屋戻ろー?お風呂入りたい。


161 ボス:メア、先に部屋に戻っててくれるか?少しライと話したいんだ。


162 メア:……うん。わかった。


163 ボス:(部下に向かって)お前たち、話が終わったら連絡するからメアを部屋に送ってくれ。……おやすみ、メア。


164 メア:おやすみなさい、パパ。


<メアが車から下りる>


165 ボス:……最近のナイトメアの様子はどうだ?


166 ライ:特に変わりはないかと。


167 ボス:薬は?ちゃんと打ってるか?


168 ライ:はい、月に一度の投薬も問題なく。ボスが仰っていた副作用も出てないのでとりあえずは大丈夫かと。


169 ボス:ならいい。また今月も頼むよ。


170 ライ:分かりました。


171 ボス:あともう一件、お前が言っていた話だが、面識がある者が見つかった。


172 ライ:本当ですか?!


173 ボス:あぁ、うちのバッジをつけた黒いドレスの女だが、確かにうちの施設に出入りしていたようだ。


174 ライ:その人、今はどこに?


175 ボス:いや、今の場所までは分からない。……が、もしかしたらジルなら知っているかもしれない、と報告が上がっている。


176 ライ:でもジルさんは今行方が……。


177 ボス:あぁ、分かっているよ。ジルの捜索も同時に行っているから心配するな。お前はナイトメアの世話をたのむよ。


178 ライ:分かりました。


179 ボス:もう行っていいぞ。


180 ライ:はい。メアに会っていかれなくていいのですか?


181 ボス:もうすぐフライトの時間だ。あまり時間が無くてな。


182 ライ:そうでしたか、失礼しました。お気をつけて。




◇ 




【数日後・ライの部屋】



<メアがライの部屋のドアをノックする>


183 メア:お邪魔しまーす!


184 ライ:ちゃんと返事を待ってから開けてって前に言ったでしょう!あと、そんなにドアは叩かない!ドアが壊れる!


185 メア:えへへ、ごめんごめん〜。


186 ライ:ったく……レディになるには程遠いわね。


187 メア:えぇ、酷いんだから。まったく。


188 ライ:はいこれ。


<ライがメアに小さい箱を渡す>


189 メア:何これ?


190 ライ:ボスから。この前の任務のご褒美だって。


191 メア:やったー!さっそく開けちゃおーっと!


<中には一冊の本が入っている>


192 ライ:なんの本?


193 メア:『ザ・ウィッシュ・オブ・イーリス』だって。……ライ知ってる?


194 ライ:いや知らない……作者は?


195 メア:『ミカエラ・ミシェル』って人。


196 ライ:その名前、どこかで聞いたことがあるな。


197 メア:ライも本好きだもんね。この中にあるんじゃないの?その、ミカエラさんの本。


198 ライ:多分ね……。探せばあるだろうな。


199 メア:いやぁ、それにしてもすごいよね、部屋の一面が全部本棚なんておとぎ話の中だけだと思ってたよ。


200 ライ:いつの間にか棚ひとつじゃ収まらなくなってね。気づいたらこんなになってた。


201 メア:ねぇ、ライ?


202 ライ:なに?


203 メア:ライは、さ。……どこか親と似てるところってあるの?


204 ライ:何だ、また急に。


205 メア:この前パパが学生の頃の話してたでしょ?それで気になって。……私は小さい頃の記憶が無いから。


206 ライ:そうか。……似てるところか。それこそ、物の収集癖は母親譲り。母は香水を集めるのが好きだったから。


207 メア:そうなんだ……もう少し家族のこと聞いてもいい?


208 ライ:えぇ。いくらでも。……なんか飲む?


209 メア:ミルクティがいい。


210 ライ:分かった。……それで、何が聞きたいの?


211 メア:家族は元気?


212 ライ:いや。……(少し息を吐く)……両親は死んだ。妹は行方不明。


213 メア:そっか。


214 ライ:……反応薄いな。


215 メア:だって、裏の人間なんてみんなそんなのばっかりじゃん。今更「そうなんですか、可哀想ですね。」って言うのも違うでしょ。


216 ライ:まぁね。


217 メア:それで、どんな家族だったの?


218 ライ:良い家族、だったと思う。壊れるまでは。


219 メア:どういうこと?


220 ライ:私は小さい村の出身なんだけど、妹が産まれた後、大きな街に引っ越したの。でも、母は村から出たことが無かったし、父は少し偉い家の次男で、ちゃんと「働く」事に縁がない両親だった。だから家はどんどん荒れていってね。


221 メア:大変だったんだね。


222 ライ:私もまだ幼かったから何も出来なくて、ただ親が荒れていく姿を妹と一緒に見ていたよ。


223 メア:ライも、キッズなの?


224 ライ:何それ。


225 メア:パパね、よく孤児とか、両親と上手くいかない子供を拾ってくるの。だからパパが拾ってきた人のことをファミリーではそう呼んでるんだよ。でも聞いたこと無いならライは違うね。


226 ライ:あぁ。私は違うよ。


227 メア:じゃあなんでライは何でファミリーに入ったの?


228 ライ:さっき両親は死んだって言ったでしょ?……あの日、私は普通に学校に行って、友達と遊んで……っていつも通りの1日を過ごしてた。……最初は寝てるだけだと思ったんだ。


229 メア:え?


230 ライ:よくある血溜まりなんてどこにも無くて、部屋も荒らされてなかった。ただ2人がリビングの床に横たわってるだけ。


231 メア:そっか。……変なの。


232 ライ:私も思ったよ。なんかおかしいって。でも死んでるのは間違いなかった。


233 メア:まぁ死んでるかは見ればわかるもんね。……あれ?妹ちゃんは?


234 ライ:いなかった。家の中をいくら探しても妹はいなかった。もしかしたら迎えに行ってないのかもしれないと思って保育園まで走った。……でも……。


235 メア:いなかった?


236 ライ:……もう帰りましたよ、って言われて。警察も捜してくれたけど結局見つからなかった。その後、私は親戚の家に引き取られたんだけど……まぁ何も手につかない状態でね。新しい家族にも凄い心配されたんだ。


237 メア:今のライからは想像つかないね。


238 ライ:まぁあの時は酷かったから。それで……事件から1年くらい経った頃、妹が通ってた保育園から一通の手紙が届いたの。……その日、黒いドレスを着た女の人が妹を迎えに来たらしいって。


239 メア:妹ちゃん、嫌がったりとかしなかったのかな。


240 ライ:特に嫌がる素振りは無かったし、その日は親から連絡が入っていたから、先生方はそのまま妹を帰したらしい。


241 メア:本当に知り合いだったんじゃないの?両親の親戚とか。


242 ライ:いや、私も最初はそう思って親の知り合いにできる限り聞いて回ったんだがそんな人は1人も居なかった。……あの頃の私は、生きてるかも分からない妹を探すのに必死だったから、探偵に依頼したりなんかもしてね。


243 メア:もしかして……?


244 ライ:……その調査の結果、妹を引き取った女はうちのファミリーに関係がある者だったことが分かった。私もはそいつから妹の行方を聞き出したい。それが、私がファミリーに入った理由。


245 メア:……ライはさ、妹ちゃんはまだ生きてると思う?


246 ライ:生きてると信じてここまでやって来たの。今更死んでるだろう、なんて言えない。


247 メア:そっか。そうだよね、ごめん。


248 ライ:別にいいよ。……私の事知りたがるなんて珍しいな。どういう心境の変化だ?


249 メア:私には小さい頃の記憶が無いから、家族の事とか何も覚えてないの。パパからナイトメアって名前を貰った時より前の記憶は、なんか……モヤ?がかかってるみたいな感じでね、思い出せない。……だからライが羨ましい。


250 ライ:もう少し明るい話が出来れば良かったんだけど。


251 メア:ふふ、別にいいの。生みの親の記憶があるってことが私には羨ましい。……それすらない私はね、みんなと違って、自分の本当の名前も分からないんだよ。


252 ライ:ナイトメアって名前があるでしょ?

 

253 メア:それはコードネームだもん。…………ううん、私にはこの名前しかないから、本当の名前、か。


254 ライ:私はメアの名前、好きだけどな。


255 メア:名前の由来知ってるのに?


256 ライ:そうね。……えーっと何だっけ?白い髪に赤い目をもつ少女が笑いながら「遊ぼ?」って襲いかかってくるからナイトメア、だっけ?


257 メア:(呆れた様に)補足。その少女に襲われて無事帰れた者は、後々毎晩悪夢を見て飛び起きるようになる。悪夢を運ぶ少女。だから、ナイトメアって名前が付けられた。


258 ライ:知ってる。……こんな、どこにでも居そうな女の子が悪夢を運ぶんだもん、不思議なものね。


259 メア:白い髪に赤い目なんてどこにもいないでしょ。それこそ歴史に出てくる魔女くらいじゃない?


260 ライ:この時代に生まれてよかったね。


261 メア:それは言えてる。火炙りなんて怖すぎるもん。


262 ライ:そうね。今どき火炙りはナイ。


263 メア:私でもやらないよ。


264 ライ:後で焼死体を見るのは嫌だから勘弁してね。


265 メア:だからやらないって。私はドール遊びが好きなの。焦げたドールで遊ぶ趣味はない。


266 ライ:そうかそうか。ならよかった。


267 メア:……お茶冷めちゃった。


268 ライ:新しいの入れる?


269 メア:……ううん、大丈夫。……ライ、なんか本読んでよ。


270 ライ:いいけど、何がいいの?


271 メア:妹ちゃんに読んでた本とかないの?


272 ライ:それでいいの?


273 メア:うん。それがいい。


274 ライ:じゃあこれ読もうか。


275 メア:あ、この本の作者、さっきの人だ!


276 ライ:本当だ。この本だったか……。


277 メア:やっぱり持ってたね。


278 ライ:そうだね。


279 メア:えーっと……『スイート・マリア』?


280 ライ:いや、『スイート・メアリー』だよ。


281 メア:マリアって読むのかと思った。


282 ライ:珍しい、この綴りをマリアって読む人滅多に居ないのに。


283 メア:確か、どこかの宗教に出てくるマリアさんはこの綴りじゃなかったっけ?多分それで覚えてたんだと思う。


284 ライ:あぁ……私の妹もマリアっていうんだけど、そのメアが言ってるマリアさんから取ったんだ。


285 メア:ふーん……そっか。


286 ライ:……懐かしいなぁ。


287 メア:じゃあ読んで?


288 ライ:うん。







【後日・ボスの部屋】



<ライが部屋のドアをノックする>


289 ライ:失礼します。


290 ボス:あぁ、ライか。突然呼んですまない。


291 ライ:いえ、大丈夫です。……私も聞きたいことがあったので。


292 ボス:なんだ?


293 ライ:いえ、ボスのお話が終わってからで大丈夫です。


294 ボス:いや、いい。先に言え。


295 ライ:はい……先日、ボスのお話を聞いてからメアの様子がどうもおかしくて、ボスならメアがファミリーに来る前の事をご存知なのではないかと思いまして。


296 ボス:あの子は私の古い友人から代わりに育ててくれと頼まれて預かったんだ。だからあまり詳しいことは知らないんだよ。


297 ライ:そうですか……。


298 ボス:役に立てなくてすまないな。こちらでも詳しい事は調査しておく。進展があればまたお前に連絡するよ。


299 ライ:ありがとうございます。


300 ボス:で、本題だが……シークレットヴィレッジ。知ってるよな?


301 ライ:もちろん。裏に生きる人間なら、誰もが1度は耳にするワードです。


302 ボス:お前はそこの出身。違うか?


303 ライ:私は……リーズの出身です。


304 ボス:……その前は?


305 ライ:……あはは、調査済み、って事ですか。


306 ボス:あぁ。……リーズに移ったのはお前が探している妹が産まれた後だ。その前……生まれた村はどこだ。


307 ライ:アリエラです。


308 ボス:やっぱり神の村の生まれか。


309 ライ:えっと、それが何か?


310 ボス:お前の生まれた村には言い伝えがあるだろう?それを教えて欲しいんだ。


311 ライ:それは……。


312 ボス:友人から紹介された子供の中にシークレットヴィレッジ出身と思われる子が混ざっていてな、言い伝えに当てはまるか確認したいんだ。


313 ライ:当てはまったらどうするんです?


314 ボス:私が引き取ろうと思っている。


315 ライ:当てはまらなかったら?


316 ボス:私は引き取らない。


317 ライ:どうして?


318 ボス:一人の人間を育てるにもそれなりに金がいるんだ。育てるだけの価値が無いなら金は出さない。裏社会はそういう世界だ。お前も知ってるだろう?


319 ライ:そう……ですね。


320 ボス:で、言い伝えは?


321 ライ:……っ……。『赤い月が昇る日に生まれた子は不思議な力を持ち、赤い目をもつ子は死の女神に愛された子である。』


322 ボス:なるほど……。ありがとう。


323 ライ:あの、一つ聞いてもいいですか。


324 ボス:なんだ?


325 ライ:……メアは育てる価値があった。そういう事ですか?


326 ボス:あぁ。


327 ライ:メアへの愛情は偽物なんですか?


328 ボス:いや、メアは本当の娘の様に思っているよ。あの子は本当によく出来た子だ。今まで面倒を見てきた子供達の中で1番長いからな、私だって愛情くらいは湧くさ。


329 ライ:あれ……メアよりも歳が上で、先にキッズになった子もいましたよね?


330 ボス:あーアレの事か。アレは出来が悪かったしなにより相性が悪かったんだ。


331 ライ:その子たちはどうしたんです……?


332 ボス:裏社会の子供の扱いなんてお前もよく知ってるだろう?もういいか。この後も予定が立て込んでるんだ。


333 ライ:……はい。お邪魔しました。


334 ボス:あぁ、そうだ。最後に一つ。ジルの行方が分かった。


335 ライ:……え?!


336 ボス:これでお前の妹の事も分かるかもな。詳しい事はまた連絡する。


337 ライ:分かりました。


338 ボス:あと、メアの次の投薬は私がやるから。その件も追って連絡する。







<ライの携帯に連絡が来る>


339 ライ:んん……こんな時間に誰……。


<連絡を確認する>


340 ライ:あっ……ボスから……。


341 ボス:『ジルの詳しい話が分かった。メアのGPSを辿って来てくれ。メアと共に待っている。』


342 ライ:いつも急だな、ボスは。







【森の奥にある湖】



343 ボス:やっと来たのか、ライ。


344 ライ:すみません。遅くなりました。……メアは?


345 ボス:あそこだよ。


<ボスがメアの方を指差す>


346 ライ:……メア?


347 メア:ふふ、ライ。遅かったね。


348 ライ:……。


349 メア:ライ?どうかしたの?


350 ライ:あ……来ないで……バケモノ……。


351 メア:……どうしてそんなこと言うの?


352 ライ:やめて……こないで……!


353 ボス:この姿を見るのは初めてか?


354 ライ:こ、んなの……メアじゃない。


355 メア:メアだよ?


356 ライ:ちがう!


357 ボス:メア、ストップだ。ライが怯えてちゃ話にならない。力を抑えろ。


358 メア:了解、パパ。……あ、あれ、なんか、上手くいかない……。


359 ボス:あぁ、薬を打ってないからか。まぁいい。これが終わったら打ってやるからもう少し耐えられるか?


360 メア:うん。たぶん、大丈夫。……ライ、怖くない?


361 ライ:メ、ア……。


362 メア:怖がらせてごめんね……?


363 ボス:本題に入ってもいいか?


364 ライ:は、はい。


365 ボス:まずはジルの話からしようか。メア、ジル出せるか?


366 ライ:出せる……?


367 メア:うん。ちょっと待ってね。


<メアが力を使い死霊を呼び出す>


368 メア:今日はね、ライに私のお友達を紹介しようと思ってここまで来てもらったのもあるの。


369 ライ:……コレ、は?


370 メア:私のお友達だよ?


371 ボス:これを見るのも初めてか。……これがメアの力だ。


372 メア:メアのお友達はみんないい子なんだよ。


373 ボス:コレは全部人だったものだ。


374 ライ:……え。


375 メア:あぁ、そう、ジルの事忘れてた。えーっと。はいっ!


<メア、ジルの死霊を出す>


376 ライ:えっ……ジル、さん……?


377 ボス:ジルはこの通りメアの元にいる。頭のいいライなら分かるだろ?


378 ライ:死、んだ、


379 ボス:あぁ。ジルは死んだ。……あいつはいい働きをしたよ。メアの力を引き出したのはジルだからな。


380 ライ:……え?


381 ボス:メアとあの黒いドレスの女を引き合わせたのはジルだ。あの女はメアを気に入って弟子にした。『素質があるわ!この子!』って喜んでたな。


382 ライ:メアは……何なんですか?その、


383 ボス:メアはネクロマンサーだ。


384 ライ:ネクロマンサーなんておとぎ話じゃ……?


385 ボス:私もあの女を見るまではそう思っていたさ。こんな力を持っているなら、裏の人間が 喉から手が出るほど欲しがるのも納得がいくけどな。


386 ライ:こんなの人間じゃない……。


387 ボス:あとメア。あれを見せるんじゃなかったのか?


388 メア:そう!忘れてたよ〜!


<メア、両親の死霊を出す>


389 メア:はい!メアのパパとママだよ!ライは初めましてだよね!


390 ライ:お父さんと……お母さん……?なんで……?


391 ボス:メアが、お前の探してる妹だよ。


392 ライ:マリア……?いや、でも、マリアはこんな……違う!


393 ボス:自分で言ってたじゃないか。『赤い目を持つ子は死の女神に愛された子』だと。マリアの容姿を思い出せ。


394 ライ:私と同じ髪の色に……あ、赤い、目。


395 ボス:マリアは赤い目を持って生まれ、しかも神の村出身だ。……ふふ、まさか死の女神に愛された子がネクロマンサーの素質を持つなんてほとんどの人間が知らないだろうがな。


396 ライ:メアが、マリア?でも、お父さんとお母さんがなんでコレ、に?


397 ボス:ネクロマンサーの力が解放されるには色々と条件があるらしいんだ。強い願いみたいなものがなきゃいけないらしい。


398 ライ:願い……。


399 メア:私はパパとママと一緒に居たかっただけだもん……。


400 ボス:寂しかったんだよな、可哀想に。大好きな両親から愛されたかった……可愛いじゃないか。


401 ライ:生きていても、それは出来るじゃない……。


402 ボス:1番近くであの親を見てきたお前がそれを言えるのか?ギャンブルにハマり、ドラッグに浸かりきった親から愛が貰えるとでも?


403 ライ:でも、もしかしたら!


404 ボス:あの親は娘を売ったんだ。あいつらが子供を愛せるなんてありえない。


405 ライ:……。


406 ボス:愛されたい娘が、一緒にいたいが為に、父も母も大好きだった世話役の男も、みんな喰っちまったのさ。


407 ライ:訳わかんない……。


408 ボス:いやぁすごい偶然だよな?親友の娘がたまたま能力持ちで、そんな価値のある娘を金のかわりに私に売って。上手く能力を解放することができたし、今ではファミリーの顔だ。最高だよなぁ?


409 ライ:あれはメアの話だったのね……。


410 ボス:あぁ、そうだ。あのクズは、お前の父親の話だ。メアはそんな親でも一緒にいたいってな。


411 ライ:じゃあ両親を殺したのは……メ、ア?


412 ボス:自分の両親を喰って能力を解放したんだ。……あはは、本当によく出来た子だよ。


413 ライ:そっか……あはは……マリアは生きていたのね……あはは……。マリア、こっちにおいで、マリア。


414 メア:パパ、ライが変だよ?


415 ライ:あぁ、マリア……私の可愛いマリア。生きていたんだね。お姉ちゃんは嬉しいよ……。


416 ボス:メア、ライは今度遠くの国に行って仕事をしなくちゃ行けなくなったんだ。だからもうすぐ世話役じゃなくなる。


417 メア:また……ライもいなくなるの?いや……いやだ!いやだいやだいやだ!


418 ボス:そばに居たいか?


419 メア:ライは……メアのだもん。パパの命令でもダメ!


420 ボス:ならどうするんだ?


421 メア:ライ、これからもメアのそばにいて?


422 ライ:……うん。


423 メア:みんなで遊ぼうね


424 ライ:……もちろん……たくさん遊ぼう。


425 メア:ふふ、ありがとう。


<メアがライの魂を喰べる>


426 メア:ずっと一緒にいようね、お姉ちゃん。



(終)